墓荒らし−5

 墓荒らしが掘り返した土をふるいにかけて見つけ出した欠片を、大狼おおがみが手に持って狐塚きつねづかに見せる。大狼が持っている欠片は土に汚れているが、葬儀場で見つけた欠片と何処か似ている。狐塚は大狼の手のにある欠片を確認している。


「昨日の欠片と似てますね」

「ああ。しかもブラックライトで光った」

「同一犯の可能性が高まりましたね」

「今のところは似ているだけだが、そうだな」


 大狼が容器に欠片を入れると作業を再開する。作業を続けると狐塚も欠片を見つける。土の大半を探したが、土の量に対して見つかった欠片の量は少ない。


「ふるいの網目の大きさを変えればもっと見つかりそうですけど、やってたら作業終わりませんね」

「そんなに小さい欠片を見つけたところで、使い物にはならないだろしな」

「ですね」


 欠片の大きさで残っている魔力量も変わってくるので、あまりに見つけた欠片が小さいと、失せ物探しの術をするにも残っている魔力が足りない場合がある。葬儀屋で見つけた骨の欠片は小さすぎるのだが、骨の欠片が複数あるので同時に使えば探せる可能性がある。


「一箇所でこれだけ欠片が出たのだから他にもあるだろう」

「大きいのを探す方が先ですね」


 大狼と狐塚は欠片を入れた容器を無くさないように片付けてから、再び周囲を確認している。


棺桶かんおけの蓋は外に放置されているな」

「はい。蓋とはいえ重そうですね」

「そうだな。棺桶は穴の中か」

「そうみたいです」


 大狼が棺桶の蓋をブラックライトで確認している間に、狐塚が穴の中にある棺桶を覗き込む。狐塚は、じっと遺体のない棺桶を見てから大狼に話しかける。


「棺桶も確認したいですね」

「蓋には特に何も無さそうだ。棺桶も確認してみるか」


 大狼が穴の縁に腰掛け、棺桶の縁に足を乗せようとしている。大狼の身長でも明らかに棺桶までの距離があるようで、狐塚が大狼を止める。


「先輩、それ上がって来れます?」

「上がれないことはないと思うが、梯子はしごが欲しいな」

「梯子は持って来なかったので借りてきます」

「頼む」


 狐塚は松本の元まで行って、梯子を借りて大狼の元へと戻ってくる。大狼が狐塚にお礼を言っている。大狼が梯子を使おうとするが、棺桶の中に入れないように使えないかと試しているが、無理なようで諦めて棺桶の中に梯子を入れる。


「遺体がないので問題ないのだろうが、棺桶の中に梯子を入れるのは申し訳なさがあるな」

「罰当たりな気がしますね」

「諦めて降りるしかないか」


 大狼が梯子を使って穴を降りて棺桶の縁に足を掛けて降りる。大狼は棺桶の中をブラックライトで照らして確認し始めるが、遺体が元々あった場所ということで光っている場所が多い。


「ブラックライトは意味がなさそうだな」

「先輩、怪しい物は無いんですか?」

「怪しい物か」


 大狼が棺桶を調べ始めた、枯れた花や一緒に埋葬された遺品を順番に確認している。大狼が上から下まで確認が終わったところで、棺の縁に置いていた足を梯子に置いて足をほぐすように動かす。


「棺桶の淵に穴が空いているが術の痕跡こんせきは残っていない。見た限りは怪しい物は何も無さそうだな。埋葬品まいそうひんから埋葬されていたのは女性だと分かった程度だ。」

「遺体は回収されただけですか」

「その場で遺体に何かをしたような術の痕跡は感じられないな」


 大狼は梯子を登って穴の中から出てくる。大狼が棺桶の中から梯子を回収しようとしたところで、大狼の動きがとまる。大狼は掘られた穴を見回すように視線を動かした。


「狐塚、この穴は棺桶の形で綺麗に掘られていないか?」

「本当ですね。目印でもあったんですかね?」

「土葬について詳しくはないが、ここまで的確に掘り進めるのは普通無理だと思うぞ」


 大狼が他の穴も同じように的確に掘り返されているのか気になると、大狼と狐塚は掘り返されている穴を順番に見て回る。大狼と狐塚が見て回った全ての穴は的確に掘り返されており、綺麗に棺桶の形に穴ができている。


「遺体を探し当てるのが、使い魔の能力か?」

「先輩、それも不思議ですけど、墓荒らしをしている墓の距離が結構離れていません?」

「狐塚と探した墓は少し離れているな」


 大狼と狐塚が最初に松本に会った場所は教会の南側で、大狼と狐塚が探した墓は教会の北側になっており、教会の近くとは言え墓と墓の間はかなり離れている。他の墓が荒らされている場所も法則があるように見えない。


「松本さんに報告してから、色々と尋ねるか」

「分かりました」


 大狼と狐塚が松本に話しかけ、見つかった欠片を見せて調べた事を報告している。松本は目を丸くして、大狼と狐塚に話しかけた。


「警視庁のお二人は凄いですね。こんなにすぐ見つけてしまうとは」

「いえ。直近に似たような事件がありまして、関係あるかもしれないと調べ方を最初から絞っていたのです」

「似たような?」


 大狼が葬儀屋から遺体が盗まれた事件について松本に説明をすると、松本は納得した様子で頷いている。


「日本で遺体が盗まれるなんてそう無いですから、しかも直近となれば怪しいですね」

「はい。なので葬儀屋の事件を担当した私と狐塚が応援に来たのです」

「そういうことですか。となると我々も土から欠片を探したほうが良さそうですね」


 大狼は探し方を教えた後に、事件で分かった事を警視庁と群馬県警で共有し、共同で捜査しようと松本に提案した。松本は大狼の提案に乗って、共同で事件を捜査する事に同意した。


「それと少し気になった事があるのですが、墓荒らしは墓穴を綺麗に棺桶の大きさで掘っているようです。目印などあるんですか?」

「我々も気づいてはいるんですが、どうやったのかは分かりません。神父に聞いたところ、目印になるのは上にある墓石位で、他には目印のような物はないとのことです」

「墓石ですか。確かに除けられていましたね」


 墓石の下に棺桶はあるが、重たい墓石を除けないと掘り返すことは不可能で、百キロ近い墓石をどうやって除けられたのかも不思議だと松本が言っている。松本の話に、大狼が視線を下げて芝生を確認した。


「ここもそうですが、何処にも重機が通ったような痕跡が芝生にありません」

「重機をなしで掘り返したとなれば術か、使い魔の力なだと予想できますが、土にも墓石にも術を使った痕跡が残っていません」

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