夢幻温泉旅館−1
「先輩、私のスーツひどい状態です」
「私も同じだよ。着替えを持ってくるべきだったな」
「はい。失敗しました」
ふるいで土を分け続けたので、泥だらけとまでは行かないが靴から頭の上まで土埃をかぶってしまったようだ。大狼と狐塚はある程度服を払ったところで、諦めたのか覆面パトカーに乗った。大狼はスーツの上着を後部座席に乗せた後に、シャツを触ると眉を顰め、ため息をついた。
「さっさと風呂に入ってしまいたいな。温泉旅館だから浴衣もあるだろうし」
「浴衣はあるかもしれませんが、明日の服はどうします?」
「これをまた着るのか。汗もかいているし着たくないな」
時間はすでに二十二時を回ったところで、日付が変わる前に作業を終わることはできたが、服を売っているような店が開いているような時間ではなく、しかも山の中なので近くに店はない。
「狐塚、どうする?」
「コンビニがあれば、ある程度の服は買えそうです」
「コンビニか、あると良いな」
どう言うことかと尋ねる狐塚に、大狼が温泉旅館の位置を狐塚に説明をして位置情報を携帯で送っている。狐塚が送られてきた位置を携帯で確認すると、顔を引き攣らせている。
「何ですかここ?」
「墓地から一番近い宿泊施設の
「近いですけど、山の中じゃないですか!」
狐塚が携帯を指差しながら大狼に詰め寄る。大狼がそこしか泊まれそうな場所が無かったと言うと、狐塚は諦め切れないのか携帯で温泉旅館までのルートを調べ始め、若干遠回りになるがコンビニのあるルートを探し出したようだ。狐塚の案内で大狼が運転をして覆面パトカーが走り出す。
「すまないな、狐塚」
「仕方ありません。さっきコンビニを調べるついでに調べましたが本当にホテルがありませんね」
「狐塚が調べても同じか。やはり周辺にホテルはないようだな」
大狼の運転で墓地の道を下って行くと、道の先で警察が検問をやっているようだ。大狼が狐塚に検問をしていると伝えると、狐塚は不思議そうにしている。
「こんな場所で検問ですか? 墓荒らしのための検問ですかね?」
「墓荒らしのためにこんな時間に検問しても意味ないだろ」
「それじゃあ何のためでしょうか?」
「行きに走り屋が走りそうな道だと話した記憶があるが、本当に走り屋が峠ぜめでもしているのか?」
狐塚がどうせ止められるのだから聞いてみようと言う。検問をしている警察官に誘導されて大狼が運転する覆面パトカーは止められる。警察官が声をかける前に大狼と狐塚が警察手帳を出して、事情を説明すると検問をしていた警察官は事件のことは聞いていると言う。
「ここは何のために検問をしているんですか?」
「峠ぜめをする走り屋のルートになっていまして、走り屋の摘発をするため不規則に検問をしているんです」
「それはご苦労様です」
狐塚は話すのを大狼に任せていたが、携帯で道を確認し始めた。狐塚は何かに気づいたのか、検問をしていた警察官に走り屋は毎日走っているのかと検問は毎日しているのか尋ね始めた。
「ええ。基本的には毎日走り屋はこの道を走っているようです。我々は毎日検問する訳にはいきませんので、不規則に検問をして走り屋の量を減らそうとはしているのですが、一度大量に摘発する必要があるだろうと署内で話にはなっています」
「検問か走り屋が墓荒らしがあった事件当日のここ二日の夜に、不審な車を見たか確認できませんか?」
「検問は残念ながら久しぶりなので、確認はできないのですが、走り屋なら見ている可能性はありますね」
検問をしている警察官が無線で確認を始めた。少しすると返事があったようで、警察官が狐塚に話しかける。
「止めた走り屋に不審な車がなかったか聞くように伝えました」
「ありがとうございます」
「不審な車の情報があったら何処に連絡をすれば良いでしょうか?」
「私たちは警視庁から応援に来ているだけなので、群馬県警の陰陽課に連絡してくれれば良いと思います」
陰陽課と狐塚が言った瞬間、検問をしている警察官の顔が引き攣る。陰陽課と言ってここまで拒否反応を示す人は珍しいが、居なくはないので狐塚が和かに笑いながら声をかけた。
「オカルトとか苦手ですか?」
「ええ、幽霊とかが苦手でして。墓地の事件だとは聞いていましたが、陰陽課の担当になったのですね」
「そうなんです。幽霊ではないようですから安心してください」
「はい」
検問していた警察官は余程苦手なのだろう随分と和かに笑って頷いた。
術師から見ると、幽霊が存在しているかは微妙な所だ。術師が体を捨てて妖魔になろうとしている場合に、選択肢の中に幽霊に似た存在はいるのだが、それは幽霊と言うには別物だ。術師以外で幽霊になる場合も無くは無いのだが、かなり弱い存在で、神社やお寺が管理している地域に入ったら消えてしまう。
「こちらから群馬県警の陰陽課にも連絡をしておきます」
「分かりました。こちらも情報が入り次第、陰陽課に連絡をするように伝えておきます」
狐塚と検問をしている警察官との話が終わった所で、挨拶をして別れる。大狼が覆面パトカーを発進させると、狐塚が携帯で電話をかけ始めた。狐塚は松本の電話番号が分からなかったからか、群馬県警に連絡をして陰陽課に伝言をお願いしている。狐塚の電話が終わると大狼が狐塚に話しかける。
「走り屋が犯人を見ていた可能性によく気づいたな」
「道は山の向こうまで続いているようですが、墓地までほぼ一本道ですから遺体を積んで走り屋のようには走りませんから、走り屋なら事故になりそうになって覚えているはずです」
「だろうな。遺体を積むなら大きめの車だろうし、十二体もの遺体を運んだんだ時間がかかっている筈だ」
大狼が運転する覆面パトカーが山の麓まで来ると、麓には昼間には人も車も全く居なかった場所に車が大量に止められており、車の近くには大量の人が集まっている様子が見える。
「これは凄いな」
「道が綺麗だとは思っていましたが、ここまで集まっているとは思いませんでした」
「これは犯人が運転していた車の情報が集まるかもしれないな。ドライブレコーダーの提出は嫌がるかもしれないが、走り屋だから車の車種には詳しいだろ。」
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