第6話 相席食堂とBTSとスカイピース
1週間以上一緒にいてくれた姪っ子も家に帰り、パパのいない日常が始まった。
何をしていたか正確には思い出せないが、とにかく色々忙しかった。それが救いだったかもしれない。
1人での運転中はよく泣いた。どこへ行っても、パパと行った道ばかりだし、子供に見られないですむし。
よくテレビなどでリンゴを手で掴みガシガシとぐしゃぐしゃにする映像があるが、私の心臓はずっとそのリンゴみたいだと思っていた。ずっと息が苦しい。右足を前に出して、次は左足を前に出す、そうしないと歩けないんだなーとも、この時よくわかった。時々、気付くと息を止めてたり。
だからこの時、やる事があるのは本当に助かった!そして私の心臓よ、よくもってくれている。ありがとう。
3か月くらいが経ち、息子は渡米した。ちゃんと行けて良かった。1人での海外は初だったが、時間のない乗り継ぎもなんとかこなし、まだコロナ規制がある2週間のホテル隔離も頑張って耐えた。すごい息子である。さすがパパの子。小学生から息子をみてくれているサッカーのコーチが、「誰よりもパパの気持ちを背負っているから、もう何も言わなくていいと思いますよ」と、数ヶ月前に生まれて初めてサッカーをやりたくなくなった息子が心配で相談した時に言っていた。私はただただそばにいただけだった。彼は自分で決めて、全てを日本において、1人で渡米したのだ。洗濯も料理も、何もかも私がしてきてしまったおぼっちゃまが、全部1人で。
息子の渡米に迷っていた時に、私の姉が「何迷ってるの!日本の大学行ったって東大以外一緒だよ!本人が行きたいんだから、いろんな経験させなさい!」と背中を押してくれた、パパと私の。
息子の気持ちはパパがいなくなってもかわらず固く、私は何の助言も、母の言葉!もなく彼を見守っただけだった。
息子はサッカーで色々と賞をいただき、さらに上の大学に移籍させてもらった。パパも観てるかなぁ。
私がアメリカの息子の所へ行ったのは、それから1年過ぎてからだ。息子は、2つのスーツケースを広げたところから服を出し入れし、コーチからもらったという簡易Waterマットレスで寝ていた。私はすぐにベッドとキャビネット を買いに行った。
日本では、ケチをつけていた私の手料理をとても喜んで食べた。学校も見に行った。コーチや先生とも話をした。パパの写真とメガネも一緒に行ったから、きっと心配性のパパも少しは安心したかな。あと、何もしなかった私に怒っているか、あきれている気もするが。
吉本興業の大崎会長が執筆した本に、芸人は覚悟がちがうと。なぜなら、元手なし、身一つで商売しているからと書いてあった。すごく腑に落ちた。芸人さんて、怖いもんなしのように見えるし、メンタル最強だなーと常々思っていたから。実はそうでなくても、そう見えているってことが、その覚悟なんだと思う。俳優さんも同じだと思う。芸人さんも、俳優さんも心から尊敬する。
息子にもそんな覚悟を持ってこれからも頑張ってほしい。
娘は、この時期BTSにはまっていた。推し活である。原宿や新大久保のショップによく行った。車ではずっとBTSを聴いた。ワクワクドキドキしながら、娘は友達とオンラインLiveを観ては、顔をハートにして帰ってきた。家では、ずっとスカイピースを観ていた。両方とも私にはよくわからないが、間違いなく、娘を寂しさから救ってくれたのは、私ではなく、彼らである。本当に、会えるものなら、会って寿司などご馳走して何時間もお礼を言いたい!ありがとうございました!!!!!
私は、といえば、とにかくがむしゃらに働いた。でも、毎晩眠れるわけもなく、夜はずっと携帯で,千鳥の「相席食堂」を観た。毎晩毎晩。そこから派生し、「いろはに千鳥」も観た。いつの間にか笑っていた。お笑いってすごい。ちなみに今は、もっぱら、かまいたちかダイアン、番組でいえば「座王」を毎晩観ている。ただ、観ている時間は3分の1くらいになったし、部屋は真っ暗でも寝れるようになった。夜中に泣いて起きることもなくなった。時々うなされるが、それはパパがいる時からで、その都度起こしくれるのが今は娘である。
できた子供達
で、私みたいにいつまでもクヨクヨして、白黒の中にいる人に、大丈夫だよ!私も一緒!と、全く安心はできないだろうが、「そうだよね!そんな感じある」と一瞬でも共感して、その時だけでも、ふわっと心が数ミリでも浮いたら、と思い、綴ってみた。
人間は忘れたくなくても忘れるくせに、心の傷が消えることはないのかもしれない。無理に乗り越えなくてもいい。後悔だけで心を重くするよりも、あなたを残して今も心配している人は、あなたが日々を生き、誰かのために何かのために過ごし、その大好きな笑顔が自分といたときのように輝くことを願ってる。そうしたら、大事なその人は、安心して空の上に行ける。旅立たせることが残された者のやるべきことだと思う。そばにいつまでもいてほしいと願うよりも、ゆっくりと空から見ていてもらおう!
もう、心配させるのはやめよう。
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