インプを召喚した魔法使い−1
大狼が机に座っている同僚に挨拶をしながら、自分の机に向かっていく。
「大狼先輩、おはようございます」
「
百八十センチを超える身長で筋肉質な大狼と並ぶと、白狼は少し小さく見える。だが、白狼は百七十センチを超える身長で、体格も大狼ほどではないが鍛えていて脂肪も少ないので、モデルのように見える。そして白狼という名前だが髪の色は黒で、髪の毛は男性としては少し長い方だ。
「あれ? 大狼先輩、いつももっと早いのに、今来たんすか?」
「昨日は当直だ」
「ああ。お疲れ様っす」
警察官には深夜の通報に対応するため当直勤務があり、当直が終わっても業務の引き継ぎがあるので中々帰られず大変な勤務だ。次の日が休みになる当直もあるが、陰陽課だとそのような当直は珍しい。
「
「狐塚も当直だったんすか?」
「そうだ。昨日は連続で呼ばれたから大変だった。これは、遅れてくるかもな」
「
陰陽課にも朝礼のような物はあるが、陰陽課に所属している警察官たちは専門がそれぞれ違う事で、受け持つ事件の種類が違いすぎて朝礼をそこまで重要視していない。
「大狼」
「土御門さん」
「報告を見たが、昨日は大変だったようだな」
「はい。一つは間違いで、一つはインプでした」
「インプは調べるのは難しいだろな。一応探すだけ探してみて、無理そうなら諦めてくれ」
白狼が話題に出した土御門が大狼へと声をかけてきた。土御門は大狼と身長は近く百八十センチほどあるが、痩せ型で細く見える。年齢は三十代後半で、髪の毛は男性としてかなり長め。しかも髪も染めているのか茶色に近い色をしている。一見警察官には見えない見た目をしている。
「土御門さん、インプの応援要請は
「そうか。霞は元気にしていたか?」
「はい。棒突きの飴を咥えていたのが似合いませんでしたが」
「口が寂しいか」
「そうだと思います」
実は霞も陰陽課に居た修験道だった。体調不良で医者に止められて、陰陽課から異動をして普通の警察官となっている。霞は老け顔で年齢を誤解されるが、大狼と霞は同期で元々二人は仲が良かった。
「俺も霞さんに会いたいすね」
「白狼、また物を壊したら霞を手伝ってくるように言ってやるよ」
「土御門警部、それは勘弁してくださいよ」
「なら物を壊すな」
「気合い入れたら壊れるんですって、警棒でもなるんすよ?」
白狼は妖魔であり、本来の姿は狼男で凄まじい力を持っており、力を入れるとあらゆる物を壊してしまうので、物を壊すと毎回始末書を書かされている。それは陰陽課でも有名であり、力を思いっきり振るえる仕事か、力の要らない仕事を回している。だが、毎回力仕事を探すのは難しいため、物を壊した罰という体で他の部署に貸し出されている。
「遅れました!」
「狐塚、ギリギリ間に合っているぞ」
「お! やった!」
狐塚が陰陽課に滑り込んでくると、遅刻を謝るが、土御門が時計を確認すると、まだ始業前なので遅刻ではなかったようだ。狐塚が忘れていた挨拶をした後に、大狼たちが集まっている事が不思議のようだ。大狼に狐塚が尋ねる。
「先輩。何か事件でもありましたか?」
「逆だ。特に連絡はないと土御門さんから言われていたところだ」
「そういう事ですか」
白狼が狐塚に今日も綺麗に髪をセットしているねっと褒めている。狐塚が今日は急ぎだったから適当だと言うと、白狼が適当でそれは凄いと褒めている。狐塚は白狼の適当さに文句を言っている。狐塚は文句を言っているが、狐塚と白狼の二人は同期のため仲が悪いわけではない。
二人の様子を見ていた大狼が狐塚に声をかける。
「狐塚、昨日のインプだが調べようと思う」
「インプって魔法使いをですか。見つかりますかね?」
「土御門さんから探してダメだったら諦めろとさっき言われた」
土御門が頷きながら狐塚に一応調べておいてくれとお願いをしている。狐塚が了承したところで、土御門は仕事があるからと、移動していった。
「土御門警部は忙しそうですね」
「陰陽課で数少ない陰陽師だからな。他の術師とも使う術が違うから担当する地域が広いし、時間がかかる術が多い」
「大変そうですよね。私たち神職は、日本ならそこら中に神社がありますから、する事がないんですけど」
「そうだな。出番があるとしたら悲惨な状態だ」
安倍晴明の子孫は土御門となり、陰陽課の土御門警部は血筋的には安倍晴明の子孫だ。
安倍晴明が活躍していた平安京は、陰陽師が設計しているので平安京内の妖魔の発生を減らしていた。現代の東京はそのような都市設計がされておらず、東京になる前の江戸では妖魔が自然発生していたが、大量にある神社やお寺によって妖魔が自然に発生するのを減らしている。都市全体で妖魔の発生を抑えている訳ではないので、空白地帯ができて妖魔が発生する地域は出てくる。空白地帯の妖魔を減らすのが陰陽課の仕事でもある。
「白狼も仕事がないなら、インプを召喚した魔法使いを一緒に探して欲しいのだが、空いていたりはしないか?」
「手伝いたいところなんすけど、俺はこれから脱走した動物の探索っす」
「また他の部署を手伝いに行くのか」
「力以外だと探すのは得意っすから」
狼男である白狼は嗅覚が凄く、追跡から薬物の捜査まで出来て非常に優秀だ。なので物を壊さなくても、他の部署から白狼を貸してくれとお願いされる事が多々あり、今回も他の部署に頼まれて応援に向かうようだ。白狼は大狼と狐塚に挨拶をすると、陰陽課を出ていった。
「それで先輩、インプを召喚した魔法使いに当てはあるんですか?」
「当てはないが、インプから召喚に使用した枝の一部は回収した」
「それで見つかりますかね?」
「怪しいがやってみるしかないだろう」
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