暗躍

 眼下に映る街の光を見降ろしながら、男は腕を組み、双眸を閉じていた。


 美しい様相、腰に携える刀――タナトス。


「考え事かしら? まぁ、何を考えていたのかくらい分かるけど」


 次いで、美しい女性が現れる。


 首に巻かれた縄と巨大鎌を持つ――イシュタム。


「変わった気配を感じたわ。まさか例の邪魔者?」


「………………」


「人間でも魔物でもなく、むしろ私達と――」


「何者であろうと」


 イシュタムの言葉を遮り、タナトスが動く。


「始末するのみだ」


 イシュタムは嬉しそうな表情を作りながら、手に持った物をクルクルと回す。


 それは薄汚れた――靴。赤色をしているが、元はこんな色をしていなかった事など一目瞭然。


「別の気配も近づいているみたいだし、退屈しないで済みそうね」


 タナトスの頭上に靴を放り投げると音もなく細切れにされ、塵となって風に流されていく。何が起こったのか、常人が見極める事など不可能である。


「少し様子を見る。感度を最大限に上げろ」


「フフ、了解。『狩り』を始めるのね」


 先程まで光を照らし続けていた月は、いつの間にか厚い雲に覆われ、辺りを漆黒に染め上げていた。




『跳躍飛天』編 完      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る