墓あらし−6

 術師が何かしらの術を使えば痕跡がその場に残る。使い魔が使う力も術に通づる物なので、何かすれば術師同様に痕跡が残ることになる。だが今回はそのような痕跡が残っていない事もあって松本は苦労しているようだ。


「掘り返した方法が分かったとしても、どうやって棺の蓋を開けたのかもよく分かっていません。棺の大きさの穴では蓋を開けるのが難しいですし、そもそも棺は釘を打ち込むようなのです」

「大きく穴を掘らないと棺の蓋を開けるのは難しいですね。しかも棺には釘を打ち込んであったのですか。棺の縁に穴が空いているのは確認していましたが、あれは釘の跡だったのですか」


 市の条例によって土葬の場合は埋葬方法が細かく決まっており、条例の中に遺体が土壌を汚染しないようにと決められている。条例を守るためには棺の蓋が開かないようにしないといけなく、何らかの衝撃で棺が開かないように、棺と棺の蓋を釘を打ち込むようになったと松本が説明した。


「土葬の墓地を作るのはかなり大変だったと聞いています。条例を作る事で市は土葬を許可しました。市は許可をしても、住人の理解を得られる場所がここしか無かった為に、このような山の中に墓地を作ったと聞いています」

「私は宮司なので少し分かります。神道は本来土葬ですが、神道でも管理が面倒だと実際に土葬する人は減っていますからね」

大狼おおがみさんは宮司でしたか。この墓地を管理している教会はそのような事情があるのために、かなり慎重に管理をしていたようですよ。ですから神父はあのように大変落ち込んでおられるようです」


 墓地の見た目では分からないが、一度地面は全て掘り返されており、下にコンクリートが敷かれており、万が一の場合でも土壌の汚染が広がらないように対策されている。コンクリートを敷くまでの事は条例に書かれていないが、周囲の理解を得るために教会はかなりの労力とお金をかけて墓地を完成させている。


「そこまでしっかり管理をされているなら詳しく書かれた名簿も存在していますか?」

「あるようなので神父に協力をお願いして見させて頂きました。明らかに掘り返されている墓地の情報です」


 松本が大狼に紙の名簿を手渡すと、大狼と狐塚きつねづかが名簿を確認していく。日本人の名前もあるが、ほとんどが英語で書かれカタカナで振り仮名が振られた名前や、アラビヤ語で書かれて同じように振り仮名が振られた名前が書かれている。


「アラビア語の方も居られるのですか」

「日本だと埋葬できる場所が少ないと、埋葬場所が見つかるまで貸し出しているようです」

「なるほど」


 大狼が松本と話している間も狐塚は名簿を確認しており、狐塚は何回も同じ情報が書かれた紙をめくったりして何かを確認している。確認を終えたのか、狐塚が松本に話しかける。


「荒らされたお墓に埋葬されたのは、女性が多くありませんか?」

「ええ。そのようなのです。日本語の名前と、アラビア語の名前ははほとんどが女性で、英語の名前が半々ですね」

「女性を狙ったとしたら英語の名前が分からなかった可能性がありますね」

「かもしれません」


 昨日遺体が盗まれた事件では、魔力の使い方がオーストリア出身の魔法使いとは違ったようだと、狐塚が松本に説明している。


「オーストラリア出身の魔法使いですか。魔力の使い方が違うと言うことは、アラビア語を元にした魔法使いではないと言う事ですか?」

「違いますね」


 魔法使いにも色々いるが、陰陽課に在籍しているヨーゼフが得意としている魔法はドイツ語や英語で構成させている。アラビア語を元に構成させている魔法も多くある。日本にも多くのアラビア語を元に構成された魔法を使う魔法使いが住んでいる。


「アラビア語を使う魔法使いの可能性がありますか。少しは絞れましたが、まだ数が多すぎますね。今日回収した欠片を一つ警視庁の陰陽課に持って帰って、同じ魔力かを確認して貰えませんか」

「今日は出張扱いになっていまして、結果を報告できるのが、明日以降でも良ければ預かります」

「出張扱いになってしまいましたか。申し訳ないです。応援を依頼したのが遅かったようですね」


 大狼と狐塚はこのような大規模な事件なら仕方ないと、松本に伝えている。松本は数日かかっても良いので確認して欲しいと欠片の入った容器を狐塚に渡している。


「それでは結果が分かり次第連絡します」

「お願いします」


 松本が先ほど証拠を探して貰った墓の近くにある別の荒らされた墓を探して欲しいと、大狼と狐塚に頼んでいる。大狼が空を見上げた後に、松本に尋ねた。


「随分と暗くなってきましたが、まだ探すのですか?」

「明日雨の予報でして、急いで探しているのです。魔力の痕跡が消えるだけでなく、荒らされて出来た穴に水が溜まってしまいます」

「急いで埋め戻したいと言う事ですか」

「ええ。申し訳ないですが、もう少しお手伝いをお願いしたいのです」


 証拠の探し方も分かったので、陰陽課ではない警察官も動員して捜索すると松本が言う。残った欠片だけを陰陽課の術師が触れば魔力があるかどうかは分かるので、作業時間はかなり短縮されそうだ。


「分かりました。お手伝いします」

「ありがとうございます」


 松本はまず発電機と照明が入っている車を用意した。大狼と狐塚は松本から発電機と照明を車ごと借りて、次の荒らされた墓に案内される。大狼と狐塚は借りた照明を設置して、コードを発電機に接続する。


「発電機に照明ですか」

「簡単には帰れなさそうだと思っているな?」

「はい。すでに土まみれで大変ですし、想像以上に大変です」

「俺もそう思うよ」


 大狼は発電機をつけてうるさくなる前に、温泉旅館に到着が随分と遅れそうだと連絡を入れると狐塚に話した後に、大狼は携帯を取り出して連絡をしている。大狼が電話で温泉旅館に事情を説明して電話を切ると、狐塚に話しかけた。


「遅れても問題ないと許可を貰った」

「良かったです。旅館だから断られるかと思いました」

「ああ。許可してくれて良かったよ。ご飯も用意しておいてくれるってさ」

「冷めてても良いので食べれるだけでありがたいです」


 大狼と狐塚は発電機の電源を入れると、土の中を探す作業を開始した。大狼と狐塚の作業は空が完全に暗くなってからも続いた。

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