消えた遺体−2

 不思議そうにしている警察官に、大狼おおがみがなるべく分かりやすいように、陰陽課の事情を警察官に説明している。人の死は場が異界側に転じる切っ掛けになる。死を雑に扱えば扱うほど場が異形に転じる事になる。


「一人の死は場が転じるには影響が小さいですが、死と遺体が積み上がれば場が転じる切っ掛けとなります。ですので遺体が多い場所は、非常に危ない場所となるのです。現代ですとそのような場所は神社や寺の境内にありますが、過去には失敗して都市自体が崩壊した歴史もあります」


 平安京や平城京の失敗は死体の処理をおざなりにしたか結果、陰陽師が作り上げた妖魔を発生させない都市機能が格段に落ち、妖魔が大量発生する切っ掛けになった。なので、無縁仏にお経をあげるだけでも、積み重なりを考えると随分と差が出てくる。


「はあ、そうなんですね」


 普通の警察官に陰陽課の仕事は理解し難いようだ。東京は事件数が多く、一件の事件にかけられる時間が少ない。どうしても警察や役所は、処理をするように淡々と業務をこなしてしまう。時間がかけられないのは仕方のない事だが、結果的に陰陽課の仕事が増えることになっている。


「事件で遺体に出会した場合は、お経などを唱えろとは言わないので、供養の気持ちを持って遺体に手を合わせてくれると嬉しいです」

「分かりました」


 大狼が噛み砕いて話をすると、警察官は納得した様子で同意して頷いている。大狼は警察官の反応を見た後に同じように頷いた。その後、大狼は改めて葬儀屋を中を見回しながら警察官に声をかけた。


「それで、遺体の行方は予想できているのですか?」

「それがさっぱりで。盗難と言っても死体の盗難なので、鑑識にも来てもらったんですが、それらしい指紋が出ていません。足跡も調べて貰ってはいますが、鑑識からは指紋の数が業者の分くらいしかないので、期待しないでくれと言われてしまいました」

「そうですか。少し私の方で調べても構いませんか?」

「どうぞ」


 大狼と狐塚きつねづかが室内を調べ始める。死体を使う術師は数多く、それぞれの術の痕跡があるか大狼と狐塚が確認している。痕跡は匂いだったり、魔力だったりと様々な為、合致する術を探すのは大変だ。


「私は上から順番に調べる。狐塚は下から調べて貰って良いか?」

「はい」


 遺体が消えたという部屋の中は、ずっと組んだままであろう祭壇に仏具や造花が置かれている。そんな部屋を大狼と狐塚はライトを片手に部屋の中を探し始めた。遺体が入っっていたであろう棺桶の近くの床で狐塚が何かを発見したようで、狐塚が大狼に声をかけた。


「先輩」

「何か見つけたか?」

「何かの欠片ですかね」


 狐塚が見つけた物は白い欠片で、床に落ちていたところで石か何かだと、気づかないような物だ。だがその欠片が普通と違うのは魔力を持っている事だ。魔力はそこまで多くなく、欠片を手に持たないと分からない程度だ。


「魔力があるな」

「はい」

「狐塚、よくこんな小さな欠片を見つけたな」

「こういった失せ物探しは得意なので」


 大狼と狐塚は欠片を専用の容器に入れ、大狼が、他にも欠片が無いか探して欲しいと狐塚に言って、狐塚が欠片を探し始めた。最終的に欠片は五個ほど見つかり、五個の欠片を狐塚と大狼が確認している。


「どれも白いな」

「そうですね。なんですかねこれ?」

「白い魔力を持ったものか。色々と思いつくが、小さすぎて分からんな」

「ですよね。一応ブラックライト当ててみます?」


 大狼は狐塚の提案に頷いている。術の一部は、血や体の一部を使ったり、特殊な鉱石を使う場合が多く、陰陽課は鑑識ではないがブラックライトのような特殊な装備を携帯している。狐塚が持ち物の中からブラックライトを取り出して、フィルターで波長を遮断しながら検査していく。


「光りました」

「光るのか。鑑識が来た後だから光らないと思ったんだが」

「私も光らないと思ったんですが。光ってますね」

「これは鑑識に回すしかないか?」


 もう一度室内をブラックライトで確認しようと、大狼が狐塚に言った。狐塚が同意すると、大狼と狐塚は細かく室内を探している。驚いた事にブラックライトに反応する物は多い。大狼と狐塚が手に取って確認をしているが、魔力がある物は見つからないようだ。


「これだけ反応するから鑑識も置いて行ったのか?」

「かもしれません」

「だが魔力がある物は他には見当たらなかったな。術の痕跡も無いようだ。狐塚、撤収しよう」

「分かりました」


 大狼と狐塚は葬儀屋の外で待っていた警察官に調査は終わったと声をかけている。大狼が見つけた白い欠片が入った容器を警察官に渡し、警察官に何か知らないかと尋ねている。


「この白い欠片ですか。欠片ですと、鑑識も同じような物を一応持って帰っていました。鑑識は骨の可能性が高いと言っていましたね」

「なるほど。骨ですか」


 人体を使う術の中でも骨を使う術は多い。しかも骨は日本でも比較的簡単に手に入れられる物で、術者の中でも持っている人は多い。そこまで骨を持っている人が多いのは、骨は保存も容易で、説明ができれば骨を持っていても捕まらないからだ。なので骨を使っているからと言って、どのような術者が何の目的で術を使ったかまでは特定は難しいだろう。


「ええ。ですが葬儀屋ですからね。鑑識が、細かい骨であれば靴や服に付いていた可能性があると言っていましたよ。業者も骨箱を持って帰ってくる事もあると言っていました。鑑識は盗難事件という事もあって、指紋と足跡はしっかりと取ったようですが、他は数が多いと全ては回収しなかったのかもしれません」

「そうですか。ありがとうございます」

「いえ」


 大狼は警察官から容器を受け取って、改めて容器の中に入っている骨の欠片だと思われる物を見ながら狐塚に話しかけた。


「狐塚、鉱物かと思っていたが、骨だとすると小さいな」

「はい。これは骨に何かの術を使っていますね」


 可能性として術師が死んで遺体に魔力が残る事はある。だが此処まで小さい骨の状態で、大狼と狐塚が手に持って分かるような魔力が残る可能性はほぼ無い。そうなると、骨を使って何らかの術を使った可能性が高い。


「魔力がしっかり残っているようだし、偶然落ちていたとは考えにくい」

「遺体を盗んだ者が何らかの術を使っていた可能性が高いですね」

「そのようだな」

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