【完結】群青カタルシス

千鶴

※公募用梗概※

 死刑囚浅倉潤あさくらじゅん、二十九歳。彼は本日、死刑を執行される身であった。死を受け入れ、最後の晩餐を嗜み、あとは時を待つだけ。だがそこにひとりの男がやってくる。彼は名を宗胤しゅういんといい、教誨師だと名告った。

 

「タイムリミットは三時間。浅倉潤さん、あなたはあなたの人生を振り返ってくださればそれでいい」

 

 そう言って、宗胤は徐に部屋の扉に爆弾を取り付け始める。

 最初は戸惑いを隠せなかった潤だが、この宗胤の一連の行動を自らの心境の変化を期待して行われているなんらかの催し及び罰だと理解し、人生を振り返る事を受け入れた。

 

 少年時代に父を殺し、少年院を出て務めた清掃業務の最中に旧友前田清玄まえだきよはると再開。叶韻きょういん蝶会ちょうかいという組織に身を置くことになった潤はその組織の祖、三代目鳳蝶アゲハに忠実に生きていたが、ひょんなことから黒函莉里くろはこりりという女の子を殺害し、その事件が明るみに出た事でそれより以前に殺していた木村礼人きむられいとの件も掘り起こされ、逮捕。死刑を宣告されるに至る——そんな半生を語るうちに、潤はこの催しを行う宗胤の目的に疑問を深めていた。

 

 実のところ、潤は誰も殺してはいなかった。父親を殺したのは潤の妹、ゆかり。黒函莉里、木村礼人を殺害したのは旧友である前田清玄だった。だが潤はある事情からその罪を被り、死刑までもを受け入れるつもりだったのだ。宗胤は、潤からその事実を暴露させようとしていた。

 

 

 潤が父親を殺害したとされた事件。その真相は、潤の母親が三代目鳳蝶である樋井蝶子ひのいちょうこのHLA型の適合者であり、その骨髄液を採取するために蝶子の母親が叶韻蝶会きょういんちょうかいを使って潤の母親を殺害。その事実を隠すために罪を被ろうと、死んだ母親に暴行を加えた父を、潤の妹ゆかりが刺して殺害したのだった。

 

 黒函莉里が死んだ事件は、樋井蝶子が首謀していた。移植を受けた合併症で心臓を悪くした蝶子には治療のために莫大な金が要り、その金を自らにかけた保険金で補填しようとしたのだ。そこに白羽の矢が立ったのが、無戸籍の少女。少女を身元が判別できないよう処理し、そこに自らの手首を残すことで自身が死んだことにしよう、そういうシナリオだった。だが切り落とされた手首が鑑定された結果、死んだとされたのは蝶子ではなく黒函莉里に。切り落とされた蝶子の手首には、遥か昔に蝶子に髄液を分け与えた潤の母親のDNAが残っていたのだ。つまり、潤の母親の名は黒函莉里だった。

 さらに潤が殺したとされる(実際は前田清玄が殺害)最後の一人木村礼人きむられいとは、樋井蝶子の骨髄移植手術に立ち会った医師であったのだ。

 

 現在、教誨師として浅倉潤と対峙する宗胤は、刑事片桐かたぎり。片桐は樋井蝶子の妹、樋井ひのい紫子ゆかりこと協力して、これらの罪を全て記した黄色いガラケー、通称『イエローデビル』の暗証番号を探るために、浅倉潤と会話の攻防を繰り広げていた。そのタイムリミットが三時間である理由は、脳死になった樋井紫子の心臓を樋井蝶子に移植するために、その死が自殺ではなく他殺であることを証明するためであった。

 

 樋井紫子は浅倉潤の妹、ゆかりだった。

 紫子は自身の心臓を姉の蝶子に託すことで、生きて罪を償わせたかったのだ。自分ができなかった贖罪を蝶子と、それから兄である浅倉潤に、生きておこなって欲しい。そう願っていた。

 

 暗証番号を明かした浅倉潤は、死刑を執行——されたことになった。出所した浅倉潤は名を変えて慎ましく生活する中で、妹ゆかりへの思いを胸に抱えながら、虚無を生きていく。


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