第12話 王子様。
「マジで王子様とか」
『“すまない、そう気を遣わせない為だったんだが、流石にな”』
「“王位継承権は既に手放されていますので、寧ろ将軍に近いと思って頂ければ宜しいかと”」
《“と言っても、辺境伯の長って感じだから大丈夫よ”》
「いや絶対に大丈夫じゃないですって、エセルって相当に重要な役職についてるじゃないですか」
ほら、この沈黙からしてもう。
「“辺境伯の誘いを断ったのは知っています、僕の爵位は侯爵位ですが、コチラでなら子爵以上の令嬢なら全く問題は有りませんよ”」
「私、そこまでは、殆ど使えませんよ?」
「“使う為では無いんですが、もし宜しければ、様子を見ながら仕事をこなしてみませんか?”」
「仕事、とは」
「“アナタが言っていた掃除係です”」
《ほらやっぱり能力が欲しいだけじゃん》
「“能力を評価し、活かして何が悪いんですかね、それとも飼い殺しがお好みですか”」
「いや待って下さい、掃除係の意味を分かって言ってるんですよね?」
『ウチの情勢は既に聞いていると思う、だが周りが不安定でな、掃除を頼みたいのはその隣国だ』
《サラが協力する理由は何も》
「え、やりたいんだけど」
《は?》
「いやだって、また旅が出来るじゃん、しかも相手がちゃんと決まってるんだし」
《だからってお前、前はぶたれたり》
「アレはワザと、ちゃんと怪我しない様に位置は調節したし」
「“それこそ当たり所が悪いと僕の様になるんですから、出来るだけ避けて下さい”」
「なら、ぶたれないで済む作戦を立てて下さいね」
《俺は反対だ》
「“でしたら同行して頂かなくて結構ですよ、残念ですが、代わりは居ますから”」
《いやでも、五男は、そろそろ結婚が》
「“確か、六男さんはまだ、でしたよね”」
クッソ狡っこいなぁ。
六男は前に気が有ったと知ってて出してるし、七男なら絶対に私を守るとも、私は私で七男から身を守るってのも計算して。
けどなぁ。
「七男が行き遅れても困るので」
《いや、行く》
「もーさ、いい加減にしなってば。爵位はどうしたのさ、つか兄だ弟だって言ったでしょうがよ」
《サラが考えを変えれば良いだけじゃん、そもそも爵位が有ったら有ったで尻込みするじゃんかよ》
「そら辺境伯の仕事量は膨大でしょうがよ、書けてもちゃんと聞き取れなきゃ誰かが命を落とすかも知れないんだし。だからこそ、そこは私利私欲でどうこうすべきじゃないでしょうが」
《けど俺らは違うじゃんか、サラが俺を弟だとか兄だとか思わなければ良いだけで》
「“辺境伯の仕事を理解してらっしゃる所も、今回のお話を持ち掛けた理由です”」
「いや詳しくは知りませんけど、と言うかだからこそ」
「“僕は宰相と言うより彼の側近ですので、それこそ秘密を守れる方なら、庶民でも構わないんですよ”」
《なら平民から娶れば良いじゃん》
「“賢い方が好きなので、無理ですね”」
「そこまで賢いワケでも無いですからね?」
《そうでも無いと思うけどな、他はもっとガキっぽいか我儘か五月蠅いか、サラはしっかりしてるしメシ美味いし》
「つか今、他の女と比べたろ?」
《そこは付き合いとか有るからさ、何も無いとか無理でしょうよ》
「他ってもっと幼いの?」
《あ、ソッチ。うん、そらしっかりしたのも居るけど、ずっと安全な家でしっかり教育されて、だし》
「“今はまだ能力の事しか分かりませんが、少なくともアナタは根が曲がらず、虐げられていた者として甘んじる事も無く学んだ。そこが良いと思っています”」
ソレ多分、微妙に転生者だからなんだよなぁ。
もっとクソみたいな世界を知ってるから、思ったよりもクソじゃないって直ぐに分かって、素直に学ぼうとしただけ。
そらクソだと思ってたら世を恨むわ周りを傷付けるわ。
そうしちゃってたんだよなぁ。
恥ずかしいわ、マジで、尖り過ぎ。
「アスマン様のお陰です」
「“それも有るとは思いますが、素地の良さだと思いますよ”」
素地、クソ悪いんだけどなぁ。
「そこも、アスマン様のお陰です、良い見本が居てこそですから」
素直に認めれば良いんだろうけど、あんま嘘は言いたく無いんだよね。
もうこの時点で嘘ついてる様なもんだし。
だってさ、何か、気持ち悪いじゃん。
『“まぁ、ココで褒めるのは程々にして、だ”』
「“コチラでも十分に警戒しますし、サラの保護者をして下さっているご両親からも既に許可を得ていますので、同行するかどうかはお任せしますよ”」
「来るな、相手を探せ」
《嫌だ、絶対に行く》
もー、分からず屋が。
《そう怒っても方針は変えないわよ》
《マジで何で?》
「そりゃサラの為だよ、あの子がやりたい事をちゃんと言ったのは、初めてだと聞いているよ?」
《そうなの、今まで何も、嫁ぐ事しか考えていなくて寧ろ心配だったのだけれど。私はね、嬉しいの、あの子の才能が生かされ、困っている誰かを救えて、しかもあの子が喜ぶ。なら、させたいの》
《けどだって危な》
「そこは君が守るか、他の者に任せるか、サラを説得するかだ」
《父さんは分からないだろうけどさ、サラはもう》
《1度決めたら余程の事では決して曲げない子なの》
「どうしてもと言うなら方法は有るよ、けれど嫌われる覚悟が有る場合だけ、だ」
嫌われたくないけど。
《一応、聞く》
《ダメよ、考えてから、ね》
「糸口は教えよう、凄く狡くて卑怯な手だ」
《無理にでも、サラと》
「惜しい、もっと卑怯だよ」
コレ以上?
