墓荒らし−2
「それでは警視庁に戻ります」
「ああ。安全運転でな」
「流石にもう慣れました」
狐塚の運転で、大狼と狐塚は警視庁まで戻る。バンの中には大量の術に使う道具が積み込まれているため、バンは完全に陰陽課の持ち物になっている。狐塚はバンを決められた位置へと停車させた。
「ふう」
「お疲れ。本当に運転が上手くなったな」
「ありがとうございます。普通の車なら以前から問題はないんですが、バンは大きいので怖いですよね。神社やお寺があっても場が異界側に寄っている場所は、大体狭い道ですから運転が大変です」
神社や寺が有っても自然と場が異界側に寄ることもある。そのような特殊な場所は陰陽で言うところの陰の気が強く出ている場所だ。東京では寂れた場所が陰の気が強くなる。そのような場所の神社や寺は衰退している場合があり、陰陽課が場を清めるのを手伝うことが多い。
「バンの運転は、最初は失敗して車を傷つける者が多いな。狐塚は上手いほうだ」
「本当ですか?」
「ああ。私は新人の頃に一度バンに傷をつけているからな。狐塚はまだ傷を付けていないだろ」
大狼と狐塚は会話をしながら陰陽課へと入る。大狼と狐塚はバンの鍵を返した後、
「土御門さん」
「おう。急にすまないな」
「いえ。あれから何か情報はありますか?」
「ほぼないが、通報内容を群馬県警から貰ったので転送する」
土御門から転送された通報内容を、大狼と狐塚は携帯で確認している。大狼は確認を終えたのか、携帯から視線を土御門に移す。
「掘り返された墓は一体じゃないんですか」
「そうみたいなんだ。かなり墓を荒らされているようで、群馬県警の陰陽課だけでは調べるのが大変なので、警視庁へ応援を呼んだみたいだ」
群馬県警の陰陽課が周辺の県警ではなく警視庁へと応援を呼んだのは、警視庁の陰陽課が一番術師の人材を確保しているからだ。陰陽課の人材は地方によって偏りが出る。警視庁のように多種多様な術師が揃っているのは珍しい。
「遺体が消えた数もまだ分かっていないのですか」
「そのようだ」
「これは時間がかかりそうですね」
「すでに昼だからな。出張扱いにする」
「助かります」
土御門から出張扱いにすると言われて、大狼は笑顔で頷いている。もう少しで昼という時間なので、群馬から帰ってくるのが終電後の深夜になる可能性が高かった。狐塚が土御門に質問をする。
「群馬県のこんな場所に土葬の墓地があるんですか?」
「そのようだ。私も知らなかったので調べたのだが、埼玉県に近い山の中にあるようだな」
「墓地まで車で行けるんですか?」
「調べたところかなり広い墓地のようで、車でも余裕で行けるようだぞ」
土葬の宗教が共同で整備した墓地のようだと土御門が説明している。電車で向かうと墓地まで辿り着けないので、車で向かうようにとも土御門が注意をしている。
「元々電車で移動するつもりはありませんでしたが、墓地にお参りしに行くには大変そうな場所なんですね」
「割と新しい墓地のようだし、墓地はどうしても都心部には作れないからな」
「新しいんですか?」
「新しいと言っても墓地としては数十年はあるようだ。土葬の墓地としては新しいと言う意味だな」
土御門から話を聞き終えた大狼と狐塚は更衣室へと移動して神職の格好から、スーツへと着替える。拳銃や手錠を携帯して、覆面パトカーの鍵を借りる。土御門からシャベルやふるいを持って行ったほうがいいと言われて、大狼と狐塚は陰陽課の備品となっているシャベルとふるいなど、土を調べるのに使えそうな道具を持った。
「土御門さん、それでは行ってきます」
「おう、すまんけど頼むわ」
「はい。何かあれば連絡します」
「おう」
陰陽課の部屋を出た大狼と狐塚は、駐車場へと向かって歩いていく。重たい荷物を大狼がほとんど持っており、狐塚は軽いものと鍵を持っている。覆面パトカーに荷物を積み込むと、大狼が狐塚に運転すると提案する。
「運転お願いしても良いんですか?」
「加藤さんとの食事、断りの連絡していないだろ?」
「連絡してないです。先輩、助かります」
昼食をゆっくり食べている時間もなさそうだと、大狼と狐塚はコンビニで食事を買って車内で食事をしながら高速を走っていく。大狼が食事を食べるのに、連絡が終わった狐塚と大狼が運転を交代する。
「先輩はまたゆで卵とサラダチキンですか」
「それ以外も食べているだろ?」
「食べてますけど、絶対それ食べてますよね」
「ダイエットはしていないので好きな物を食べれるのだが、タンパク質を取ろうとするとどうしてもな」
大狼が狐塚にオススメのサラダチキンを話しながら食事を終えると、大狼が今日泊まるホテルを携帯で探し始める。
「狐塚」
「先輩どうしたんですか?」
「これから向かう場所は本当に僻地のようだ。ホテルが近くに全くない」
「群馬の埼玉側なのに無いんですか?」
「無い」
新たに土葬の許可を貰うのはかなり大変で、県や市によっては条例で禁止されており、僻地の山の中でしか許可が降りなかったのだろう。狐塚はため息をついて、一番近いホテルでお願いしますと、大狼に頼んでいる。
「分かった。探してみる」
「お願いします。そんな僻地なら宿も安いでしょうし」
「予算内だと良いんだが」
当然、陰陽課も公務員なため予算がある。宿に泊まるにしても高過ぎれば経費で泊まれなくなってしまう。大狼が携帯で検索して泊まれる場所を探していく。
「狐塚、見つかったぞ」
「ありましたか」
「ああ。ホテルではなかったが、予算内で温泉旅館があった」
「温泉旅館! よく予算内でありましたね」
「山の中だから安いようだな。食事まで付いているぞ」
温泉旅館と聞いて、明らかに狐塚の機嫌が良くなった。そんな狐塚を見た大狼が苦笑している。
「値段が安いからそこまで期待しない方が良いぞ?」
「食事は期待しませんが、温泉に入れるなら良いです。加藤さんとの食事がなくなって悲しかったですが気が紛れました」
「それなら良かったがな」
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