夢幻温泉旅館−3
部屋に案内されると
「
「紅衣様、温泉に入りましょう!」
狐塚の名前は紅乃という。紅衣は狐塚に何を言われたか一瞬分からなかったようで、首を傾げている。少しすると話を理解したのか紅衣は目を輝かせ尻尾が上に向いた。
「温泉か!」
「旅館の女将に、紅衣様が大浴場に入る許可を頂きました」
「大浴場に!」
「話には聞いてはいたが、ここが妖魔が経営している温泉旅館か」
「紅衣様にも存じ上げられているとは、光栄です」
「此方が来ては邪魔になるかと来るのを
「邪魔などあり得ませぬ。見ての通り私は狐の妖魔。私は紅衣様を尊敬しております」
紅衣は夢野のまっすぐな言葉に照れたように、顔を洗うように前足を前後させている。顔を夢野から紅衣が移動させると、大狼に気づいた様子で声をかけている。
「
「紅衣様お久しぶりです」
「うむ。そうじゃ、真神お母様も呼ぶのじゃ」
「真神様もですか?」
紅衣が真神の事をお母様と呼ぶのは理由がある。紅衣は生まれた時から妖魔で、子供の頃に事情があって親代わりに紅衣を育てたのが真神だ。真神は面倒見が良く、紅衣を育てたのと同じように妖魔や、人間を育てては巣立たせているので、母親として慕われている。
「真神様も温泉はお好きだから聞いてみても良いですが、忙しくないと良いのですが……」
「真上お母様にダメだと言われたら諦めるので、召喚してみるのだ」
「畏まりました」
大狼が召喚の準備を始める。狐塚と同じように神具を取り出すと、並べた後に祝詞を唱える。紅衣の時と同じように床に阿史那神社の神紋が浮かび上がり、その上に柴犬サイズの真神が現れた。
「
「真神お母様!」
「紅衣?」
真神が大狼に話しかけたと思ったら、紅衣が真神に頭を寄せて甘え始めた。真神は急に擦り寄ってきた紅衣を全身を使って押さえながら、大狼に顔を向ける。
「斗真、此方が呼ばれたのはもしや紅衣が理由か?」
「紅衣様が呼んで欲しいと言われたのは事実ですが、紅衣様が真神様も温泉に入らないかとお誘いです」
「温泉?」
柴犬サイズで大きな紅衣に甘えられているので真神は大変そうだが、大狼から温泉と言われた瞬間に紅衣の相手をやめて、大狼の顔をじっと見ている。
「真神様が忙しくなければ紅衣様が一緒に温泉に入りたいようです」
「そうか、そうか。温泉ならば仕方ないな」
「真神様、よろしいのですか?」
「問題はないだろう」
真神が頷いた後に、大狼は夢野に真神を紹介したようだ。夢野が真神の登場に縮こまりながらも温泉旅館にようこそと、真神を歓迎している。そんな真神と夢野の会話の隣で、大狼が狐塚にお願いをしている。
「狐塚、申し訳ないのだが真神様をお願いできるだろうか?」
「分かっています。任せてください」
「真神様を男湯に入れる訳にはいかないからな。すまないな」
真神と紅衣が早速風呂に入りたいと言うので、大狼と狐塚も浴衣を手に部屋を出る。夢野の案内で大浴場へと辿り着くと、大狼だけ男湯へと入っていく。真神と紅衣はどちらも雌なので、狐塚と一緒に女湯だ。
「狐塚には悪いがのんびりと入れそうだ」
大狼がスーツを脱ぐと、タオルを手に浴場へと向かう。大狼はしっかりと体を洗うと温泉に浸かる。大狼はお湯の中で酷使した体をほぐすように自分でマッサージしている。大狼の体は鍛えているが同時に傷だらけだ。
「気持ち良いな」
女湯では同じように狐塚がしっかりと体を洗って、紅衣と真神を同じように洗って、一人と二柱は温泉に入ると紅衣と真神が歌を歌うように鳴き始めた。
「紅衣様、真神様、気持ちいですか?」
「大変気持ちいいぞ」
「同意じゃ」
温泉を満喫した二人と二柱は温泉を出ると、部屋へと戻っていく。部屋には夢野によって食事が準備されており、大狼と狐塚の分だけではなく真神と紅衣の分まで用意されている。
「む、気を使わせてしまったか」
「そのようです真神お母様」
真神と紅衣は耳が下がっている。夢野が来ると真神と紅衣が謝っている。夢野は時間が時間なので量は用意していなし、少しだけ味見をして行って欲しいと伝えている。
「次回来られる事がありましたら、参考にして頂けたら幸いです」
「温泉を気に入ったので是非また来たいのだが、此方が来て騒ぎになって迷惑をかけてしまうのは申し訳がない」
「迷惑など。むしろ真神様に話しかける者が多いと思いますので、こちらの方が謝らなければならない状態になってしまうかもしれません」
真神は夢野が問題のないようならまた来ると伝えると、夢野はお待ちしておりますと、弾んだ声で返事をしている。紅衣も夢野にまた来ると伝えると、夢野は声を弾ませて返事をした。
「それではお仕事終わりのお二人がお腹を空かせておられると思いますので、料理を召し上がってください」
「おお。そうであった。それでは此方も食べるとするか」
真神と紅衣が用意された食事の前に座ると、大狼と狐塚も食事の前に座る。夢野の説明の後に二人と二柱は食事を始めた。二人と二柱は美味しいと料理を食べていく。真神は食事を食べながら紅衣と話をし始めた。
「ところで紅衣は随分としっかり召喚されておるな」
「
「以前から紅衣に事情は聞いてはいたが、思ってた以上の使い手のようだ。
狐塚は自分の話になるとは思っていなかったのか視線を彷徨わせ、真神に大狼ほどではないと否定した後に、お礼を言っている。真神は今大狼を越えるのは無理でも、訓練次第では大狼を越えられるだろうと狐塚に言っている。
「
「真神様、ありがとうございます」
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