インプを召喚した魔法使い−7

 一夜明けて、警視庁妖魔局陰陽課へ出勤してきた大狼おおがみは、土御門つちみかどにインプを召喚した魔法使いを見つけたと報告をしている。


「ご苦労。しかし、見つかるとは運がいいな」

「はい。私も見つかるとは思っていませんでした」

「魔法使いの登録はしていなかったのだな?」

「そうです。登録をしましたし、協力的でしたので今後は問題ないです」


 大狼が口頭での報告をした後、土御門は報告書を頼むと大狼に言って、自身の仕事に戻っていった。

 大狼と狐塚きつねづかは報告書を午前中にまとめ上げて、警視庁の食堂で昼休憩を取っている。


「先輩、これからどうするんですか?」

「インプの召喚魔法が書いてあるサイトを確認する」

「魔法使いか魔女の誰かに見てもらいますか?」

「私で分からなければお願いする」


 召喚は分野毎に専門があり、有名な召喚方法でない限りは分からないことが多い。数が多いのは、召喚できるのは悪魔だけではなく、神、精霊、幻獣と多種多様な召喚が可能な為だ。強力な召喚に関しては召喚の代償が大きく、普通は召喚ができない。大狼と真神まかみのような神と氏子であれば代償が少なく召喚する事は可能だ。


「先輩は専門分野じゃない事も詳しいですよね」

「警察官をやってる年数が違うからな。狐塚も数年すれば有名な召喚魔法は大体覚えることになる」

「そういうものなんですか」


 狐塚は警察官になってから一年経ったところで、今はまだ専門分野以外の知識が少ないが、専門分野に関しては優秀だ。巫女としての力も強く、陰陽課で将来を期待されている。

 昼食を食べながら仕事の話ばかりもどうかと考えたのか、大狼は真神の好物や毛並みの手入れ方法を狐塚に伝えている。


「真神様の真似をして、うちの紅衣こうい様のブラッシングをしたんですが、毛がツヤツヤになりました!」

「稲荷神をもうブラッシングしたのか」

「昨日の帰りにペットショップで専用のブラシを買って帰りました。紅衣様は最初は嫌がっていたんですが、試したら良かったようです。紅衣様、ご機嫌でした。真神様が気に入っている方も今度試してみます」


 狐塚の実家は稲荷神社で、紅衣こういはその稲荷神社の稲荷神だ。赤毛の狐で、真神と同じようにかなり強力な力を持っている。

 狐塚が、大狼から詳しい毛の手入れ方法をメモをしている。昼休憩の時間が終わるまで狐塚と大狼は毛の手入れ方法を話していたので、周囲の普通の警察官から、ペットの手入れ方法でも話しているのだろうと思われていそうだ。


「先輩、手入れ方法詳しいですね」

「兄と交代で真神様の手入れをしていたからな」

「そんな事をするんですね」

「真神様は自分でできるが、子供の頃はそれが面白かったからな」

「子供の頃の話ですか」

「ああ」


 真神の面倒見の良さで、大狼の一族は子供の頃は真神に面倒を見られている。そこに真神の子供受けの良さが合わさって、子供からお礼だったり、ブラシを使うのが楽しいからと、真神はブラッシングされる。子供からブラッシングされると真神はご機嫌になり、子供を甘やかすので、更に子供から人気になって行く。

 昼休憩を終わらせて二人は仕事に戻る。


「仕事を再開するか」

「はい」


 陰陽課に戻ってきた二人は、陰陽課のパソコンで召喚魔法が書かれたサイトを確認していく。召喚されたインプの魔法は当然あり、召喚場所としてウイッチクラフト研究所の場所がしっかり書かれている。大狼はサイトを調べて召喚場所として勧められている場所を確認して、大狼は顔を顰める。


「ウイッチクラフト研究所以外も危険な場所ばかりだな」

「本当ですね」

「この時点でサイトを削除するようサーバ運用会社に依頼をしても良いが、個人サイトは陰陽課でも手続きをしないと削除が難しい。処理を早くするために、召喚魔法を先に調べるか」


 ソーシャルメディアで悪意ある召喚魔法が出回ったことがあり、召喚魔法を公開すると削除依頼がすぐに司法から出るので、ソーシャルメディアの運営会社が先に削除をするようになった。

 召喚魔法をインターネット上で公開する場合は、時代に逆行するように個人サイトで召喚魔法は公開される事が多くなっている。個人サイトの場合は普通の警察がするように、司法を通した手順が必要で、しかも海外にサーバがある場合は手続きが複雑になる。


「国内のサーバであれば良いのだがな」

「国内だったらサイトの制作者までたどり着けますかね?」

「無理だろな。妖魔が普通にSNSを使いインターネットを使う時代だ。偽物の情報を何重にもしているだろう」


 インターネットで足取りを追えなくする為にサーバを迂回するように、使い魔を使って人を騙して、架空の人物を作るのは力ある魔法使いなら簡単な事だ。どちらの偽装もされている場合は、サイトの制作者まで辿り着くのは不可能に近い。

 大狼が召喚魔法は何が書かれているか確認していくと、先ほどのように大狼は顔を顰める。


「酷いな。インプ以外はどれも召喚が成功してしまったら、死ぬような悪魔ばかりだ」

「そんな召喚魔法ばかりよく知っていますね」

「陰陽課が捕まえる魔法使いがよく使う召喚魔法が多いな。だが私が知らない魔法も存在している。陰陽課の魔法使いに聞いてみるか」


 大狼は陰陽課の魔法使いで、今いる人に声をかける。


「ヨーゼフさん、召喚魔法で分からないものがありまして、教えてもらえませんか」

「大狼さん、構いませんよ」


 ヨーゼフはオーストリア出身の魔法使いだが、今は日本の陰陽課で警察官をしている。ヨーゼフの身長は大きく百九十センチを超えており、大狼と同じように体を鍛えているようだが、大狼ほど体を絞り込んではいない。ヨーゼフの髪の色はブラウンで年齢は30代後半だ。


「このサイトにある召喚魔法なんですが」

「サイト? 本物の召喚魔法と言う事ですか?」

「私が確認した物は全て本物でした。しかも大半が召喚に成功すれば死ぬような悪魔が出てきます」

「それは大変なことになりますね」


 ヨーゼフがサイトを確認している。サイトを見ているヨーゼフの顔が強張っていく。


「どれも召喚に成功すれば死にますね」

「やはり全てが同じでしたか」

「ええ。急ぎサイトを削除するよう申請すべきです」

「今から書類を作るのですが、ヨーゼフさんも手伝って貰えませんか。私が分からない召喚魔法の説明と、海外のサーバに備えて英語の書類も作ってしまいたいのです」

「作る書類の量が多いですね。分かりました。手伝いますので少し待って貰えますか」

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