第13話 理想。
クロロチア共和国って、クソデカ領地じゃんよ。
ルーマニアとかブルガリア、下はギリシャに囲まれてて。
「強国じゃんよ」
《ねぇ、何であんな弱小国と一時でも争ってたワケ?》
『“勝手に独立したが、意外と良い筋まで行ったんで放置したらしい。でまぁ最初は良かったらしいが、結局は公女の教育に失敗する様なバカな国になったんでな”』
「“潰しても良かったんですが、素地はある程度出来上がっていたので、活かす事にしたんです”」
コレの、嫁?
いや流石に無理じゃね?
《ほら、引いてんじゃん》
「“更に僕へ良い案を出せ、と言うワケでも無いんですし、僕と仲良くして欲しいだけですよ”」
「本当にそれ、
『“おう、賢い子だなぁ”』
「“まだ若いんですから、仕事をしてみたいでしょうし。僕と知り合うにしても、単に暇に過ごされるよりは良いかと”」
《“仕事ぶり、人となりも見れるわよ?”》
「それで私が失敗したら?」
「“失敗する様な策は立てませんよ”」
《そこの見極めが難しいんじゃないの》
「“情報はコチラに有ります、侮ってはいませんが、小国の掃除、大掃除では有りませんから”」
「信じてくれるのは良いんだけど、最初は手加減して欲しい」
「勿論」
『“流石に、いきなり王家王族が気にする者の家には入れんよ”』
《1回で済まないワケ?》
「掃除だって1ヶ所で済まないでしょうがよ」
《けどだってさぁ》
「そんなに何もさせたくない?」
《何でそんなに仕事しようとすんの》
恩返し。
アスマン様へは勿論、ココへの恩返し。
だってさ、少なくとも前よりは良い世界に来れたんだもん。
何かしないと気持ち悪いじゃん。
前はそれが子孫繁栄だとか、地域への貢献とか思ってたんだけど。
それよりもっと貢献出来そうだし。
必要とされんのって、嬉しいじゃん。
「色々あんの」
『“照れ臭いか”』
「まぁね」
《“ならお兄ちゃんには席を外して貰いましょう”》
『私が居ますのでご安心を』
《キスなんて致しませんので、ご安心を》
《うっ》
「はい、出た出た」
仕事への意欲。
強い信念、性根は正しく真面目、まさに理想の女性。
もう、目の前の存在が幻なんじゃないかと。
『見惚れているのか悩んでいるのか、どっちだ』
「両方です」
《本当、難儀な子ね》
「“え?何がダメでしたか?”」
「いえ、寧ろ逆です」
「ぎゃく?」
《本当、可愛い》
「どの国でも、女性は家庭を築くもの、家庭を守る事が女性の本分だと思う女性は多い。ですがアナタはそう教育されたのにも関わらず、働く事に興味を示した、そして実際にも何度か侍女や婚約者として成果を残した。侍女の推薦状は本物、そして他国でも成果を出した事も確認出来ました、だからこそ」
欲の無さ、賢さ、愛らしさ。
そして虐げられていたにも関わらず、こうして意欲的で、性根も良いまま。
だからこそ、コレには何か裏が。
『エセル、思いを言え思いを、考えても俺らには伝わらんぞ』
「すみません、話を続けますね。僕が能力にだけ、惹かれていると思われたくないんです、ですけど、僕はその証を出せない。惹かれている部分とも合わさっているので」
「“生意気だ、とか思わないの?”」
「無いですね、寧ろ心強いと思います。容易く誰にでも靡かない、騙されない、家を任せても安心出来るだろう。と」
「“それは嬉しいけど、あまり期待しないで欲しい、私に出来る事は限られてるから”」
決して見栄を張らず、自らの力を良く理解していて、阿らず擦り寄らない。
しかも前に約束した通り、砕けた物言いをしてくれている。
理想的過ぎて、逆に怖い。
「そこはお互いを良く知り、話し合いましょう」
「うん、はい」
ダメだ、可愛い。
『ただな、アレの相手探しは難航しそうだな』
《そうね、着く頃に婚姻となれば直ぐに去ってくれるでしょうけれど、それは流石に難しいものね》
「僕らがお互いこそ理想の相手なのだ、と、彼に理解して頂こうかと。無理なく、徐々に」
「“それしか無いよねぇ、どんなに一気に折ろうとしてもダメなんだし。けど、あんまり傷付けんのは嫌だな”」
「嫌なら身を引くしかない、思えば思って貰えるワケでは無いんですから」
実際、僕もそうだったんですし。
「“前に思ってた人の話が聞きたい”」
それは、ちょっと。
もしかして、今少しだけ思い出した気配を察して。
『まぁ、最初は俺が修道院で拾ったんだがな……』
意外と、ショックを受けていないが。
「“道具として好きだったのでは?”」
あぁ、やはりこうなるか。
『睨むなエセル、いつか言うべき事だ』
「同情心も有りましたし、分かり合えるとも思っていました。けど今とは違います、全く」
「たとえば?」
