第4話 合流。
「合流すんのかい」
《それな》
《何か問題でも?》
俺らは東方ルートからカスピ海沿いを北上、その進んだ先で北方ルートに進んでた筈の六男と、合流する事に。
全然進展もクソも無いけど、邪魔者が増えた。
「いやさ、じゃあ素直に北に進めば。いや上のシルクロードか、成程ね」
《ココまで付けられていても更に北か東かで誤魔化せますし、コレに任せ続けて手を出されても困りますしね》
《いや残念だけど何も無いんだよな、マジで》
「だって2人共、偶に弟みたいなんだもん」
《僕も、ですか》
「うん、頑張ってるのが凄く可愛い、2人共」
《可愛いって全然嬉しく無いわ》
「知ってる」
《いや、お前は可愛いよ、うん》
《まぁ、仕切り直して、宿に向かいましょうか》
「おー」
流石に前よりも元気になったサラでも、今回の旅は負担になったらしく、暫く見世物小屋に行ける様な状態じゃなくて。
それこそサラはジプシー達の世話になって、そのまま俺と小隊がジプシー達に同行する事に。
ココまで計算してたんなら、やっぱ凄いわ、五男。
《すっかり相手にされてませんね》
《ジプシーは珍しいし、世話になったし、つかアイツ完全に昼夜逆転したまんまなんだよね、大丈夫かな》
《月や夜は女性のシンボルですし、他に体調を崩していないなら大丈夫でしょう》
《結構言わないんだよアイツ、つか俺が起きてる時は寝てばっかだしさ》
《我慢の見極めはしっかり出来てるそうですし、まぁ、寧ろ向こうの世話になってるなら安心ですしね》
《でも折角こうなのに、弟だもんなぁ》
《しっかりしてますからね》
《でも夜伽について教えて貰って無いんだぜ?》
《は?》
《いやアイツから言い出したの、母さんに作法を教えて貰って無いって》
《どれだけ手元に置く気だったんですかね》
《それか女の子だから遠慮したのかな、とか》
《あぁ、確かに。と言うか僕が合流したんですし、どちらかが夜番になるべきかと》
《任せるわ、俺に飽きたかもだし》
《結構、弱気ですね》
《いや、少しは間が空いた方が良い事も有るって言うし》
《なら僕が夜番で、後で文句を言わないで下さいよ》
《で急に朝型に戻ったら俺の勝ちだしね》
ですがその心配も無く、サラは大半のジプシーと同じ様に昼間は馬車の中で眠り、夜になると動き出す生活のまま。
「キエフ公国て、黒海通ったら直ぐじゃんよ」
《残念ですけど、まだ署名が貰えて無いんですよ》
《クソジャミルが》
《と言うか家、ですね、ご両親がゴネて寧ろジャミルが抑えてるそうです》
「ヤるじゃんジャミル」
《惚れ直すなよ?》
「そも惚れた覚えが無いんだよねぇ」
周囲にも不仲だと悟られない程度に、サラはジャミルと清い付き合いが有った。
その事について色々と言う者は居たけれど、本人がコレなので、僕としてはいつか迎え入れるつもりだった。
それは七男も同じだとは知っていた。
けれども旅路の中で、全く男として見られる事も無く、本気で兄弟だと思っている素振りしか無かった。
末っ子が諦め半分になったのも、頷けた。
《まぁ、サラの言葉が通じる範囲は広いですし、更に先かも知れませんよ》
「そっか、最終地点を知らないんだ」
《北海まで行ったりしてね》
「なら船が良いなぁ」
《特定され易いですし、逃げ場も無いですから、全て終わったら乗りましょう》
「はーい」
残念、って言ったら良いのか悪いのか。
最終地点はキエフ公国だった。
で、そこの貴族の侍女見習いになる事に。
良かった、必死こいて言葉を覚えておいて。
《“宜しくサラ”》
「“よろしくおねがいします”」
あ、クスクス笑われてる。
だって仕方無いじゃんよ、お兄ちゃん達みたいな英才教育だったら、もう少し喋れたかもだけど。
あ、もう行っちゃった当主様。
忙しいんだろうな、辺境伯なんだし。
『“じゃあ、刺繍からお願いね”』
「“ししゅうはむりです”」
《“あらじゃあ床磨きからお願いね”》
「最初からそう言えやブス」
うん、やっぱり威嚇って大事。
すっかりクスクス笑われなくなったし、素直に仕事を教えてくれる様になったけど、凄い遠巻きにヒソヒソされんの。
