消えた遺体−4
「先輩。運転、ありがとうしざいました」
「狐塚のおかげで手がかりを見つけられたからな、運転くらい気にするな」
大狼と狐塚は陰陽課へ戻ると、覆面パトカーの鍵を戻して、
「土御門さん」
「大狼、戻ったか」
「はい」
大狼と狐塚が通報現場の状況から、現場で見つけた欠片について土御門に説明している。説明が終わった後に大狼が、欠片が入った入れ物を土御門に確認して貰っている。
「これが骨と思われる欠片なんですが、土御門さんは何か分かりませんか?」
「陰陽師はこういうの得意じゃないんだよな」
「そうですよね。私と狐塚もそうなので」
「今、陰陽課に居て得意そうなのは…ヨーゼフに聞いてみるか」
土御門がヨーゼフを呼んで、欠片が入った入れ物を手渡し、事情を説明している。
「これが骨かどうかですか」
「ヨーゼフ、分からないか?」
「土御門さん、入れ物から出してみても良いですか?」
「大狼、どうだ?」
「構いません」
陰陽課は科学的に調査もするが、基本的には術を使って捜査している。どうしても術を使う場合は、直接手に触れたりして調べる事が多く、他の警察官から見られたら驚かれるような行為が多くなる。なのに他の警察官と同じように保存するのは、無くさない為に容器や袋に保存する事になっている。
「骨かどうかは分かりませんが、魔力の使い方が私と少し違いますね」
「魔力の使い方が違うか、魔法使いではないのか?」
「そこまでは分かりません。魔法使いでも元になっている技術が違う場合がありますから」
術師によって力の使い方が違うのは当然だが、同じ魔法使いの中でも魔力の使い方は違ってる。術で使う魔力や神力は非常に曖昧な物で、元となる力の方向性の違いによって魔力や神力になる。
「魔力だから異界側だろうが、どの程度寄っているか分かるか?」
「私の魔力の使い方より随分と異界側に近い使い方に見えますが、欠片が小さいので魔力量が少ないため判断が難しいですね」
「異界側に近い魔力か。遺体を盗むような魔法使いだとすれば納得できる。術を行った場所が異界化していないと良いんだがな」
魔力は異界側に寄せ、神力は神側に寄せる。それは場にも影響を及ぼし、場が異界側に近ければ魔力が強くなり、場が神側によれば神力が強くなる。異界側によれば魔力が強くなるが妖魔が発生する。神側によれば神の力が強くなるが、神の力が強くなるほど神側に近づけるのは難しい。
「魔法使いだとすれば異界化するほどの魔法を日本では使って欲しくないですね。魔法使いの居場所がまたなくなってしまう」
「妖魔が大量発生するほどの事件にはなって欲しくはないな」
「はい。大狼と狐塚が大変な思いをして場を清める事になってしまいます」
人間にとっては妖魔が発生しない神側の方が被害が少ないので、大半の場所は神側に場の力を寄せている。魔法使いですら、場を神側に寄せる事を賛成している。場を異界側に寄せすぎれば強い妖魔が大量発生して大変なことになるのだ。
「フレッド、ありがとう参考になった」
「いえ、お力になれず申し訳ない」
「いや、十分だ。私たちでは魔力があるとしか分からなかったからな」
フレッドが欠片を入れ物に戻して、土御門に返している。土御門は受け取った欠片を大狼に渡す。大狼が欠片を受け取りながら土御門に話しかけている。
「土御門さん、とりあえず欠片を一個科捜研に出してDNA鑑定してもらうつもりなんですが」
「それが良さそうだな。骨なのか、動物なのか人間なのか確認した方が良さそうだ」
「はい。では書類を作って鑑識に頼んできます」
「そうしてくれ」
大狼と狐塚は鑑識に調査を依頼するために書類を作って、陰陽課の部屋から科捜研へと欠片を持ち込む。
「すいません」
「大狼さん、狐塚さん、どうされました?」
「加藤さん、鑑定をお願いしたいのです」
加藤は科捜研に所属する研究員で、白衣を着た女性だ。年齢は四十歳ほどで、髪は仕事の邪魔になるため短めだ。陰陽課は加藤に鑑定を依頼する事が多い。
「何の鑑定ですか?」
「骨の欠片だと思うんですが、骨かどうか確認と、骨だった場合は人間か動物かを確認して貰いたいのですが」
「骨かどうかですか。見せて貰っても?」
「はい」
大狼が容器に入った欠片を加藤に渡すと、加藤がルーペを持ち出して容器に入ったままの欠片を確認している。容器を回して確認した加藤が大狼に声をかける。
「これは恐らく骨ですね」
「そうですか。何の骨かは分かりませんか?」
「流石にこの大きさでは何かまでは分かりません。もしDNA鑑定をするのでしたら、この骨ですと小さすぎるので、DNA鑑定をしても結果が出ない場合があります。」
「そうなんですか…」
「ええ。それと火葬されている場合もDNAは出にくいですね」
骨をDNA鑑定する場合は、骨の量が少ない場合や、遺体を完全に焼いてしまっている場合は、骨にDNAが残っていない場合があり、DNA鑑定が不可能な場合がある。
「それと、この大きさですとDNA鑑定をしたら物が無くなってしまうかと」
「欠片だと小さすぎますか」
「はい」
欠片は複数あるが、同一の骨とは限らず大狼と狐塚は迷っているようだ。大狼と狐塚はどうするか話し合った結果、今のまま失せ物探しの術を使ったとしても犯人が見つかる可能性は低いと、DNA鑑定をする事に決めたようだ。
「結果が出なかったら諦めますので、お願いできませんか?」
「分かりました。鑑定に出すのに必要な書類は揃っていますか?」
「はい」
大狼が加藤に記入された書類を渡し、加藤が確認をすると全ての書類が揃っていたようで、鑑定依頼を受け付けたようだ。
「時間が掛かると思いますので、結果が出たら連絡をします」
「お願いします」
大狼と狐塚は骨の欠片を加藤に預け、科捜研の部屋から出ようとしたところで、狐塚が加藤から声をかけられている。狐塚と加藤は少し話をした後に、狐塚は大狼の元に戻っていく。
「もう良いのか?」
「はい。個人的な用事でしたからすぐに終わりました」
「そうか」
大狼は狐塚が何を話したか詮索する事なく、陰陽課へと戻っていく。
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