インプを召喚した魔法使い−8

 大狼おおがみの机からヨーゼフが離れていく。ヨーゼフは自分の机からタブレットを持って大狼の元に戻って来た。ヨーゼフが戻ってきたところで、狐塚きつねづかが大狼に話しかけている。


「先輩、海外のサーバかどうかは調べれば分かる可能性が有りますよ」

「本当か? 狐塚は調べられるのか?」

「調べ方は検索するだけなので簡単です。やってみます」


 狐塚がサイトのドメインからサーバを調べ始める。どこのサーバを使用しているか表示される。海外の企業がサーバを運用しており、サイトは海外のサーバを使っているようだ。


「先輩、残念ながら海外のサーバでした」

「仕方ない。英語の資料を作るぞ」

「はい」


 大狼、狐塚、ヨーゼフは書類を作って行く。サイトのページ数が多いのもあるが、英語と日本語で資料を作ったので時間が掛かったようだ。三人がかりでも、午後は資料作りで終わる。


「なんとか終わったな」

「はい」

「狐塚がサーバの運用会社を調べてくれたから手続きが早く始まりそうだ」

「やり方を知っていれば誰でもできますよ」


 調べ方は簡単で、サイトのアドレスを調べるサイトがあり、狐塚もサイトを使って調べている。


「それでも助かった」

「いえ。ところで先輩はこの後どうするんですか?」

「昨日も遅くなったから帰る予定だ。家に帰る前にジムに寄る予定ではあるがな」

「それでさっきからプロテインを飲んでいるんですか」


 大狼は柔道や剣道よりもジムで体を鍛えることが好きで、仕事が終わった後にジムによく行っている。周囲もその事を知っていて、一部の同僚は一緒にトレーニングをしていたりする。


「持論だが、神職は体を鍛えておいて損はない」

「私はそうは思いませんが」

「戦い方が違うから仕方ないな」

「神職は普通、物理では戦いませんよ」

「真神様は特殊だからな」


 実際神職は前に出ることは少ない。大狼や狐塚が例外とも言える。神職は場を正常な状態にする事が得意で、本来なら攻撃は苦手だ。だが、大狼と狐塚は能力の高さから近距離で戦っても問題がない。


「狐塚はどうするんだ?」

「私はそのまま帰ります」

「そうか。気をつけるんだぞ」

「送っていってくれても良いんですよ?」

「あー…」


 大狼はプロテインを見ながら固まる。大狼はトレーニングの時間を逆算していおり、筋トレ前のプロテインを混ぜたプレワークアウトのドリンクを飲む前であれば狐塚を送っていっただろ。もう一度プロテインを飲めば問題ないのだが、大狼は咄嗟に言葉が出なかったようだ。


「冗談ですよ、先輩」

「いや、送ろうか?」

「お気持ちだけで十分です」

「何かあったら言ってくれ」


 大狼はそう言うのが精一杯だったようだ。そんな大狼を見て、狐塚は笑って頷いている。狐塚は「帰れるのだし、帰りましょう」と、大狼とヨーゼフを誘っている。大狼は「そうだな。土御門さんに報告してくる」そう言うと、大狼が土御門がいる方に向かう。


「土御門さん」

「大狼、どうした?」

「報告書を提出したのと、インプの召喚に使用したサイトを停止させる為の書類も作って提出しておきました。今日はこれで退勤します」

「おう。お疲れさん」


 緊急の事件はなかったようで、大狼が引き止められる事はなかった。大狼は帰宅の準備をしていた狐塚とヨーゼフに声をかけて、庁舎を出ていく。ヨーゼフは別方向の電車に乗るので庁舎の前で別れ、大狼と狐塚は同じ電車に乗って移動する。


「先輩、それでは私はここで失礼します」

「ああ。気をつけてな」


 狐塚が電車を降りて行くのを見送り、大狼は違う駅で電車を降りていく。駅から近い規模の大きいジムへと大狼は入っていく。大狼はジムの更衣室でスーツからトレーニングウェアに着替え、アップをしようとすると、大狼は声をかけられている。


「大狼さん、今からですか?」

「どうも、山下さん。山下さんも今からですか?」

「そうなんですよ。私は足中心の日なんですが、一緒にどうですか?」

「良いですね。一緒にやりましょう」


 大狼に声をかけてきた、山下は身長は大狼より小さいが、かなりの筋肉量を持っているのが着ている服の上からでも分かる。大狼と山下はお互いに補助をしながら足のトレーニングをして筋肉を追い込んでいく。


「山下さん、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ助かりました」


 トレーニングを終えた大狼は、ジムのほぼ目の前にある自宅マンションへと帰宅して、シャワーを浴びた。大狼が自宅のマンションを選んだ理由は、警視庁のある霞ヶ関まで一本で行けることと、マンションの前に大型ジムがある事を理由に選んでいる。


「筋トレは楽しかったか?」

「真神様?」

「あの後がどうなったか気になってな。ウイッチクラフト研究所が荒らされるのは此方としては許し難い」

「そうですね。今日分かった事をお伝えします」


 大狼は捜査情報を真神に伝えていく。

 捜査情報を伝えるのは本来は良くはない。だが真神が土地を納めて安定させているので安全になり、住みやすい土地となっている。全ての土地を人間で管理する事は不可能で、神の力を頼って土地を管理しており、陰陽課と土地を管理している神は協力関係にある。神と陰陽課は協力関係な事もあり、神から妖魔を討伐する前に説得して欲しいという条件を警察は守っている。


「サイトを閉鎖させる手続きは取りましたが、効果がどこまで続くかは分かりません。サイトを移転されればまたやり直しですので」

「困ったものだな。だが召喚魔法を使わせて殺す理由が分からない。近くに居なければ利用する事もできないだろうに」


 真神が大狼の元に来たように、目印を元に移動したり能力を使う事は遠距離でもできるが、目印がなければ真神ですら能力を使う事は難しい。サイトを見ただけの不特定多数の誰かを目印に魔法を使うことは不可能だ。


「そう言われると不思議ですね。一般的な召喚魔法もありましたが私が知らなかった物もありました。サイトの事を知られたら所属している秘密結社から罰せられそうです」


 魔法使いは秘密結社であるが故に秘術が多く、召喚魔法や魔法に関する情報を漏らすのは普通は禁止されている。意図的に情報を漏らせば殺される可能性すらある。


「斗真、魔法使い探究者。ただ殺すだけ、などという非効率な事はしない。殺す以外の目的があるはずだ」

「確かに、何故こんなに周りくどい方法で殺そうとするか分かりません。魔法使いならもっと方法があります」

「何が目的か分からないうちは、注意するのだぞ」

「はい。真神様、肝に銘じます」

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