墓荒らし−4

 教会内に入ると、目の前に立派なステンドグラスが最初に目に入るように設計されている。外と同じように教会内もとても綺麗にされており、神父が教会を大事にしていることがよく分かる。神父はそんな教会で跪いて祈りを捧げているようだ。


「エブラハム神父、よろしいでしょうか」

「はい。松本さんどうされました?」


 群馬県警の松本が声をかけたエイブラハムという人物は、跪いた状態から立ち上がると、大狼と同じような百八十センチ近い身長のようで、日本人からすると大柄な人のようだ。松本が大狼おおがみ狐塚きつねづかをエイブラハムに紹介して、捜査を手伝ってもらうので出入りする事になると、エイブラハムに松本が伝えている。


「承知致しました。私の管理ミスのために東京から来て頂きましてありがとうございます」

「なんとか手掛かりを探してみます」

「お願い致します」


 大狼と狐塚が離れるとエイブラハムは再び祈り始めた。その姿は懺悔するようにも見え、エイブラハムの苦悩が見えるような痛々しい姿だ。大狼と狐塚が教会を出ると、大狼が松本に話しかける


「エイブラハム神父は相当落ち込んでおられますね」

「ええ。私が先ほど通ってきた場所の墓荒らしの様子は見ましたよね?」

「はい。かなり酷いですね」

「実はあれは一部なのです。順番に案内しますので一度全てご覧になってください」


 松本に案内されて大狼と狐塚は墓地を回っていくと、すごい数の墓が荒らされており、一部の遺体はバラバラにされた状態で、警察によってブルーシートの上に安置されているが、遺体はひどい状態だ。流石の大狼と狐塚も顔を顰めている。


「これは酷いです!」

「同意する。だが、こんなに墓を荒らして何がしたいんだ?」

「言われてみれば。ここまで死体を集める意味はなんでしょうか?」

「しかも一部の死体は酷い状態で残っていたぞ?」


 遺体を使う術は多いが、ここまで大量に使う術は珍しい上に、遺体が欲しいからと墓荒らしをするにも、簡単に掘り返せるような深さではない。しかも掘り返した遺体の一部は何故かそのまま放置されている。


「我々も遺体が残っているのは不思議でして。土壌や地下水を汚染しないため、棺桶や棺桶の蓋も特注ですからかなり重いですし、埋葬されている場所まで簡単に掘り返せる物ではありません。そこまでして苦労して掘り返した遺体を残すのは意味がわかりません」

「相手が魔法使いならば魔法に必要な条件が合致しなかったのでしょうが、遺体を見ただけではわかりませんね」


 遺体が残っているのは一体だけはなく、どのような特徴があるかを大狼が松本に尋ねているが、遺体の腐敗が激しく共通点を調べるのが難しいと松本が返す。


「かなり荒らされているので遺体が元の位置にあるのかも分からない状態で、埋葬されていた名簿と照らし合わせるのも大変でして」

「困りましたね。それで盗まれた遺体の数は分かっているのですか?」

「棺桶が見えるまで掘られた穴の数を数えると、穴の数は十五あるのですが、残された遺体を考えると十二体だと考えてはいます」


 松本は更に、土葬の場合は条例で土地の大きさに対して埋められる遺体の数が決められており、埋葬時に申請するための細かく書かれた書類もあるので、数は合っているだろうと言う。


「ただ遺体の損傷が激しいので絶対とは言えないのです。お二人には術の痕跡と、掘り返された墓穴の中に遺体の痕跡が残っていないかを確認して欲しいのですが、お願いできますでしょうか」

「分かりました」


 大狼と狐塚に任せられた場所は他の荒らされている墓からは少し遠く、荒らされた墓の間には別の墓が存在している。大狼と狐塚は荒らされた墓の周りを調べ始めた。


「すぐに分かるような痕跡はありませんね」

「流石にな。また大変そうだなこれは」


 棺が埋まっている場所までは二メートル近くあり、掘り返された土が山になっており、その山の上に大狼が立って、墓穴を覗き込んでいる。棺の中には遺体があったであろう痕跡はあるが、現在は埋められた時に一緒に入れられた埋葬品しか残っていない。


「遺体は当然なしか。これはまた狐塚の失せ物探し頼みになりそうだな」

「それでは先輩にはブラックライトを」

「ああ。それがあったか。だが昼間でなおかつ、この大量の土では難しそうだな。その前にシャベルとふるいが必要だな」


 大狼と狐塚が覆面パトカーに積んでおいた道具を取り出すと、重いものを大狼が持って任された墓まで戻る。大狼がシャベルとふるいを一組狐塚に渡し、狐塚が持っていた鞄を大狼に渡す。大狼は鞄からブラックライトを取り出す。大狼と狐塚は中腰になって土をかき分け始めた。


「先輩、これは腰にきそうです」

「頑張れ、温泉が待っているぞ」

「温泉くらいでどうにかなる量の土じゃありませんよ」


 土の量は二メートルの深さに、縦横も人が入る棺の大きさ掘られているので、その分土の量も大量だ。それが無造作に掘り返されているので、土を入れてふるいにかける作業は終わりそうにない。


「そもそもこんな量の土をどうやって掘り返したんでしょうか」

「芝生に重機の後もないから手動でやったのだろうが、こんな量を気づかれずに掘り返すのは無理だろから、使い魔だろうな」

「そうだとは思いますけど、土にも魔力が残っていないと言うことは、使い魔は土に術を使っていません。そうなると、これだけの量を掘り返すのに何体の使い魔を用意すれば良いんですかね?」


 土に対して術を使えば土に術の痕跡が残る。今回は土の術の痕跡が残っていない。大量の使い魔で掘り返したと考えられるが、使い魔は術師の力量次第では何体でも呼び出すことは可能だが、数が増えれば当然使い魔を操るのが難しくなる。墓を掘り返すという簡単な命令だとしても相当な技量が必要になる。


「かなり熟練の術師だろうな」

「そんな術師が何でこんな風に遺体を欲しているのかが不思議です」

「確かにな。代用品がある現代で遺体をそこまで欲することは少ない。なので何か法則はあると思うが、まだ分かっていないようだな」


 大狼と狐塚は会話をしながらも土をふるいに入れて、ふるいに残った物を確認している。大狼がふるいにかけた物をブラックライトで照らすと光るものがある。大狼は光った物を手に取る。


「狐塚、あったぞ」

「本当ですか?」

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