《死ぬって脅すとか?》
「そんな事に屈する子かな?」
《母さんに言い付けて終わりだと思う。無理にしても、多分、アイツに言って俺が殺されて終わりだと思う》
「そのまま、卑怯な手口を知らず、悪を知らずに生きて欲しいんだけれど」
《大丈夫、この子は真っ直ぐだもの》
《そんなにヤバいのがあんの?》
「少し強引にでも婚姻届を出し、一生家から出さなければ良いんだよ」
自分の父親だって分かってるんだけど、凄く他人に思えた。
その位ゾッとして、怖いなと思って。
でも、少しだけ良いな、と。
《でもそれ、サラが幸せかどうかは》
「そうだよ、全てを手に入れるのは難しい。問題は何を失うか、何を失っても良いか、そもそも得られるモノの価値を見誤っていないか。過激な行動を取れば必ず代償を支払う事になる、それが自分にとって大きい代償か、相手にとってどれ位の損得となるか。全てを見定める必要が有る、それが結婚でもあるし、人生でもあり、果てはキャラバンの仕事にも繋がる」
《アナタはいつかサラを守るか、嫌われるかを天秤に掛けなくてはいけなくなる、かも知れない。今は、どちらを取るか、ね》
《守りたいし、嫌われたくない》
《なら、選べる道は限られるわね》
《同行する》
「だけ、で良いと言うかな」
《一応、相手を探す》
「そこは真剣に、だ。でないとまた惚れっぽいと勘違いされるだけだろうね」
《そうね、未だに勘違いは続いたままなのだし》
《は?》
《それとも誤解は解いたの?》
《いや、それは未だだけど》
《親に言わせる事じゃないわ、自分でやる事よ》
「見直して貰いたいなら、先ずは行動、じゃないかな」
《うん》
そんな、準備してる最中に惚れっぽいのは誤解だ、と言われても。
「なんで今?」
《誤解されたままは嫌だしさ、見直して貰おうと思って》
純粋か。
いや純粋なんだよなぁ、凄い純粋で、良い子なんだよね。
「で、どう誤解なのよ」
《母さんに言われてから、色々と他も見て、で、一応、母さんにも確認してただけで》
「あー、いや、そら誤解するわ」
《けど母さんが言い出した事だし、てっきり誤解を解いててくれてるかなと、思って》
「成程ね、けど自分でも言わないとさ、ダメじゃんよ」
《うん》
可愛いかよ。
いや、弟的なって意味で。
「けどさ、無理なもんは無理ってのも分かるよね」
《それでも、大人になったら食える様になる事も有るじゃん》
それは分かるけどさ。
分かってくれないかなぁ。
「同性の弟」
《けど女じゃん》
「もう知らん、邪魔、出てけ」
どうしたもんか。
『あの方にご相談なさっては?』
「天才か」
《流石ね》
兄に諦めさせる方法は無いか、と。
僕は試されているんだろうか、色々な意味で。
「“すみません、婚約者になる人に相談するべきか悩んだんですが、私の家族の事なので”」
確かに、僕の姻戚になると思えば。
けれども。
「今、僕が直ぐに思い浮かぶ事は殆どなさってるでしょうし。成婚を果たせば、流石に諦めるかと」
「“既に行き遅れると言えば行き遅れなので、出来るだけ早く諦めて貰いたいな、と”」
「養母のアスマン様への恩ですよね」
「はい」
「決めるのも選ぶのも彼、なので気にするな、と言いそうですが。家族だからこそ、気になりますか」
「はい。“良い子は良い子なので”」
コレは少し、しっかりと考えるべきかも知れませんね。
最悪の場合、本当に彼に奪われる可能性も有るんですし。
「少し時間を下さい、ただ僕は色恋沙汰や家族については不慣れなので」
「“あ、すみません、良い案が有ればと言う程度なので、失礼しました”」
自分で言うのもなんですが、砕けた物言いをされないと、確かに壁を感じますね。
特に、問題の彼とのやり取りを知っていると。
「いえ。それと、僕にも砕けた物言いで大丈夫ですよ」
「“善処します”」
こうして相対すると、非常にしっかりしたお嬢さんで。
寧ろ彼女から破棄したのだろう、と考えるのが当たり前にも思えるんですが。
やはり容姿に目が眩み、優位性を保ちたいが為に軽口を言うのか。
若しくは、情報操作が行われているか。
「家まで送らせて下さい」