マジでウザいわぁ。
ちょっと肌の色が濃いだけで、同じ人間なのに。
つかバカだなぁ、見定められんのはソッチ側なのに、良く平気でイビリを。
あぁ、バカだからイビんのか。
『“御当主様がお呼びです”』
「“はい、分かりました”」
よし、やっと私のお仕事の本番だ。
《“書いて貰えるかな”》
「“はい”」
話すのは苦手、聞き取りはギリギリ、けど文字は書けるんですよぉ。
今回のお仕事は侍女の査定、所謂家の大掃除、当主様が世代交代したばかりで掃除が必要になっての事。
五男に話が行って、で私がココへ来る事に。
つかお兄ちゃん、凄い信頼されてるじゃん、凄いな。
《マトモなのは、コレだけか》
「あ、喋れるんですね」
《少しね》
「初日でコレは相当ですよね“ごくろうさまです”」
《すまないね、ありがとう》
くたびれたイケメン、ちょっとエロい。
けどなぁ、何か問題が有るらしいんだよね。
教えて貰えなかったんだけど、何だろ。
「引き続き報告するつもりですが、どうしましょうか」
《“暫く頼むよ”》
「“はい、かしこまりました”」
ココから婚約って難しいんじゃね?
とか思ってたんだけど。
『“色目を使って呼び出されたからって、勘違いしないで、どうせ肌の色が珍しいから”』
「はぁ、妬みかよババァ、つか年を考えろ年を、生き遅れにも程があんだろうがよ。つかさ、そもそも良く見比べろよ、肌の張り艶も体系も違うだろうが、どう考えてもアンタの方が格下だクソババア、鏡を見ろ鏡を、あぁん?」
異国の言葉には異国の言葉をぶつけるんだよ。
コレがまた効くんだわ、バカ程やり返されると思って無いから超ビビんの。
マジでウケる。
『“私達に言葉が通じないからって”』
「“おたがいさまですよね”」
はい圧勝。
チョロ。
マジで前世でもっと勉強しとけば良かった、知らないからって馬鹿にされんの当たり前なんだよね、マジで子供と同じなんだもん。
もっと勉強してたら、当たり前を知ってたら言い返せた事も、結局は無知だと何も言い返せない。
はぁ、向こうってマジでクソ。
《“無理はしなくて良いよ”、いつでも方向転換は出来るからね》
「いえ、だいじぃうぶです、“羽虫が飛び回ってる程度ですから”」
友人が出し渋っていた女性は、幼いながらも賢く立ち回ってくれている。
と言うか、幼さはほんの僅かで、だからこそ出し渋っていたのだろうと。
《“婚約はどうしようか”》
「“すみません、まだ片付いて無くて”」
《“手を貸すよ”》
「“いえ、既に匿って頂いているので、コレで十分です”」
執事が言うには母国語で何倍も言い返している強気な娘だ、とは聞いているけれど、この場においては上品なままで居てくれている。
正直、興味はかなり湧いている。
《“困った時にはいつでも言ってくれて構わないよ”》
「はい、ありがとうございます」
少し拙い言葉がいじらしい。
『では、お仕事にお戻りを』
「あ、はい、しつれいいたします」
『御当主様、ご興味がお湧きになりましたか』
《正直、いじらしさも感じている》
『ですがまぁ、反論の際は凄いですよ、武将の様な威圧感に御座いますから、手出しする者はどんどん減っております』
《そうした時こそ最も危ない、彼女をしっかり見守ってくれ、頼むよ》
『はい、畏まりました』
それでもすり抜け、問題は起きる。
家の者は家の死角を良く知っている、計画的に盲点を付かれ、問題が起きてしまったのだが。
「“ケンカはこうすんだよ、クソが”」
彼女は護身用のナイフで男を返り討ちにし、首謀者の侍女まで殴り倒していた。
《“サラ、すまない”》
「“あ、いえいえ、手を洗ってきますね”」
血に怯える事も興奮する事も無く、淡々と冷静に彼女は汚れを洗い落とし、直ぐに経緯を書面に認め始めた。
場馴れしている、いやそれ以上の何か、最早プロと言うべきだろうか。
《君は、戦闘訓練か何かを》
「いえいえ、護身術を習っただけですよ」
それと少しだけ前世のお陰です。
プロレスとか格闘技が超好きだったんだけど、痛いのとか怪我が嫌だし、そもそも習う時間もお金も無かったし。
