インプを召喚した魔法使い−3

 ウイッチクラフト研究所は秘密結社ひみつけっしゃだが、研究所の名前になってるように、周囲に魔女の集まりである事を隠してはいなかった。悪魔召喚をするまでは周囲へに迷惑をかける事もなく、日本にある秘密結社としても珍しいくらい協調性のある組織だった。

 だがウイッチクラフト研究所は悪魔召喚をしたことで、秘密結社を解散する事になった。ウイッチクラフト研究所の跡地は悪魔召喚をした代償に、場が魔力で酷く異界いかい側に転じており、むしろ場が異界側に汚染されていると言えるほど酷い状態だ。

 狐塚きつねづかはウイッチクラフト研究所がどういう場所か知っていたのだろう。青ざめていた顔色に更に顔を強張らせている。


「ここが悪名高い、ウイッチクラフト研究所なんですか」

「やはり狐塚もウイッチクラフト研究所を知っていたか」

「有名ですから。元々知ってはいましたが、警察官になってから、子爵級の悪魔が召喚されたと報告書を読みました」

「そうだ。子爵の悪魔を倒すのは大変だった」


 悪魔には爵位があり、爵位が上がれば上がるほど強さが上がっていく。インプも悪魔の一種だが弱いために爵位はなく、ただの悪魔とされる。インプが初心者でも召喚できるとするなら、爵位持ちの悪魔は上級者でなければ召喚できない。ウイッチクラフト研究所の研究員は、爵位付きの悪魔を呼び出す事ができるだけの技量があった。


「倒すのが大変だったって、先輩が悪魔を倒したんですか?」

「いや、うちの神様がやってくれた。私は少し手伝いをしただけだ」

「手伝いをしただけって、大量の怪我人が出たとも報告書に書いてありましたよ?」

「私も多少怪我はしたな」


 大狼と狐塚が話していると、どこからか犬、いや狼が現れて二人に近づいていく。狼が二人に話しかける。


斗真とうま、狐塚」


 斗真は大狼の名前で、大狼おおがみ 斗真とうまだ。名前を呼ばれた大狼と狐塚は、声をかけてきた狼の方を見て、狼を認識したところで、二人は返事をした。


「これは真神まかみ様」

「真神様、お邪魔しております」

「うむ、こんな場所でどうした」


 真神は大狼の実家の神社に祀られている神様で、狼の神様だ。真神は大きな狼で体長は二メートルを超えており、肩高も百五十センチ近い。毛色は白茶けている。大きさもあって真神を知らない人が見れば恐怖を覚えるほどの迫力がある。だが普通の人であれば真神の姿を見る事はできないので、住んでいる境内でも真神の姿を見る事はないので怖がられる事もない。


「実は逃げ出したインプを退治したのですが、何処かで召喚されたか調べているのです」

「インプ? ここでならインプ程度なら自然に湧くが、沸いたら退治しているはずだ」


 大狼はインプを退治したのが東京都港区な事や、見つけた時には木になっており、召喚に使われた木の破片が退治したら出てきた事を、真神に説明している。


「つまり誰かが召喚したと言う事だな」

「はい。しかも初心者である可能性が高いのです」

「それなら、魔力の安定していない魔法使いを最近見た気がするぞ」

「真神様、魔法使いが何処に住んでいるかなど分かりますでしょうか」


 真神は流石にそこまで分からないようで、匂いを辿って見つけ出すしかないと言う。真神は狼なので、白狼と同じように嗅覚が鋭く、魔力の発生元になっている魔法使いを探し出すことが出来る。


「真神様お力を借りても良いでしょうか?」

「斗真の願いならば叶えようではないか」


 嗅覚を使うには実体があった方が良く、大狼が力を使って真神に実体を持たせる。今回は嗅覚があれば十分なので、力はそこまで使わない事で柴犬程度の大きさになり、顔つきも何処となく可愛らしくなっている。


「真神様! 可愛いです!」

「そうだろ。そうだろ。この姿は子供からも人気なのじゃ」

「触っても良いでしょうか!」

「存分に此方の自慢の毛並みを堪能するが良い。抱き上げてもいぞ」


 真神は見回りと称して、大狼家の誰かに実体を持つように召喚させて、神社周辺を散歩をしている。その姿は近所で有名で子供たちに大変人気だ。

 そんな子供に人気な真神の可愛らしい姿を、狐塚が最初は遠慮しながら撫でて、狐塚は真神の毛並みに感動したようで撫で続け、狐塚も最初は抱き上げる事を遠慮していた様子だったが、最終的に真神の言う通りに抱き上げている。真神の自慢の毛並みに狐塚は完全に陥落したようだ。


「先輩、真神様をうちの子にします!」

「それは無理なので勘弁してくれ。たまに触らせてやるから」

「仕方ないですね」


 狐塚も冗談で言っていたのだろう、すぐに引き下がる。言葉ではそう言っているが、狐塚は真神はまだ抱き上げたままだ。大狼が真神を触らせると約束してくれた事を狐塚は喜んでいるのか、真神を撫でる速度が上がる。

 大狼と狐塚は満足しているが、真神は自分の意思を聞かれる事なく、触らせる事が決まってしまったようだ。


此方こなたの意思は?」

「真神様が言い出さなければ、こうはなりませんでした。責任はご自分で取ってください」

「それを言われてしまうと、どうしようもない。仕方ないのう」


 真神は仕方ないとは一切思っていないような言い方で大狼に許可をして、自分を必要な時に呼ぶようにと、大狼に言っている

 真神は自身が管理している場所以外には目印がなければ一瞬で移動できない。大狼が目印となるので、狐塚に触らせる時は大狼が呼ぶか、真神が自ら大狼のところに出向く事になる。

 大狼と真神が喋っている間にも狐塚は真神を撫で続けている。大狼が、そんな狐塚に話しかけた。


「狐塚、そろそろ真神様を離してほしいのだが」

「も、もう少し」

「程々にな」


 真神を触る人は時々こうなり、大狼もそのことは知っているので、諦めて狐塚が真神を撫でるのが終わるのを待つ。狐塚が最後に真神の毛に顔を埋めて満足した様子だ。真神の毛から顔を上げた狐塚の顔色は随分と良くなっている。真神は狐塚の顔色を心配して自身を触らせたのかもしれない。


「もういのか?」

「はい。真神様、ありがとうございました」


 狐塚が真神を解放したところで、大狼は真神に魔力を辿る事をお願いする。真神が頷くと、大狼は残された木の欠片を真神の前に差し出す。


「魔力の匂いが薄い。初心者どころか術を使ったのは初めてかもしれない」

「そこまでですと、場が異界側に転じていなければ成功しなかったかもしれませんか」

「十中八九、失敗していただろう」

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