インプを召喚した魔法使い−4

 真神まかみはウイッチクラフト研究所の跡地を魔力を探して歩き回る。研究所の中には入らず、研究所の周囲を回っていく。インプは挿し木から召喚されるため、室内で召喚が行われる可能性は低い。


「魔力が薄すぎて近づかないと魔力を判別できなさそうじゃ」

「ウイッチクラフト研究所は残留している魔力が多すぎますか」

「インプの召喚であれば痕跡こんせきが分かりやすそうだが、見つからんな」


 研究所の周辺を大狼おおがみ狐塚きつねづか真神まかみが歩き回って、研究所の裏側に土を掘り返したような跡が見つかる。インプを呼び出すときに挿し木を地面に刺したのだろう。木の枝が刺さっていたかのような痕跡があり、周囲には召喚に使ったであろう道具が落ちている。


「これだろな」

「真神様、魔力の匂いは残っていますか?」

「穴に薄ら残っておる。薄すぎて数回の雨でも匂いが消えそうじゃな。やはり普通であればインプの召喚は失敗していそうじゃ」


 真神が収める土地では、雨などの天候でも魔力の痕跡は徐々に消えていく。魔力が消えるまでは、魔力量によるが普通は百年単位で消える物なので、数回雨が降っただけで消えてしまうような魔力は極少量と言うことだ。そのような魔力ではインプは呼び出せないので、場の力を借りてインプを呼び出しているということだ。


「匂いは追えそうなのだが、ここまで弱いと車で移動していたら追えそうにない。歩きであっても、橋を渡ったり河川敷を歩いていると、匂いが途切れている可能性もありそうだ」

「相模川を渡っている可能性があります」

「あそこは龍神がおるから川の上が怪しいのだ」


 真神が収める土地の川には龍神が祀られており、川は場を清めており、魔力などの異界側に近い術は痕跡毎消え去ってしまう。雨で魔力が消えるのも真神の力と龍神の力が合わさった事で、真神の収める土地では魔力の痕跡が消えることになる。


「そうなったら諦めますので、魔法使いを探すのをお願いできますか」

「この程度の相手だし諦めてもいか。それでは辿たどってみる」


 真神は匂いを辿って移動を始める。どうやら車には乗っていなかったようで、ウイッチクラフト研究所を出ても魔力の痕跡を追えている。


「当然ながら街の方に行くようじゃな」

「山の方に行ったら相手は人ではありませんから、その点は安心です」

「そうじゃな」


 そういうと真神は再び進み始めた。真神が匂いを嗅ぐために頭を振りながら下げているので、尻尾やお尻が揺れており、狐塚が真神を触ろうと手を出そうとすると、大狼が手を握って邪魔になると止めている。


「せ、先輩少しだけ」

「ダメだ。真神様の邪魔になる。それに、さっき十分触っただろ?」

「禁断症状が」

「早すぎる。それなら、狐塚の家の神様を撫でていたらどうだ」


 狐塚の実家は稲荷神社で、稲荷神となって祀られているのは狐だ。稲荷神社は狐が稲荷神の場合と、稲荷神の使いが狐の場合がある。狐塚の実家は狐が稲荷神だ。


「うちの神様は撫で心地が今一です」

「狐塚が綺麗にすれば良いだろ?」

「良いですね。今度、ブラッシングして綺麗にしておきます」


 狐塚の家の稲荷神は真神ほど綺麗好きではないので、触ってもそこまで楽しい訳ではなく、誰も稲荷神を撫でようとする人は居なかった。今後は狐塚によって稲荷神は綺麗にされる事になりそうだ。


「構われるのが好きだし、あやつも喜ぶだろう」

「真神様、聞いておられたんですか」

「匂いを嗅ぐだけなので会話は聞こえておる。狐塚、後でまた触らしてやろう。今はダメだ」

「はい!」


 狐塚は真神の毛並みに虜になっているようで、もう一度触らせて貰えることを大変喜んでいるのだろう、狐塚の目が輝いている。真神はそんな狐塚の様子を見ることなく、魔力の匂いを追って移動し続けている。ウイッチクラフト研究所があった場所から移動して、徐々に住宅街が見える場所になってきた。


「先輩随分と歩きましたね」

「車をウイッチクラフト研究所に置いてきたのは失敗だったかもしれない」

「取りに戻ります? 私とってきますよ?」

「いや、後で取りに戻ろう。この先に橋があって、魔力の痕跡が途切れている可能性がある」

「分かりました」


 真神が橋を渡ったか分かれば先に行くだけだが、河川敷を歩かれるとどうしようもないと言いながら、匂いを嗅ぎ続け橋を渡り切る。


「匂いは残っておったようだの」

「良かったです」

「河川敷も歩いていないようだし、匂いは残っていそうだ」


 真神は匂いを辿って、住宅街の中を歩き始めた。リードも無しに住宅街を真神が歩いているが、真神が納めている地域なので、地域の人は真神が実体化した状態を知っており、真神が自由に動き回っても気にした様子がない。むしろ子供が近づいてくるので、仕事中だと逆に止めないと行けない。


「真神様、人気者ですね」

「昔の癖が抜けなくてな。縄張りを警戒をするのと、民と交流するのが辞められない。今はもうそんな事をしなくても力が無くなったりはしないのだがな」

「真神様の昔ですか?」

「縄張りを警戒は動物だった頃や、妖魔だった頃の癖だ。交流は神になり掛けてからやっていた事じゃな。人に覚えられるほど力が上がったからやっておった。強くなるのは面白いぞ」


 妖魔から神になる者もいれば、神から妖魔に落ちる者もいる。真神は動物から神にまでなった珍しい神で、元はただの狼だった。そこから妖魔になって、最終的に神になっている。

 なので真神の神社は元々あった訳ではなく、後付けで神社がたたった為、真神の神社の神主である大狼の家系は神道以外の術を使う事ができる。


「強くですか」

「強くなりすぎるのもどうかと最近は思うようにんったんじゃがな」

「うちの神様は強くなりたいとか、無さそうですから分からないです」

「稲荷神社が流行して強くなってしまっておるから、あやつは気にしないでも強くなっておる。棚ぼたじゃな」


 稲荷神社は元々は農耕神だったところを、江戸以降に商売の神様として祀られた結果、稲荷神社は急激に増えており、知名度が格段に上がっている。知名度が上がれば神の力も増えることになり、稲荷神は急激に力をつけた神だ。


「なるほど。うちの神様は特殊なんですね」

「此方もかなり特殊な自覚はあるが、稲荷神の流行り方は特殊じゃったからのう」

「聞いてはいますが、そこまでだったんですね」

「うむ、どこもかしこも稲荷神社だらけじゃったぞ」

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