やるな、ココで片言とは。
「レウス様の気持ちが、やっと分かりました」
『あぁ、俺が泣かせてた件か』
「僕の場合は意地悪では無いですよ、もっと、色々な表情を見たいな、と」
《大人しくて豪胆で、なのに小動物みたいに小さくて儚くて、可愛かったのよね》
「“真逆なんですが”」
「真逆だからでも何でも無いんです、本当に、重ねる事も、それこそ思い出す事も、ほぼ無くて」
『流石にさっきは思い出したか』
《身を引いた方だものね》
「“あの、察するにかなりお痩せに”」
「そこは不満でした、けど内面を評価しての事で」
『偶には餌やりもしたいな』
《なら私、そのお肉が食べたいわ》
『よしよし、コレだな』
「あのですね」
「“その方と私に何か共通するモノは?”」
《そうねぇ、芯の強さかしら》
『儚さは、アレを越える者は居ないだろうな』
「“反動が凄過ぎでは”」
《そうね》
「全く影響が無いと言えば嘘になるでしょうけど、もし天秤に掛かったとしてもアナタを選びます」
『肉感はコッチだしな』
《しかも引き締まってるものね》
「もー、補佐なら補佐だけしてくれませんかね、そう茶々を」
「“もし、その人がウチに助けを求めに来たら、どうしたら良いんでしょうか”」
良い質問だな。
状況に全く流されず、情で目が曇らん、確かに逸材だ。
「面倒は見ますが、妾にする事も家に置く事もしません」
「“情勢上、そうすべきでも、ですか”」
冷静に分析し、この世の不確かさを知っている。
コレは、もしかすればウチの王太子の妾も目指せるぞ、この娘は。
「そうさせない為に僕は全てを使い動きます」
「“それでも逃れられない場合、です”」
「この人に見切りを付けて逃げ出します、絶対に僕が居なければ国が傾くワケでも無いので」
『俺を切り捨てるか』
《困るわぁ、便利なのに》
「“そう逃げる先は?”」
「キャラバンか、ジャミルの下で働くのも良いかも知れませんね、今はそれなりに苦労し真面目に働いているそうですから」
「“助けて下さった方ですよね?”」
「何にでも限界は有ります、超えてはいけない境を越えるなら、僕は見捨てます」
「“情が薄い?”」
「僕もそう疑ってます」
『いや、俺が前に言った事を守っているだけだ。俺がお前を苦しめる事が有れば、去っても良いとな』
《撤回しましょう?》
『いや、コイツを飼うには相応の大きさの鳥籠が必要なんでな、撤回は籠を小さくする事になる。そうなれば』
「はい、逃げ出します、恩は既に十分返した筈ですから」
「“じゃあ何で一緒に?”」
「楽しいから、金が貰えるから、ですかね」
『で、そうなると、俺はコイツの嫁候補を大切にするしか無いワケだ』
《そうね》
「“ほぼ対等なんですね”」
『若干だが、コイツの方が上手だ』
《そうね、ふふふ》
「そろそろ僕に頼らなくても大丈夫そうですけどね、奥様も居ますし」
《そう大きく期待されても、アナタが居ないと困るわ?》
『おう、手放す気は無い』
「“なら、私の兄ですかね?”」
上手いな、王子の俺を身内とするか。
『妾の誘いは本当だ、だから従兄弟程度にしておこう』
「“成程”」
あまり近いと、本気で王族から狙われるかも知れんしな。
《何もされ》
「今されてる、兄妹でもあんま触るな?」
《あ、うん、ごめん》
何か、別世界だったなぁ。
初めて王家王族に関わったけど、マジで別世界、茶々の入れ方すらマジ優雅。
優しい茶々の入れ方だな、とか思ったんだけど。
「私、何か騙されてる?」
《サラ、何言われ》
「いやさ、ほら、ココの王族と関わった事も無いのに、異国の人に認められるとか。順序って言うか何か、飛び越してる気がするじゃん」
トントン拍子超えて跳躍してんじゃん。
《そこは、家に帰ってからにしよう》
「あぁ、うん」
でまぁ、真実を知るワケよ。
パパさんから、私だけ。
「キャラバンが各国の見張り役でも有るのは、何となくは分かっているよね?」
「まぁ、はい」
「彼、レウス様の商隊と僕は直接は関わってはいないけれど、彼の身分が本物なのは確かだよ」
「最初から分かってた?」
「うん、既に顔を見た時にはね」
「危なくない?」
「国としてはね、けれども国の全てが安全かと言うと、ココも他も必ず何処かには危ない場所は有る。大丈夫、彼の国と関わる商隊とも繋がりは有るし、いざとなれば彼らを頼れば良い。ほら、割符だよ」
「ココに頼れば良い?」
「君が行きたい場所へ、何処へでも連れて行ってくれるよ」
「お金は?」
「君は頼るだけで対価を支払う事になる、それ以上は君を逃げ出させた者が支払う事になる、キャラバンには治安維持も含まれているからね」
「そんなバッシバシに介入して大丈夫なの?」
