第4話ヒーロー

葬儀はしめやかに、しめやかに?でもなく、たくさんの人が来てくれて、にぎやかに執り行われた。通夜までの3日間、家で私はずっとパパの横にいた。姪っ子が子供たちの世話から何から色々やってくれた。

何か食べて!とちゃんこ鍋をお椀に入れて持ってきてくれた。ずっとそういえば何も食べていなかった。ちゃんこ鍋は少ししか食べられなかったけど、温かかった。

パパの髪を少し切って封筒に入れた。どうしてもという時に、もしかしたらこれでパパを感じることができるかもしれないから。姪っ子からのアドバイスである。顔を近づけた時に、フワッとパパの匂いがした。アッ!と思った。匂いは記憶ととても繋がっているが、想像ができないものである。なんとなーく覚えている気がしても、いざその匂いをかぐと、アッこれだった!と思う。微妙に想像とちがう。そのアッである。私はすぐに子供たちを呼び,パパの耳の後ろを指さした。「パパの匂いする」

パパが生きていれば、「絶対やだ、かぐわけない!やめてよ!」と言われるところだろうが、18歳の息子も12歳の娘も、すぐにかいでみている。「ほんとだ」しばらく2人はそこにいた。


私が大騒ぎしたあと、私たちは葬儀場に行き、通夜の時間がせまり、そこには色んな人が来てくれた。その懐かしい顔たちが、あまりに辛くて私は挨拶も早々に目を伏せて立ち去ってしまった。失礼な奴である。

通夜本番では、お焼香の列にきちんと1人1人ご挨拶ができた。パパが横で「ママちゃんがんばれ!」と言っていたから。その声がなければ、私は立ってはいられなかった。

その夜は、子供たち、姪っ子とその旦那、甥っ子、みんなが葬儀場に泊まってくれた。私はパパから離れず、棺桶の横に、みんなが作ってくれたパイプ椅子を並べたベッドに横になった。そのそばで、子供たちとみんなが深夜まで人狼などゲームをしてくれた。にぎやかに。パパは暗いのと静かなのが嫌いだから。BGMはアニメワンピースの歌。パパが大好きなアニメ。そういえば、さっき、昔いたスタッフが「ワンピースの結末を知らないでいっちゃいましたね」と悲しそうに言ってた。本当に。

先輩からも電話がきた「どうしてるかなと思って」。きっと同じように先輩も苦しんでくれていた。誰よりもパパをかわいがっていたから。


翌日、パパは、娘が結婚式でパパに歌うはずだった歌に見送られ出棺した。

ファンキーモンキーベイビーズの「ヒーロー」


次は、私の挨拶だ。

あと一踏ん張り。

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