墓荒らし−3

 狐塚きつねづかが運転する覆面パトカーは高速を降りて、群馬県内の住宅地を抜けて山の方へと走っていく。山の中に入っても道が綺麗で狐塚は順調に覆面パトカーを運転していく。


「不自然なくらい山の中なのに道が綺麗ですね」

「そうだな。墓地までこのままなのか?」

「かもしれませんね」

「ここまで綺麗だと走り屋が出そうだな」

「ありそうですね」


 大狼おおがみと狐塚が普通の警察のような会話をしながら、ナビに従って綺麗な道以外は鬱蒼とした木が生える山の一本道を進んでいく。覆面パトカーが進んでいくと、急に木が消えてかなりの広さの芝生が出てくる。


「この規模の芝生は凄いですね」

「山の中で芝生をよく維持できるな」

「管理するための労力と、管理費が凄そうですね」

「山の中だと、神社の境内を砂利にしていても大変だからな。私も草むしりや木の伐採をしていたぞ」


 大狼の実家である真神の阿史那あしな神社は山の上にあるため、神社の手入れをサボれば山に境内が侵食される。山全体が境内ではあるので、真神まかみの力が削がれるような事は無いのだが、神社の社が森の一部では格好がつかない。阿史那あしな神社はかなり大きな神社であるため、見た目を維持するのがとても大変だ。


「うちはそういうの無いから楽ですよ」

「狐塚は稲荷神社が都心部で楽そうだな」

「境内は広いので管理は大変ですが、先輩の実家ほどではありませんね」


 狐塚の実家である稲荷神社は埼玉県にあるが、東京のすぐ隣で立地はかなり良い場所だ。しかも狐塚の稲荷神社は丘の上にあり丘の下は全てが住宅街になっている。そのため稲荷神社の管理は山の上にある大狼の阿史那あしな神社ほど大変ではない。


「周囲は芝生なのに墓地はありませんね。墓地予定と予想できる杭は打ってありますが」

「そうだな。墓地は手前から埋まると思ったが奥から埋まっているのか?」

「確かに出入りが簡単な手前が先に埋まりそうですよね」


 大狼と狐塚が両隣が芝生の綺麗な道を覆面パトカーで走っていくと、道の先に大量のパトカーが止まっている場所が見えてくる。止まっているパトカーの更に奥には大きな教会が見える。狐塚がパトカーの近くに覆面パトカーを止めると、大狼と狐塚は車を降りる。


「こんな場所があるの初めて知りました」

「そうだな。知らなかったのが不思議なくらい立派な教会だ」

「陰陽課に入ってから色々と調べてから、宗教施設には詳しい方だと思っていましたが、そうでもなかったようです」

土御門つちみかどさんも知らないような言い方だったからな。知らなくても仕方ないかもしれないぞ。しかし勝手がわからんな。とりあえず、まずは声をかけるか」


 大狼が近くの警察官に挨拶をして、応援に来た陰陽課だと名乗りながら手帳を見せると、警察官は群馬県警の陰陽課の署員まで案内してくれたようだ。改めて群馬県警の陰陽課の警察官と大狼と狐塚が挨拶をし始めた。


警視庁妖魔局陰陽課けいしちょうようまきょくおんみょうかの大狼です」

「同じく警視庁妖魔局陰陽課の狐塚です」

「群馬県警陰陽課、松本です」


 松本と名乗った男はスーツを着ているが、僧侶なのだろう坊主頭で線香の匂いが漂う。松本は坊主頭でスーツ姿なので威圧感はあるが、顔は穏やかな表情をしている。そんな松本の雰囲気に釣られたのか大狼も柔らかい表情になって、穏やかに松本と話を始めた。


「遠くまでご足労いただきありがとうございます」

「いえ、ところで立派な墓地ですね。お恥ずかしい話なのですが、この墓地の事を知りませんでした」

「日本では珍しい土葬の墓地ですし、あまり便利な場所とは言えませんから、同じ宗教でなければ知らなくて当然かと」


 群馬県警の松本は教会の神父に一度挨拶するようにと言って、大狼と狐塚を教会へと案内する。教会は外から見ても非常に綺麗にされており、実際に使われて大事に運用されているのが外見を見ただけでもわかる。松本が歩きながら大狼と狐塚に話しかける。


「神父は管理を失敗したと落ち込んででおられるので、詳しいことは聞けないかもしれませんが、お二人には掘り返された墓地を調べるのを手伝って欲しいのです」

「分かりました。ところで神父は術というか、教会風に言うと神秘しんぴを使えるのですか?」


 術は色々な言い方をされる。魔法使いなら魔法、教会なら神秘と、使う術師によって変わってくる。だがどの術も根本にある力はほぼ同じだと言われており、力をどのように変えるかで魔法になったり神秘になったりと変わっていく。


「ええ。警察にも登録されております。態々海外からこられた神父で、かなり優秀な神秘の使い手だと聞いております」

「態々海外からですか。それは優秀な方なのですね」


 宗教系は術を使えないからと言って神父や、神職になれない訳ではない。逆に魔法使いなどの秘密結社は術が使えないと入れない。宗教系の場合は術が使えない場合は出世が遅れるが、術を使える場合と同じように地位は上がっていく。


「そんな優秀な方が何故墓荒らしを止められなかったのですか?」

「他県で教会に関連する講演があったようで、二日ほど泊まりで移動されていたようです。そのため神父は教会を不在だったようなんです」

「神父の留守を狙われたのですか」


 教会を手伝っている者や、神父の足取りはしっかりとアリバイがあり、神父や周辺の人物が犯人の可能性は無いだろうと、松本が大狼と狐塚に説明している。


「神父の留守を狙ったのなら、事情を知っている人が犯人の可能性がありませんか?」

「我々もそう思ったのですが、神父が講演するのはソーシャルメディア上で宣伝されていたようで、知っている人はかなりの数になるかと」

「それでは犯人を絞れませんね」


 荒らされた墓の間を通って、教会の正面まで松本、大狼、狐塚は話しながら歩いて行く。松本が大きな扉の前で警備をしている警察官に神父が中か尋ねると、神父は教会の中にいると返事を貰っている。教会の扉を開ける前に、松本が大狼と狐塚に再び注意をする。


「神父は自分が教会に居れば墓荒らしをされる前に止められるか、墓荒らしはなかっただろうと、留守にした事を後悔しているようでして」

「寝泊まりしていたとしても、ずっと教会に居る訳にはいきませんからね。分かりました。刺激しないように注意します」

「お願いします」

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