インプを召喚した魔法使い−6

 狐塚きつねづかがウイッチクラフト研究所に置いたままの覆面パトカーを取りに行き、大狼おおがみが青年と待っている。青年は逃げる様子がないので、大狼は青年の緊張を解くように優しく話しかけている。


「魔法使いに憧れが?」

「魔法使いというか、陰陽課に憧れがあって」

「陰陽課に憧れとは、珍しい……のか? 私は実家が神社だからそういうのには疎くて、申し訳ない」

「俺はオカルトが好きなので、特殊かもしれません」

「そうなのか。もし陰陽課に入りたいなら、魔法使いになって性格が問題ないと判断されれば簡単になれる。いつか同僚になれる事を楽しみにしているよ。ちなみに…」


 大狼が陰陽課に入る方法を青年に話している。陰陽課は普通の人には入れないので、常に人材不足になっている。なので本来ある警察に入るための試験も、有って無いような物で、警察に登録されている術者であれば、面接をして、簡単な試験を受けるだけで陰陽課に所属できる。


「先輩、戻りました」

「狐塚、取りに行かせてすまないな」

「気にしないでください」


 アパートから一番近い警察署の陰陽課は、真神まかみの神社が範囲内なので真神や大狼が知り合いだ。大狼が無線ではなく、携帯から連絡を入れ事情を説明すると、今から登録をするので署まで来て欲しいと、大狼が電話越しに言われている。


「許可が降りた。警察署に行くぞ」

「はい」


 大狼は狐塚に運転を任せると、青年と共に後部座席に座ってインターネットで見つけた魔法について、再び詳しく事を聞いている。青年は先ほど大狼に死んでいたかも知れないと言われたのが効いたのか、覚えている限りの召喚方法を大狼に伝えている。


「インプをウイッチクラフト研究所で召喚した理由を教えてくれるか?」

「あそこはウイッチクラフト研究所って言うんですか? 地域毎に召喚に適した場所がサイトに書いてありました。」

「そうか。ウイッチクラフト研究所は、かなり危険な場所で気軽に近づいて良い場所ではない。普段は真神様が妖魔を退治しているが、真神様が常にいるわけではないので、妖魔に出会っていた可能性がある」


 大狼が真神を青年に紹介した後に、ウイッチクラフト研究所の危険性を青年に伝えていくと、青年は危険な場所だった事を理解して顔色が青ざめていく。今の日本だと妖魔が自然発生するような場所は滅多にないが、召喚に適した場所と書かれている場所は滅多にない例外な場所のようだ。


「どうも召喚情報が有ったサイトは親切というより、悪意の方が多いようだ」

「そうだったみたいです……」


 術者たちは興味本位で凶悪な術を使い、強力な術を使うために他者を平気で利用する者たちが居る。サイトを作ったのもそのような術者だと予想される。陰陽課が性格を重視して採用しているのは、他者を利用して術を使おうとするような、倫理観が欠如けつじょした者を採用しないためだ。


「召喚した場所は分かった。何故インプは港区に居たのです?」

「大学の用事です。港区の方のキャンパスに行かないとダメだと言われて、電車で移動していたらインプが気づいたら居なくなってました」

「なるほど。キャンパスが二箇所ある大学なら納得です。ですが大学が住んでいるアパートがキャンパスから遠いですね?」

「キャンパスの近くより、駅に近くて家賃が安い方を選んだので、キャンパスからは遠くなってしまいました。ちょっと後悔してます」


 青年の話に嘘はなく、大狼も周辺の地理に詳しいため、青年の話に納得した様子だ。狐塚が運転をして、街中の警察署まで到着する。警察署の前には大狼の知り合いが待っていた。


「山田さん、署の前で待っていたんですか。態々すみません」

斗真とうまくん、本来なら私の仕事ですから気にしないで」


 山田は大狼の実家の神社に出入りしているので、大狼の家族と付き合いがるので、苗字ではなく、名前で呼んでいる。

 続けて狐塚が名乗った後に、青年の登録を山田に任せる。その間に大狼は紙に今回の経緯を書いている。青年の登録はすぐに終わり、大狼は経緯を書いた紙を山田に渡した。


「報告書は警視庁に帰ってから作りますが、簡単な今回の経緯です」

「斗真くん、助かるよ」


 大狼は青年に術師の師匠を探すのなら、山田に相談するようにと言っている。山田も青年に、相談してくれれば条件に合った人物を紹介すると請け負っている。青年は三人と一頭に頭を下げて感謝をしている。そんな青年を見た真神様も神社に来れば相談に乗ると請け負う。


「真神様は私の実家の阿史那あしな神社だ。場所は山の方にあるので、神社まで上がるのは大変だが、場所は分かりやすい」

「もしかして鳥居が見えている山ですか?」

「街中から見えたのなら、真神様の阿史那あしな神社の鳥居だ」

「あの山ですか。分かりました、今度訪ねてみます」


 大狼が真神は面倒見が良いので、困った事があったら尋ねると良いと助言をしている。山田も場所が分からなかったら聞きに来ると良いと、青年に言っている。青年は再び皆に感謝をしている。アパートまで歩いて帰るには遠いので、大狼が青年を送って行くようで、青年を再び覆面パトカーに乗せて走り始めた。


「あの、ありがとうございました」

「感謝はそうだな、将来の就職先に陰陽課を考えてくれたら嬉しい」

「はいっ」


 大狼が青年を陰陽課に誘う理由は、陰陽課が人材不足だからだ。全国に陰陽課の警察官を配置するのは大変で、警察官は都道府県単位で転勤が本来ないのだが、陰陽課に限っては人員が少なすぎるので、長期の派遣という名目で転勤が許されている。そのような人手不足の事情もあって、県境を越えての捜査が簡単に出来るようになっていたりする。

 大狼と狐塚が、青年をアパートまで送り届けると、最後に青年に注意をしている。


「ウイッチクラフト研究所は危険な場所なので近づかないように、それと召喚は師匠が見つかるまでしない事」

「はい」


 青年と別れた大狼と狐塚は覆面パトカーまで戻って来ると、大狼が今度は運転席に、狐塚は助席に乗る。覆面パトカーに乗り込むと、大狼が真神を狐塚の膝の上に置く。狐塚は反射的に真神を撫でそうになったところで、大狼に声をかける。


「先輩、良いんですか?」

「召喚を解いたら真神様は帰ってしまうからな。先ほど約束をしたので、最後に撫でておくと良い」

「ありがとうございます! 真神様、撫でても良いですか?」

「構わんぞ」


 真神も撫でる事を許可をしたことで、狐塚が満足するまで大狼は待ってから召喚を解除する。元の大きな狼になり、大狼と狐塚に別れの挨拶をすると、真神は消えてしまう。


「今日も遅くなってしまった。帰らないと不味いな」

「本当ですね」


 大狼が車を運転して警視庁へと戻る。

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