でコッチで習った。
お肉を付けるにも全然食べれなくて、動けば食べれる様になるかなって。
お陰で良く食べれる様になったし健康になったし、動き回っても怪我は殆ど無い。
うん、運動ってマジ大事。
《“本当に護身術だけで”》
「見るのも好きだったので、こうなりました」
あんまり激しいのはアスマン様が心配するし、産後に良くないって言われてからは柔軟と武器に傾いて、後は内緒でお兄ちゃん達に技を掛けてたんだけど。
そのせいかな、お兄ちゃん2人に気にされてんの、兄妹でも接触ってあんまりしたらいけないんだよねぇ。
《あぁ、怪我が無いか医師に確認を、すまないね》
「“いえ、ではしつれいいたします”」
ですよねぇ、興奮してると怪我に気付かないって言うし。
けど手は無事だし。
うん、見える所には何も無いわな。
『“失礼致します”』
「“はーい、どうぞー”」
でまさか当主様も居るとは思わないじゃんよ。
見せちゃったよ、裸。
《“すまない”》
「“あ、いえ、忘れて頂けると助かります”」
うん、お医者さんに確認して貰ったけど怪我も何も無し。
何か有ったらアスマン様が心配するからね、そこは慎重に暴れた。
『“では、失礼しますね”』
「“はい、ありがとうございました”」
コレで穏便に済むとは思って無いんだけど、お兄ちゃんが1人残る事に。
《何してるんですか》
「怪我はして無いから別に良いじゃん」
《その事じゃないです、肌を見てしまったから正式に婚約をと》
「えー、忘れてくれって言ったのに、だってアレ事故だよ?」
《気に入ったんだそうです》
「婚姻歴だけ欲しいんじゃないの?つか何か問題が有るとか無いとか」」
《女性が苦手、
だった、て。
「毛色に騙され過ぎじゃね?」
《僕もそう言ったんですが、知る限りの女性と全く違うから、と》
「どんだけこの国の女って、まぁ、クソか」
《彼の祖父が相当の曲者で、息子であるはずの父親は子を取り上げられ追放、半ば祖父が育ての親だったそうですが。その祖父への復讐も兼ね、功績を挙げ祖父を排する事に成功、したそうなんですが》
「祖父と似た様なもんだろ、ってクソがワラワラ集まった?」
《だそうで、癖の強い女性ばかりが集まり、揉め合いを見る事にも疲弊していたそうです》
「まぁ、復讐を終えて腑抜けた所にクソに集られたら、そら嫌になるでしょうね」
《しかもサラの強さを認識してしまったので、手元に置いても安心だろう、と》
「あー」
《あー、じゃないですよ、明らかに肌を見た事は口実で、惚れられてしまったかもなんですよ?》
いや、多分だけど、単に現実逃避がしたいだけだと思うんだよね。
ココってアイドルとかそう居ないし、娯楽だってたかが知れてるし。
浮世の憂さを忘れたいだけ、だと思うんだよねぇ。
「私が好きって言うか、変わってるから目がくらんでるだけだと思うんだよねぇ」
《なら、サラにはその気は無いんですね?》
「無いねぇ、辺境伯って相当でしょ?絶対に無理、そこまで頑張ろうと思える程の魅力がなぁ、分かんないわ」
《他の兄さん達にも連絡してるけど、暫くは断るだけにするよ、下手に動かれて恩を着せられても困るからね》
「あー、なら1度帰った方が」
《いや、会ってジャミルに心変わりされても困るんだ、会わないから気持ちが薄れてるのかも知れないって、だから既に他の女を宛がってるらしい》
「あー、バカだからなぁ、確かに」
《本当に良いんだね?》
「苦労ってそこまで好きじゃないから無いわ」
《分かった、暫く僕もココに留まるから、何か有ったらちゃんと言うんだよ》
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
コレじゃ妹離れ出来ないよなぁ。
でもなぁ、私の身の安全が第一だし、つかココまで好かれてるって国を出てから分かった事で。
いや、うん、お兄ちゃん達の相手を見繕う事もしないとな。
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