顕現
救急車を呼び、偽警官は病院へ搬送された。骨折こそしているが、命に別状はない。
いつどこで凶器の刀を手に入れたのかという警察の問いに、男は「ある日突然、自宅に送られてきた」と供述。送り主の名も宛先もなかったと言う。
犯行直前の記憶が曖昧など要領を得ず、警察は今後も尋問を行っていくらしい。
付け加えて、今回の件に犬崎は関与していない事となっている。「面倒だから」という理由で鷹倉に全てをまる投げしたのだ。
なので周りには「鷹倉が日課のランニングを行っている最中、犯人に襲われたので逆に懲らしめた」と言っている。
学校から表彰されるわ、元々高かった女生徒人気に拍車がかけるわと鷹倉にとって疲れる結果となってしまった。自分が女である事を改めて告げたにも関わらず、人気が増したのは皮肉と言えよう。
「……疲れた」
自分のファンだと告げる大勢の女生徒から逃げ続けた鷹倉は、帰路についていた。撒くのに時間がかかり、既に辺りは薄暗い。
「何か対策を考えないと……」
すると突然、布都御魂が脈打つように動く。まるで自分を鞘から解放しろと訴えているように。
「こ、これは……一体……⁉」
次の瞬間――鷹倉の周りの世界が動きを止めた。そして突如襲われる、寒気と圧迫感。
(――か、身体が……! 息もッ……!)
鷹倉は同等の経験があった。幼少時代、本気の父と初めて対峙した時に感じたモノ。
(……圧倒的……恐怖……!)
その恐怖を与える者が、美しい人間の姿で鷹倉の前に現れた。
「……どんな者かと思ってみれば、只の人間か」
『それ』は、虫けらでも見るような冷たい視線を鷹倉に送る。
「どうする? このコ――消しておく?」
更に後方から女の声が聞こえ、鷹倉の首筋に舌を這わせた。
「あぁッ……!……くっ……‼」
「……珍しい物を携えているな」
『それ』が鷹倉の持つ布都御魂に触れようと手を伸ばすと、刀から青白い稲妻が走る。
灼けた掌を眺めつつ『それ』は笑みを浮かべた。
「……人間、貴様に面白い物を見せてやる」
突如、何も無い空間から禍々しい殺気を放つ黒刀が出現。
(――まさ、か――)
「刀の名は『
(貴様ッ……! それを……何処で……ッ‼)
「フフ……いいわぁ、このコ。壊してしまいたい」
背後の女は、後ろから鷹倉の乳房を乱暴に掴む。
「――……!……ッ‼」
「やめろ、イシュタム……こいつは泳がせておく」
「次こそ本命が釣り上がるといいけれど」
「……命拾いをしたな、人間」
「また会いましょう。楽しみにしているわ」
フッと禍々しく強大な気配が消え、世界が再び動き始める。解放された鷹倉は床へ崩れ落ちた。
「――ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
震える全身を抱きしめる。真水をかぶったように冷たい汗が噴き出し、地面を濡らす。
(――なんだ……! 今の奴等は……ッ⁉)
しばらくして、やっと落ち着いた鷹倉は空を仰ぐ。狂月の日が近いのだろうか。月の色が普段より赤く見える。
「見つけた……ついに……
床を強く叩き、奥歯を噛みしめる。口端から血が流れている事も気にせず。
「……この借りは、必ず……!」
瞳に意思の炎を宿し、鷹倉は誓いをたてた。
『人斬呪刀』編 完
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