外部調査
学校に戻った犬崎達は、未夜を呼び出す。
「犬崎さん!」
未夜はすぐに姿を現した。もしかしたら連絡を待っていたのかもしれない。体操服を着ている事から次の授業がバレバレだ。
「あわわっ⁉ た、鷹倉さんっ⁉」
「おはよう、如月さん」
「何で鷹倉さんと犬崎さんが一緒にいるんです⁉」
「今は依頼者だ」
「あ、そうなんですか……って、えぇええ⁉」
困惑する未夜に、犬崎は事の成り行きを説明。
「――私は勘違いをしていたんですね……ごめんなさい、鷹倉さん」
「気になさらず。あの状況では仕方ありません」
「ありがとうございます。それで……事件解決の足掛かりは見つかりました?」
「一つ気になる話がある。俺も鷹倉から話を聞くまで実在していると思わなかったが」
「何ですか?」
「妖刀と呼ばれる刀が、いくつか文献に残されてある。その中で最も有名なのが『
犬崎は鷹倉に目線を配った。詳しい解説は専門家の口から聞いた方がいいと判断しての事だろう。
鷹倉は咳払いすると、呪われた妖刀について語り始める。
「村正は、千子村正という刀鍛冶師の名前から付けられました。徳川家康の祖父・松平清康と、家康の父・広忠の殺害に村正が使用されたのが事の始まりと言われています。その後も家康の夫人である築山殿や子供である信康も村正の呪いで殺され、ついに村正は妖刀として恐れられるようになりました。刀は様々な武人の手に渡り、血塗られた功績を築いていきました。かの有名な真田幸村も村正を使用した一人で――」
「も、もう大丈夫です! えっと、つまり……今回の事件は、その村正っていう呪われた刀が関わっているという事ですか?」
「それならば辻褄が合う」
「仮にそうだったとして、どうやって犯人を捕まえるんですか?」
「布都御魂は破邪刀とも呼ばれています。その特性から、おおよそではありますが妖刀の
「すごい! 便利! それならバッチリですね!」
「ある程度、場所を絞って張り込みだ。早く犯人を見つけないと更なる被害者が――」
「そこに誰かいるの?」
「きゃっ⁉――だ、誰ですか⁉」
突然聞こえた声に未夜が驚きながら振り返ると、そこには担任の姿があった。
「も、森先生⁉」
「如月さんと、それに……鷹倉さん?」
朝から姿を見せなかった鷹倉が、こんな所で油を売っているとなると不思議に思うのは当然だろう。
いち早く気配を察した犬崎は、一瞬にして現場を後にしていた。
「ホームルームに来ていなかった鷹倉さんが、ここで何をしているの?」
「報告が遅れて申し訳ありません。朝から体調が悪く病院で診察を受けて今到着しました。教室に向かうと誰もおらず、困っていた所に如月さんが声をかけてくれまして」
よく咄嗟にそんな嘘がつけるもんだと、未夜は鷹倉を見ながら感心してしまう。
「それで何故、こんな場所に……まぁいいわ。如月さんは早くグラウンドへ。鷹倉さんは一緒に職員室へいらっしゃい。遅刻の手続きをします」
「わ、分かりました! 失礼します!」
未夜が急ぎグラウンドに向かうと、すでにクラスメート達は整列を終えて全員集まっていた。
「なにやってたの、未夜っ! こっちこっち!」
未夜の友達、通称ミーちゃんが手招きをしているのが見える。その隣に整列し、準備運動を開始しながら会話を行う。
「先に教室から出ていったのに現れないから心配したよ~」
「ごめんねっ! ところでミーちゃん。最近身の回りでおかしな事とかなかった?」
「なに、いきなり。あ、分かった! 例の行方不明事件についてでしょ! 学校でも一年生の子が消息不明なんだって。怖いよね~」
被害者に学校生徒がいる事を未夜は初めて知る。
「夜、塾帰りに消えちゃったらしいんだけど。周りでは神隠しとか言ってるみたいだね」
「そう、なんだ……」
「未夜も気をつけなよ? いつもどこかポヤ~っとしてるんだから」
そう言って未夜の頭をポンポンと叩く。彼女はクラスでも一番背が高いので、よくこうやって未夜の頭を叩いたり撫でたりしていた。
「あれっ? その手どうしたの? 絆創膏だらけ」
「あー、これはちょっと……慣れない料理作りなんかしたから、こんなんなっちゃって。あはは」
「そうなんだ? よかったら今度、手料理を振る舞ってよ。味の評価してあげるよっ」
「……うん、そうだね。そのうちに、ね」
恥ずかしそうに走り去っていく友達の背中を見送りつつ、もしかして好きな男性でも出来たのだろうかと未夜は勘繰る。
「彼氏かぁ……私には縁遠い話だなぁ……」
ある男の顔を思い浮かべるが、未夜はすぐに「ないないっ!」と頭を振って妄想を霧散させた。
「あり得ないよ、あんないい加減な人となんて」
――そのいい加減な人はと言うと、元の事件現場に戻り調査を進めていた。
「……………………」
建設会社が不況で倒産して以来、ここには誰も立ち寄らなくなったと聞く。殺人で利用するには、絶好の場所だと言えよう。
鷹倉の話では、被害者は背中からバッサリと斬られ、立ち尽くしていたらしい。更に気になっている事もある。
「やはり、アレは……間違いないだろうな」
推理が正しければ事件解決もすぐだろう。後はいつも通り、犯人が犬崎の仕掛ける罠に飛び込むのを待つのみ。
「……犬歯が、疼きやがる……」
不敵な笑みを浮かべつつ、犬崎は奥歯を噛みしめるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます