暗雲

 超高層タワーマンションの屋上から夜景を見下ろしつつ、イシュタムは美しい歌声を披露していた。


「――随分と御機嫌だな」


 不意に姿を現したタナトスが、皮肉めいた言葉を投げかける。


「ええ。素敵が出会いがあったの」


「……くだらん」


 唾棄するように言い放つ。


の復活も近い……我々の任務を忘れるな。もしも計画に支障をきたすような事があれば――」


 キン、という金属音が鳴り響く。次の瞬間、イシュタムの首筋に線が引かれ鮮血が噴き出す。


「貴様といえど、消す」


 然程ダメージを受けていないのか、イシュタムは傷口を手で押さえながら笑顔で「分かってるわ」と告げる。


(せっかく面白そうな玩具が見つかったのだもの。壊して屠って……嗚呼、興奮しちゃう……!)


 タナトスが居なくなっても、イシュタムの高揚感は収まらない。


「まるで初恋の気分だわ。ケンザキ……ケンザキ カイト――貴方の事を、もっと知りたい。この私をもっともっともっともっと――



感じさせて……ッ!」




 『錯詞殺曲』編  完

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