インプを召喚した魔法使い−5

 真神まかみ狐塚きつねづかが会話をしながらも、真神は魔力の匂いを辿り続ける。随分と歩いて駅の近くまで来てしまった。駅の近くは子供が多く、大狼おおがみと狐塚は、真神を小さな子供から守りつつ進んでいく。大狼や狐塚が、真神が神様として仕事中だと注意すれば、一定上の年齢の子供は理解して真神を見ているだけなのだが、小さな子供は理解できないので大変そうだ。


「先輩、真神様が人気者って言っても、もう少し手加減して欲しいです」

「すまんな、狐塚」


 子供から真神を守りながら、かなりの距離を歩いていく。真神がアパートの中に入っていき、アパートの一室の前で止まる。


「ここじゃな」

「ここですか」

「ここか」


 魔法の気配が全くないので、大狼と狐塚はアパートを見回してから、大狼がインターフォンを押す。インターフォンを押すと部屋の中から音が聞こえ、中に人がいるのが分かる。大狼が警察手帳を出しながら声をかける。


「警察です。少しお話をお願いできませんか」


 大狼が声をかけると、部屋の中から物が倒れる音がする。部屋の住人はまさか訪ねてきたのが警察だとは思わなかったのだろう、部屋の中から返事の後に玄関のドアが開いた。慌てたのかドアはチェーンをかけたままで、ドアは全て開かなかった。


「あ、あの?」

「警視庁妖魔局陰陽課の大狼といいます。少しだけお話をしたいのですが、ドアを開けてもらえませんか?」

「陰陽課? 本物なんですか?」

「警察の中でも陰陽課は珍しいですからね。陰陽課は警察手帳にも書いてあります。読めますか?」


 本来警察官の手帳にはどこに所属しているかは書かれていないが、陰陽課は特殊な動きをするため、仲間内でも一目で分かるようにと、警察手帳を特殊な作りにしており、警察手帳を提示すれば陰陽課であることが分かるようになっている。部屋の住人は大狼の警察手帳を見て、陰陽課と書かれている事に釘付けになっている。


「本当だ」

「少しお話をしたいのですが宜しいですか?」

「はい!」


 陰陽課だと分かったところで部屋の住人は協力的になり、ドアを完全に開けて姿を見せる。出てきたのは青年で中肉中背な見た目だが、髪の毛は長めのようだ。青年は大狼や狐塚を憧れの人物を見たかのように目を輝かせている。


「少しだけそのままでいて頂けますか、すぐに終わりますので」

「分かりました」


 青年に真神が近づいていく。青年は真神にその時初めて気付いたようで、視線を下げて真神を眺めている。真神が青年の匂いを嗅いで、大狼に声をかける。


「こやつじゃ」

「喋った!」

此方こなたを知らんのか? ここらの出ではないようだ」


 青年は真神に驚いたのか腰が引けている。アパート周辺の地域でも真神は子供に人気だし、ちゃんと子供からも神様だと認識されている。なので青年が真神を知らないと言うことは、別の地域から引っ越してきたのだろう。


「当たりですか。ですが魔力を感じられませんね」

「まだ目覚めて間もないのだろう。修行してみれば、どうなるか分からないぞ」

「そうですね」


 魔力や神力などの特殊な力は修行をすることで基本的には増えていく。神様は少し特殊で、人に認知されていることや、信仰心でも力を伸ばしていく。普通の魔法使いの魔力量は、修行の期間が長ければ魔力量が増えるので、年齢が上の人ほど量がある事になる。成長速度は個人差があるので、例外的に量がある若い人もいる。

 青年はまだ目覚めて間もなく、大狼や狐塚では確認できないような魔力量しかない。青年はある意味平均的な魔法使いと言える。


「あ、あの?」

「インプを召喚しましたね?」

「えっ」


 大狼がインプについて尋ねると、青年は目を泳がせて、自分がやりましたと言っているようなものだ。大狼が港区で見つかったインプの説明をすると、青年の顔色が青くなっていく。


「警察には魔法使いとして登録をしていますか?」

「いえ…その、魔法使いって登録するんですか?」

「そうです。魔法使いの中には隠している人もいますが、普通の魔法使いは登録する事を知ってはいる筈です。魔法使いの師匠から聞いていないのですか?」

「インターネットで召喚の方法を調べたので、師匠はいません」

「インターネットですか? デマが多いのですが、よく本物を見つけ出せましたね」


 師匠も無しに悪魔を召喚するのは危険だが、初心者が召喚したインプならば多少引っ掻かれて終わるので、大狼は気にした様子がない。インターネットで本物の召喚方法が有ることの方が問題で、大狼は青年から何処のサイトで召喚方法を見つけたか確認してメモしている。


「確認したいのですが、インプ以外の召喚方法も載っていましたか?」

「はい。インプでも逃げられてしまったので試していませんが、書いてありました」

「試さなくて正解です。もし召喚が本物でしたら、死んでいたかもしれません」

「えっ」


 インプなら引っ掻かれる程度だが、悪魔によっては魔力が足りないと、召喚者の魂を食べられたり、代償を要求する悪魔がいる。青年はインプに逃げられて慎重に行動したことで、命を永らえたようだ。


「それでは署で術者として登録して貰います」

「その、登録しないとダメなんですか?」

「身元が分かっているので自ら登録する方がいいです。危険性がある術者として登録されてしまいますし、登録すれば師匠を探すことも出来ます」


 警察の登録には自然に覚醒してしまった術者も登録されている。術者は基本的に人材不足なため、警察に登録すると一門に入らないかと誘いが来る。誘ってくる人物の評判は数値にされており、誘われている術者に開示される。警察がやるような業務ではないのだが、人材不足を理由に陰陽課の業務になっている。


「でも、インプを勝手に召喚したから、師匠を探すのは無理なのでは?」

「インプなら注意で終わりです。そもそも登録するには術を使った痕跡が必要で、魔法使いが師匠を探すには何らかの召喚をするか、魔法を使わないと登録ができません」


 警察に登録する場合はすでに術者である必要がある。そもそも才能があるかどうかは実際に使ってみない限りは分からず、害が少ない術を使う事になる。インプは術が使えると証明するのに使われる事が多く、インプから逃げられても注意程度で終わる事になる。


「それなら登録しに行きます」

「分かりました。では今から、最寄りの警察署で登録をしに行きましょう」

「はい」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る