「取引に内情を知る事は不可欠だからね。それに、寧ろ彼らの方が僕らに知って欲しがっているんだよ、ココは安全だからどうか取り引きをして下さい。僕らにしてみたら立場が弱いのは彼らの方、キャラバンの機嫌を損ねたら、最悪は滅びてしまうからね。どう滅びるか、分かるかな」
「品物には薬も含まれてると思うし、でも、いや、ジプシーも危ないと思ったら近寄らなくなる」
「そうだね」
「そして、弱って、周りに吸収される」
「うん、正解だ。正にクロロチアで起きている事だけれど、何も無軌道に起きているワケじゃない、舵取りは国王が執り行っているからね」
その息子の側近と結婚かぁ。
何もしなくても良いよ、何なら好きにさせてやる、って感じだけど。
「有能な人が嫁になった方が良くない?」
「盤石な基盤が無い場合は、ね。少なくとも彼の周りは平気だ、ただ僕が全てを確認したワケでは無いから、何かしら抜けは有るかも知れないけれど。それを言ってしまったら他も同じ、完璧はとても難しいからね」
「だとしても、評価が」
「君がココの王家王族から声が掛からなかったのは、僕らが手を回したからなんだけど、少しやり過ぎたかも知れないね。君は婚約破棄を3度しただけ、としか知らない事になっているんだよ、ココの王家王族はね」
って事になってるって、いや。
「いや、いやいやいや」
「君は君が思うより優秀なんだよ、だからこそ情報を制限していたんだけれど、君の目に留まる者が現れなかったのは。多分、あの子のせいだろうね」
七男かっ。
いやでもまぁ、王家王族に見初められるとかが無かったワケだし、まぁ。
でもなぁ。
「でも、もうちょっと良いのが集まった?」
「まぁ、少しはね。けれど彼の方が面白いとは思うし、何よりも君の事を分かってくれるしっかりした相手となると、彼が1番だと思うよ」
「そう、虐げられて育つ者は稀ですもんね」
「そうだね、そうしているし、そう願ってるよ」
そこも、なんだよね、同じ様な子が居て欲しくない。
けど、そうした事に手を出せんのは結構上か、男か。
しかもウチら女は、その後、面倒見るのが主。
見付け出すにも限界が有る、それこそ私みたいなのも居るし、けど私みたいに逃げ出すのは殆ど居ない。
だって、おかしいって気付かないから。
コレが当たり前で、なんなら他がおかしいんだって言われたらもうね、逃げ出す考えが出るワケが無いんだよね。
「そうした事にも関わりたいなって、欲張りじゃない?」
「出来る者がして何が悪いのかな?女性は守られるだけじゃない、それこそ狩りに出る子も居るし、戦う事が上手い子も居る。そして予備や補佐が居てこそ男は全力を出せる、キャラバンでは特に予備にすらならない者を嫁にするとバカにされるんだよ、ましてや備えや帰る家が無い者に仕事は任せない。そして出来そうもない者にもハッキリ言う、死は損失だからね、そうした問題に僕は甘い事は言わないよ」
「出来そう?」
「勿論だよ、アスマンや皆が君を育てたんだからね」
ダメだぁ、弱いんだこういうの。
「がんばります」
あの子、滅多に泣かないのに。
あんなに目に涙を溜め込んで。
《アナタ、何を言ったの?》
「信じている、とね。良い子だね、情に厚く頭も良い、一体どう育てたんだい?」
《他の子と同じよ、差を付ける程、私はそんなに器用じゃないもの》
「すまないね、折角2人だけになれる頃に、僕が仕事を請け負ってしまって」
《良いのよ、今まではもっと離れていた時も有ったんですもの、私達だって徐々に近付いた方が良いのよ》
「いつの間に離れていたんだろうか?」
《心の事じゃないわ、いきなり毎日居られたら嫌になってしまうらしいのよ》
「あぁ、良く聞くよ、偶には1人にさせて欲しいと言われて喧嘩になるらしいけれど。僕らは仲が良かった筈だよね?」
《さぁ、どうかしら?》
「こんなにも愛しているんだけどなぁ、どうしたら伝わるんだろうか?」
《先ずは、四男のお相手の事から、かしらね。どうして絵姿1つも無いのかしら?》
「それが聞いてくれよ、彼は凄く恥ずかしがり屋で」
「あの、ありがとうございました、おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
《おやすみなさい、サラ》
「はい、おやすみなさい」
本当に、良い子に育ってくれて。
でも、まだまだ、あの子がね。
《父さん》
「君も信頼しているよ、さ、もう寝なさい」
《そうよ、揺れない床で寝れるのは後少しなのだから、ね》
「そうだね、僕らも部屋に行こうか」
《そうね》
《分かったよ、おやすみ》
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