プロローグ−2
現代の妖魔は自然発生する場合が少なく、召喚されて使い魔として呼び出される事が殆どだ。呼び出された妖魔は本体は別の空間にあると言われ、呼び出された存在は分体なので、討伐したところで本体にはほぼ影響がないのだ。
なので、インプに関しても使い魔として呼び出されて、契約者の元で働いていたのを逃げ出してきたのだと予想される。逃げ出したインプであっても日本で生活することは可能だったのだが、インプが攻撃的だった為に大狼によって討伐されてしまった。
「日本でインプが簡単に発生するとは思えない。しかしインプに逃げられるとは、新米の魔法使いかもしれないな」
「日本は魔法使いやシャーマンに緩いですから、他国から逃げてきたり、入国して来ますから。今回の魔法使いは警察に登録してない新人ですかね?」
「かもしれない。魔法使いの新人が警察に登録をすることの方が少ないからな」
「宗教法人であれば分かりやすいんですが、魔法使いは秘密結社とかですから、探すのが難しいですね」
神が居れば妖魔もいる世界。当然のように魔法使いも存在する。免許のような物は存在しないが、魔法使いなどの特殊な力が扱える術師は、警察に登録する事になっている。無登録で魔法を使えば当然罰則があるが、登録しないで野良の魔法使いとして活動する者も多い。
「
「おう。助かったよ」
「私と
「探すのは難しいだろうが、頑張ってくれ」
大狼と狐塚が乗った覆面パトカーが見えなくなるまで霞は見送っている。そんな霞に、一緒に居た警察官が話しかけている。
「あれが
「いや、陰陽師じゃないぞ?」
「え? 違うんですか?」
「
「あれ? 陰陽師って柏手したりしないんですか?」
「違うぞ」
陰陽師は元々妖魔を討伐する職ではない。賀茂忠行や安倍晴明以降の陰陽師は妖魔の討伐する事が有名だが、元々の陰陽師の本分は討伐ではないため、警察の陰陽課での陰陽師は非常に少ない。
霞が陰陽師の説明すると、霞と一緒にいる警察官は不思議そうに霞に聞き返す。
「それなら何で陰陽課なんですか?」
「これは聞いた話なんだが、陰陽課は政治的な配慮らしいぞ」
「政治?」
「神社課は不味いってなってな。そうなると仏教課も不味い。何か無いかと探し出したのが陰陽寮。で、出来たのが陰陽課と言うわけだ」
「そんな理由なんですか?」
「ああ。意外な理由だろ?」
政府は宗教を限定してしまうと所属できる人材が偏る可能性があると考え、宗教的な意味合いの無い妖魔局陰陽課となった。陰陽師は本分でないところに、宗教的な意味合いがないと言うだけで、自分たちの名前を使われるのに複雑ではあった。だが、陰陽課を作ろうとした時は、妖魔の被害が深刻であったため、陰陽師は日本が安全になるならと許可を出した。
「ところで、
「そら、神職だよ。狐塚は巫女さんだな。神社で厄除けとかした事ないのか?」
「あー、あります。そっか。それと同じか」
「祝詞の内容が違うけど同じだよ」
政府の思惑通りに陰陽課は特殊な組織になり、陰陽師、神職、魔法使い、シャーマンと、妖魔を拘束討伐できるなら誰でも所属できるようになっている。それこそ妖魔であっても審査を通れば所属できるのが陰陽課の特徴だ。
「あの、それなら腕力で妖魔を倒してたのは?」
「あれも一応神職だぞ」
「神職って腕力で妖魔を討伐できるんですか?」
「いや、それは修験道とかだな」
大狼が使った力は神通力に近く、力技で倒したように見えるが、実際にはそうではなく、場を清めた事でインプは消えてしまった。腕力でインプなどの妖魔を倒せると言うのは誤解で、妖魔を倒すには何らかの特殊な力が必要になり、力を持っていない者はインプを倒す事はできない。もしビルの管理会社が木を切り倒そうとしていれば、インプによって反撃されていただろう。そう霞は説明する。
「悪魔って素手の神通力とか、そう言うので消えるんですね」
「あのインプは弱かったからな。普通だったらもう少し大変だと思うぞ」
「強い弱いあるんですか?」
「ある。召喚者の力量で違ってくるから熟練の魔法使いであれば、インプであっても強い。もっとも、熟練の魔法使いであればインプに逃げられるなんてないがな。だから二人も新米で未登録の魔法使いだと予測していた」
「なるほど。ところで霞さんはインプって何で分かったんですか? 通報で見に来ても分からなかったので、次は分かるように知りたいんですが」
インプの由来は挿し木で増える木の果実を元にしており、枝を元にすれば比較的簡単にインプを呼び出す事ができるので、魔法使いが一番最初の召喚魔法を練習するのに呼び出される使い魔だ。なので変な場所に木がある場合は、召喚されたインプが挿し木に宿り、挿し木を成長させた木の可能性が高い。そう霞が説明すると、一緒に居た警察官は感心している。
「そう言う事だったんですか。説明ありがとうございます。にしても霞さん詳しいですね」
「そら陰陽課と仲が良いからな。話はよく聞くんだ」
「陰陽課って怖くないですか? どうも苦手意識があって話しかけづらいんですよね……」
「怖くないぞ? 話しかけづらいのは分からなくもないが、陰陽課と仲良くすると良い事がある」
「良い事ですか?」
「御神酒を分けてもらえる。運が良ければ日持ちのするお供物とかもな」
陰陽課に居る神職たちは実家が神社なので、御神酒を大量に貰うので余ってしまう。神様が酒好きであれば消費されていくが、神様がそこまでお酒が好きでない場合は捨てるしかなくなる。霞はそのような余った御神酒を貰って飲んでいると同僚に教えている。
「良いんですかそれ? バチ当たりません?」
「飲んでくれって貰うんだから良いんだよ。さっき居た大狼や狐塚の実家は大きな神社だから、貰う酒も上等な物が多くてな。今度酒を貰ったら分けてやろうか?」
「え! 良いんですか?」
「お! いける口か! 頼んどいてやるよ。俺は御神酒を飲んでバチが当たった事は無いし、心配するな」
「はい! ありがとうございます!」
霞は以前貰った酒の銘柄を教えると、一緒に居る警察官は驚いた後に喜んでいる。二人は酒の話をしながら見回りに戻る。
インプがいた痕跡は道路に開いた小さな穴だけで、オフィス街は普段通りの静けさを取り戻した。
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