事件究明

「よし、全員集まったな」


 西村が営むライブハウス『バンキッシュ』に容疑者を揃えた犬崎。


「まずは訂正させてもらう。俺は警察と名乗っていたが、実際は探偵をしている」


「た、探偵⁉」


「その探偵が、私達を集めて何をしようと?」


「ああ、問題はそこだ。ここにいる全員の共通点は被害者である安倍ミヒロに深く関わった者達さ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


 森本が横から口を挟む。


「ミヒロは殺人で出頭したって聞いたぞ。それなら加害者だろう?」


「それは彼女を裏で操る黒幕の策略だったのさ」


 犬崎は、ある人物の前に立ち言い放つ。




「そうだよな――――林さんよ」




「林さんが……ミヒロを……⁉」


 西村とLITTLE GARDENのメンバーに衝撃が走る。


「な……何を、いきなり! ふざけないで‼」


「大橋誠は安倍ミヒロと交際する傍ら、林とも付き合っていた。いわゆる、二股さ」


「――なッ……何を、根拠に……!」


「無論、証拠はある。これだ」


 誠の携帯電話を取り出すと、明らかに林の様子がおかしくなる。


「パスワードは解析済だ。最後のやり取りは誠と林の言い争い……ミヒロと結婚する為に別れを切り出され、オマエは随分と激昂しているな」


「……い、いい加減な事ばかり……!」


「だったら、アンタの携帯電話も見せてみろ。その性格だ、今も誠のメールを残しているはずさ」


「う……! ううぅうう……ッ!」


「自分の身体を傷つける事により、作曲のインスピレーションを与える方法を教えたのもオマエだな」


 林がミヒロの友人に接触していた事、その友人を介して情報操作していたという証拠も得ている。


「スカウトマンを装い、メジャーデビューの話を持ち出して更にミヒロを追い詰め……結果、裏切った男は殺され憎い女は捕まった」


「………………」


「全てが思い通りにいき、後は何事もなかったように普段の生活に戻る――フン、そうはさせねぇよ」


「…………フッ……フフフ……フフフフフフ……! アーッハハハハハハハッ‼‼」


 突然、林は高笑いをしてみせる。


「よく調べ上げたわね、大したものだわ探偵さん。でも残念、私は手を下していないの。勝手に二人が死んだだけ」


「そう誘導したのはオマエだ」


「馬鹿馬鹿しい。そんな事で罪になるなら、世界中の人間が罰せられなきゃいけないじゃない」


「償うつもりは、ないんだな?」


「いちいち、煩いんだよッ!」


 林はバッグから拳銃を取り出し、犬崎へ向ける。


「ここにいる全員ブッ殺して、その罪も阿部ミヒロに被せてやるわ……!」


 絶体絶命の場面だが、犬崎は表情を変えない。


「銃口向けちまったら……もう手加減しねぇ」


「――――ッ⁉」


 言い終えた瞬間、犬崎の瞳と髪が変色していく。何が起こっているのか分からず、とにかく身の危険を感じた林が発砲しようと試みるが……。


(――かっ……身体が……! 動かな、い……ッ!)


 今、目の前に立つ男は先程までの人間ではない。

瞬天動星しゅんてんどうせい大御神おおみかみ臥怨吏竜ふぇんりるという名の神である。


(ひ……ひいぃい……! あ……ああぁああ……!)


 犬崎は林から拳銃を取り上げると、いとも簡単に握りつぶしてしまう。


「――――ッ――――」


 林はそのまま目を白黒させ、泡を噴いて倒れた。


「詰めが甘かったな。これでオマエもおしまいだ」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「――という事情で、今回の首謀者は林さんだったという事です」


 ライブハウスに到着した警官へ事情を説明する未夜。だが要領が掴めない様子の警官は「うーん」と唸りながら犬崎達へ告げる。


「とりあえず署でもお話、いいですか?」


 これには犬崎も「ゲッ」と呟き、心底嫌そうな顔をしてみせる。


「仕方ありませんよ、犬崎さん。行きましょう」


「全く、面倒くせぇ……」


 警察官は意外と力があるようで、軽々と気絶した林を担ぐと犬崎達と一緒に駐車しているパトカーまで向かう。


「それにしても成長したじゃねぇか未夜。俺が指示をする前に警察へ連絡するなんてよ」


「え? 私はしていませんよ?」


「……何?」


 駐車されたパトカーを見て、犬崎が立ち止まる。そのせいで後ろの未夜がぶつかり「ふにゃっ⁉」という悲鳴があがる。


「ど、どうしたんですか犬崎さん……いたた……」


「……警察官、ここに来たのはアンタだけか?」


「ええ、そうです」


「職業柄だろうな。車のナンバープレートを見たら覚える癖が付いてんのさ。そのパトカー、ミヒロが連行された時の車両と同じだな」


「成程。それがどうしましたか?」


「パトカーを運転する際、二人一組でなきゃいけねぇ。何より……トランクから血の臭いがするぜ」


「――え? え?」


 戸惑う未夜を庇うように、犬崎は前に出る。


「テメェ……何者だ?」


「――思っていたより、随分と聡いのね」


 警官が帽子を脱ぐと、長く美しい髪が広がった。


(……女? いや、違う!)


「まずは邪魔なモノから片付けさせて頂戴」


 謎の女は担いだ林を床へ転がし、踏みつける。そしてから巨大鎌を出す。


「――! やめろッ‼」


 犬崎の言葉に耳を貸さず、女は自身の身の丈程はある鎌を軽々と振り回した。


「女に言う事を聞かせるには不十分ね」


 林の首が音もなく胴体から斬り離される。理解が追いつかない未夜は、悲鳴すらあげられない。


「……テメェ……!」


「そんな顔をされると濡れちゃうじゃない……今日は計画の邪魔になりそうな貴方と、挨拶するだけのつもりなんだから」


「俺が逃がすとでも思ってんのか……?」


「ええ。だって今の貴方には枷があるもの」


 女は今も放心状態で動けずにいる未夜を見ていた。もしかすると林を目の前で殺してみせたのも、逃走手段を得る為だったのかもしれない。


「……次は逃さねぇ。覚えとけ、女」


「私の名前はイシュタムよ。野性的な貴方の名前も聞かせて欲しいわ」


「……犬崎……犬崎快刀だ」


「そう、ケンザキ……また逢いましょう――」


 イシュタムの姿が闇に紛れ、そして消える。立ち尽くす犬崎達と遺体を残して。


「……け……犬崎さん……今の人……一体……⁉」


 今尚、恐怖で身体を震えさせる未夜に犬崎は「心配するな」と優しい口調で話す。


(……ついに『本物』が出てきやがったか……)

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