消えた遺体−3

 大狼おおがみ狐塚きつねづかは話し合いの結果、術師が遺体を盗んだ可能性が高いと結論付けた。大狼が改めて警察官に声をかける。


「この事件は陰陽課の管轄になる可能性が高いです」

「遺体の盗難なんて何の得にもならない事を普通はしませんから、やはりそうなんですね。間違いだっただろうしようと思っていましたが、陰陽課に応援を呼んで正解だったようです」

「間違いであっても気にしなくて問題ありませんよ。特にこのような事件は陰陽課としても、調査はしておきたいですね」

「そう言って貰えると助かります」


 陰陽課は特殊な人材が多いため、普通の警察官からは気味悪がられたり、怖がられたりする。どうしても普通の警察官が陰陽課に応援を呼ぶ場合は躊躇ちゅうちょする事が多くなっている。


鑑識かんしきに、白い欠片が骨かどうか分かったら、警視庁の陰陽課に連絡してほしいと、伝えて貰えませんか」

「分かりました」


 陰陽課の仕事を、普通の警察官に説明したところで、先ほどの説明のように理解されない事が殆どだ。なので陰陽課は細かい事情を現場で説明しない事が殆どだ。普通の警察官も、現場で説明を聞いても分からないと、詳しい理由を普通は聞かない。現場では説明しないが報告書はお互いに必要なため、陰陽課から詳しい説明を書いた物を渡している。


「では私たちはこれで撤収します」

「はい。こちらも撤収します。ありがとうございました」

「いえ、また何かあれば呼んでください」

「助かります」


 警察官と別れた大狼と狐塚は、覆面パトカーに乗り込み荷物を整理すると、土御門つちみかどに連絡を取り、帰還する事を伝えている。土御門から帰還の許可が出ると、大狼は覆面パトカーを霞が関に向けて走らせ始めた。大狼が運転をしながら狐塚に声をかけた。


「ところで狐塚、そんなに失せ物探しが得意だったなら、インプを召喚した魔法使いを探す時に術を使うのは私じゃなくて、狐塚が術を使った方が探す範囲を絞れたのではないか?」

「先輩とあまり変わらないと思いますよ?」

「そうなのか?」

「はい。うちの実家の稲荷神社は失せ物探しで売り込んでいませんし」


 全ての稲荷神社のが失せ物探しを得意としている訳ではないが、一部の稲荷神社は失せ物探しが得意としている。


「私も紅衣こうい様の稲荷神社は失せ物探しをやっていないと記憶していたな」

「やっていなくはないんですが、どちらかと言うと豊穣神や商売の神様としての方が表に出していますね」


狐塚の実家は失せ物探しで有名ではないため、大狼は狐塚が失せ物探しを得意ではないと思い込んでいたようだ。神職は仕える神の能力と同じような能力が強くなる傾向がある為、神職が仕える神が何が得意な神であるかが、能力を測るのに重要になる。


「紅衣様は失せ物探しが得意だったのか?」

「いえ、紅衣様は失せ物探しをできますが、どちらかといえば苦手ですよ」

「狐塚が得意なだけなのか」

「はい」


 紅衣は失せ物探しもできるが、失せ物探しをあまり得意としていない。なので紅衣は失せ物探しを基本的には受け付けていないし、表に出して宣伝もしていない。紅衣に仕える狐塚が失せ物探しが得意なのは、狐塚の能力として得意なだけのようだ。


「しかし随分と探すのが上手かったが、もしかして今まで使わないで捜査をしていたのか?」

「いえ、失せ物探しの術は無意識に使ってしまうので、捜査中も使ってはいました」

「無意識に使う術なのか」


 術にはある程度法則がある。無意識の状態で使う術と、意識して使う術。この二種類の術は神職であろうと、他の術を使っている魔法使いや陰陽師でも同じように分類できる。無意識で使う術と意識して使う術は、どちらが強い術という物でもなく、術によって特性が違うだけだ。


「はい。私が使う失せ物探しの術は、常に無意識で発動している術です。逆に失せ物探しの術を意識して使う場合は、術の特性上効果が弱くなります」

「そういう事か。だが任意で失せ物探しの術を発動させる事は出来なくはないんだな?」

「はい。更に言うと、私が使う失せ物探しの術は範囲の狭い術なので、二重で効果が弱くなってしまいます」


 狐塚の失せ物探しは探すというより、手元に引き寄せる術に近い。なので広範囲で探し物をする場合は効果が弱まり、意識することで更に弱くなってしまう。手元に引き寄せる効果は強いが、インプの時のような関東全体を探すような広範囲の捜索の場合は、狐塚の失せ物探しの術は探すのに向いている術とは言えない。


「インプの術者を探すのは難しかったと思いますが、先輩も失せ物探しの術は得意な術では無いので、もしかしたら私の方が上手く探せた可能性もあります」

「私がやったのは呪術だから、術がかなり違うので、なんとも言えないな」

「そうなんです」


 大狼が次からは狐塚にも失せ物探しの術を頼むと言うと、狐塚が頷き失せ物探しの術を使うことを、引き受けている。


「狐塚はあの欠片で失せ物探しをできるか?」

「かなり厳しいですね。得意な人に頼んだ方がいいと思います」

「やはりそうか」


 警視庁に戻るまでの車内で、大狼と狐塚は今回の骨の欠片と思われる物が、どのような術を使用されていたか話し合うが、答えは出ないようで大狼はため息をついている。。


「骨を使う術は多すぎるな」

「はい。それこそ今回盗まれた遺体と同じように何にでも使えます」

「遺体に骨か。そういえば、どちらも元は人なのか?」

「確かに人ではない可能性もありましたね。葬儀屋ですから人だと思い込んでしまいました。小さな欠片ですから、失せ物探しの術をするなら、欠片が骨だった場合は何の骨か同定した方が良さそうです」


 術に物を使う場合は、物が何であるか分かっていると術の効果が上がる。術で失せ物探しをする場合でも、同じように術の効果が上がるので、骨が何の物か同定する事が重要になる。インプの時は見つからなくても良いと、枝が何の木かなどは調べていない。


「そうなると警視庁に戻ってから科捜研に出すしかないな」

「科捜研にDNA鑑定をお願いしないといけませんね」

「ああ。土御門さんに報告をしてから出しに行こう」

「はい」


 大狼は警視庁に戻ってから科捜研に人か動物かを検査して貰うと、狐塚に話している。科捜研は科学捜査研究所の略称でDNA検査をしたり科学的な調査をするのは科捜研だ。

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