「“あ、はい”」
ダメだー、話の途中から見惚れちゃってたわ。
前世からしてどストライク、なんなら窓辺に飾っときたいわ、マジで。
「“すみません、良い答えを即答出来ず”」
「いえ、そもそも来歴を忘れててすみません、全くそう思えないのでつい忘れてました」
うん、マジでごめん。
「“そう言って頂けると嬉しいですよ、ありがとうございます”」
「あの、砕けた物言いはして貰えませんかね?」
「“すみませんが、難しいですね、ずっとこうなので”」
「ですよねぇ、喋るのもお仕事でしょうし、難しいですよねぇ」
私も、何処までも崩れまくって果て無さそうなんだもん、だから無理。
生家でも言葉遣いは綺麗だったから良いけど、脳内音声聞かれたら激ヤバ超えて失望確定っしょ。
あー、直んないんだよなぁ、直そうともして無いし。
けどいつか困りそうなんだよな、コレ。
何がどう困るってワケでも無いんだけど。
何か、アレ、神様に聞かれてたらヤバそうじゃん?
「“念の為に伺いますが、本当に良いんですか?”」
「“どっち?”」
「“両方です、僕との婚約や結婚、それと掃除係”」
「“コチラこそ?”」
「“僕の妻にまで優秀さを求める様な脆弱な国では無いですし、そもそも君は十分に優秀なので大丈夫ですよ”」
「まさか人とやり合う事を評価されると思わなくて、俄には信じ難いんですが」
「“何処に惹かれたかは未だに明確には言えないんですが、君と関わりを断つのは凄く惜しいと思ってます”」
「意外に正直、好きとは言ってくれないんですね」
「“僕も容姿や声は好きですよ、素顔も”」
真っ赤になられ、心が踊った。
嬉しいと言うか、楽しいと言うか、兎に角少し落ち着かない様な心持ちで。
もっと見たい。
出来ればもっと様々な表情を、反応を見たい。
「“あ、アレは、幼く見えるんで”」
「可愛いと思いますよ」
「“あまり、見せないので、ちょっと”」
「嫌ですか?」
「“嫌と言うか、恥ずかしいんですよ、薄着みたいで”」
「成程、なら僕だけに見せて下さい」
「“善処、します”」
真っ赤なまま、挙動不審にも近い落ち着きの無さが、寧ろ僕を煽っていると言うか。
全く思いもしなかった反応が、堪らなく楽しくも嬉しい。
「家は、ココで有ってますかね?」
「“あ、はい、ありがとうございました”」
「いえ、ではまた」
「はい」
まさか、エセルの惚気を聞く事になるとはな。
「真っ赤になったんですよ、彼女」
《お化粧や素顔の事を言われると、ね》
『大概は怒るか恥ずかしがるか』
「でもずっとですよ、落ち着かない感じで、慌てたまま真っ赤で、全くコチラも見ずに恥ずかしそうにするだなんて」
《もう少し、こなれていると思ってたものね》
「そうなんですよ、簡単な返事はコチラの言葉で返して来て、そう努力しているのがまたいじらいくて、可愛くて。もしかして僕は、騙されているんじゃないかと」
《また、急に素に戻って、どうしてなのかしら?》
『夢中になってる時こそ、最も罠に嵌りやすいからな、俺のせいだ』
「いえコレは前からなのでお気になさらず」
『本当にそうか?前よりは遥かにマシだが、俺が浮かれ過ぎるなと注意してから、こうだろうが』
「過剰に喜ばなくても良いんだと思い、単に素の状態で対応を始めただけですが」
《あぁ、コレが素なのね》
「はい」
『浮き沈みが凄いなお前は』
「疑うには冷静さが必要ですから」
『今でもか』
「クソみたいな世だと思ってましたから、今でも殆どの事は疑ってますからね」
『だが、意外とクソでも無いだろう』
「今の王宮やレウス様の周りは、です。全てでは有りませんから」
《だからこそ頑張っているのね》
「そこはムカつくからです」
《はいはい、本当に素直じゃないんだから》
『君の方がエセルの扱いが上手いかも知れないな』
《でしょう?あの子が選んだ私だもの》
「凄いんですよ、本当に全く思い浮かばなくて、やはり僕は薄情なのでは」
『いや、それは無いな』
《そうね》
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