12
「それこそ最初は
私は眉間に思い切り皺を寄せて
私と前田清玄が、共犯? 何を知ったようなことを。あの小心者と私が対等な立場などあり得ない。私は彼より後に入った
その私が彼と共犯だなんて。こんな屈辱は久しぶりだった。
私は鼻から思い切り息を吸い込む。ふるふると頬を小刻みに揺らしながら目一杯肺に空気を取り込むと、胸の内に溜まった
「私が、
「浅倉さん。あなたが押した報知ベルのボタンは店のどこにありましたか」
「そんなの覚えていません」
「焼肉店にベルを鳴らすボタンは二つしかないんです。一つは厨房の壁、そしてもう一つは入り口を出てすぐの壁。つまり店内にいるあなたがボタンを押すことは出来ない、どうやっても無理なんです」
「だったら! 誰かが
「目撃者が居たんです。あの日、あの焼肉店の入り口前でボタンを押している男を見たという目撃者が。その男の風貌は前田清玄によく似ていた。しかしその目撃証言は見事に揉み消された。あなたが、罪を認めたからです」
……目撃者?
「人の記憶は時が経つにつれて曖昧になります。消えた部分を補填したり、時には捏造したりして、人間の頭は辻褄を合わせていくものなんです。あなたも仰っていましたよね? 薄れた記憶を引っ張り出さなければ、と」
舌がざらつく。カップに視線を落としても、もう紅茶はとっくに底で干からびていた。
「しかし。浅倉さん自らが振り返った人生の記憶は、一言一句“記録”と
宗胤の声は私の耳に届くまでにその形を
今更蒸し返したところで意味がない、そうどれだけ伝えても、この男は人生の振り返りだからと追求を諦めてくれはくれない。いっそ残りの時間、無言を貫いて
“ お前は俺が何をしたいか理解できないままモヤモヤして過ごせ。お前に出来ることはそれだけだ”
——宗胤の低い声がこだまして、頭が揺れた。喉の奥がギュッと締め付けられて、血の気がどんどん引いていく。こんな屈辱な時間を、私はあと一時間も続けなければならない。
「……そういえば浅倉さんはラピスラズリがお好きだとか。五月の誕生石でしたっけ」
「違う、ラピスラズリはラズライトを主成分とした
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