第3話 旅立ち。
偽装の為に方々に送る荷物が早々に揃ってしまったのと、本格的にジャミルがストーキングを始めたので、少し早いけれど出立する事になってしまった。
うん、悪縁はさっさと切るに限るな。
《またね、サラ》
「はい、“お母さん”」
そうして私は箱詰めになり、街を出る。
五男兄は凄く申し訳無さそうに提案して来たんだけど、ぶっちゃけ凄くワクワクしてる。
だって逃亡劇じゃん、まるで映画みたいで楽しい。
つかお兄ちゃん達を信頼し過ぎてるのかな、何も、全然心配して無いんだよね。
あ、心配はしてる。
トイレとかトイレとかトイレとか。
絞り出したけど、何時まで、とかどのお兄ちゃんが同行するとか知らないんだよね。
そこは私が依頼人だし受け取り人なのに、とか思ったけど、もしマジで拉致監禁されたら逃げ場がバレちゃって真の受け取り手にまで迷惑が掛かるから。
って、私は侍女としてそこで働くらしいんだけど。
何も知らないんだよなぁ、どんな人なのか、とか何も。
あ、やべ、眠い。
まぁ良いか、どうせ何も出来無いし。
寝よ。
《サラ、良く寝れたな》
「いやさ、信頼してるし、そもそも何も出来無いじゃん?」
《まぁ、不安じゃなかったなら良いけど》
サラは俺の荷物の中に居た。
東方ルート、3本のシルクロードの中央、要はど真ん中の忙しいルート。
「不安で泣き疲れて眠っちゃう子ならね、もう少し可愛いと思われるんだろうけどさ、無い無い、そんな繊細さ皆無」
《まだアイツの事気にしてんの?》
「いや別に、ただこれから上手くやるには、か弱い子の練習もした方が良いかなと思って」
《そのまんまでダメなヤツは切り捨てろよ》
「いや良く考えてみ?両親は居ないわ婚約者に追われてるわ、相当厄介な子よ?」
《元、婚約者な》
「そう簡単に署名してくれるかね」
《良く考えれば署名する筈だけど、バカだからなぁ》
「それなー」
《何もさせて無いよな?》
「無い無い、だってムカっとしちゃうんだよね、どうせ体だけでしょうよ、とか思うとさ。財政がマトモなら妾でも、とか言って目くらましが出来たんだけど、アレだしねぇ」
《何、マジで嫁ぐとか考えてたワケ?》
「一応ね、死ぬか嫁ぐか、なら嫁ぐ方がマシじゃん?」
《俺らがそんな事は絶対にさせないのに、信用して無かったワケ?》
「してるよ、けど万が一、陸でだって事故は起こるんだもん、念の為だよ」
《俺達が絶対に幸せにするから大丈夫、マジで信じろ》
「はいはい、ありがとうお兄ちゃん」
本当に、俺って兄貴だと思われてんだな。
他人とは少し近い距離だけど、母さんより、あのジャミルより距離が有る。
コレで無理に手を出しても、誰も喜ばない。
寧ろ、きっとサラは自分を責める。
もうちょっと何とかなると思ったんだけど。
サラはしっかり者だしな。
《お前、夜寝てなかったろ》
「だって眠れなかったんだもん、良いじゃん、火の番は多い方が良いでしょ?」
《ベール付けてても体付きは分かるんだからな?》
「はいはい、護身用のナイフを持ってます」
《はぁ》
「そもそも女のテントから離れて無いし、女性と一緒に居たんだよ?」
《俺らは目が良いの、見えないだろうと思っても絶対に外すなよ》
「はーい」
アレよ、女日照りってガチで有るんだな、と。
だからココら辺ってベールなんだよね、お互いの身を守る為。
お互い、ってのは妊娠は勿論だけど、それこそ性病。
少し遅れて生理が来た後、性病博物館に連れてかれてマジでドン引きしたもんね。
鼻の無い彫像とか絵画とかタペストリーとか、マジで怖くなったもん、向こうもこうしたら良いのにとか思ったわ。
つか良く知らないけど、凄い色々と発展してんだよね、ココ。
魔法が有るからかな。
てかジンって神様かと思ったんだけど、精霊なんだよねぇ、前世物知らず過ぎて前世の意味皆無。
マジで意味無い転生者、何でだよって感じ。
もう少し東、それこそ中つ国寄りに生まれてたら。
いや、学が無いしなぁ。
なら前世からやり直し。
いや、面倒、絶対に面倒だから無理。
だって足し算からでしょ、しかも他のガキと一緒とか、仮に飛び級しても楽になるワケじゃないし。
そこそこ安定した場所に住んで、そこそこ安定した職業に就いて、子育てしながら働くの?
で、子供は1人か2人が精々で、どう育つか賭けんの?
あれ、やっぱココ、天国じゃね?
《ん?酔ったか?》
「ねぇさぁ、何でこんなに女の人が敬われてんの?」
《お前、母さんから何も聞いて無いの?》
「産んで育てるのは女だから、って言うけどさ、稼ぐのだって大変じゃん?」
《女も稼げるだろ、けど男は産めないじゃんよ》
「でも男が居ないと妊娠出来無いじゃん」
《男と女、どっちが多い方が早く増えるよ》
「あー、最悪は男1で女9か、成程ね」
《偶にアホだな?》
「だよねー」
男9に女1とか、もう大変な事になるじゃん。
擦り切れるんじゃね?
つか争いまくって大変な事になりそう、半分は死んでそう。
そっか、少し位は女が多い方が良いのか。
そうだよね、産めなくても人手は多い方が良いし、それはそれで使い道が有るだろうし。
あぁ、最悪は性欲処理の妾か。
何か勉強しとこうかな。
《何か悩みか?話し込んでたらしいじゃん》
「こわっ、キャラバンこわっ、何で知ってんの」
《そら俺の大事な人って事になってんだもん、見張りには気を付けて貰ってるし》
「あー、そっか、妹っても家名も何も違うもんね」
《まぁ、それもだけど》
「いやね、夜伽について殆ど知らないからさ、何か良い知恵が無いかと思って」
《は?》
「いやアスマン様は本当に嫁ぐってなったらって言ってて、私も興味が無かったから、まぁ、良く知らないなと思って」
《侍女として行くんだからな?》
「けど婚約とか婚姻するかもでしょ?なら情報は多い方が良いじゃん?」
やっぱり、手を出した方が良いのかコレ。
つか母さん過保護過ぎだろ。
いや、もしかして初めての女の子だから遠慮して?
いや寧ろしっかり教える人だし。
《病気だとか妊娠の事は分かってるんだよな?》
「そこは知ってるよ、ただ上手くヤる方法、みたいなのをね、ほら、そこが不満で離縁されるとか嫌じゃん?」
《そんな事を不満に思う様なヤツとはさっさと離縁しろ》
「そんな事って、大事でしょうよ、全く楽しくないとか有り得ないでしょうが」
《お前、そう言う事は知ってて》
「お作法とかを知らないの、コッチから誘ったらダメとか、コレはしたらいけませんって事を何も知らないの」
《見世物小屋にも行って無いのか?》
「行ったけど?」
《あぁ、夜間とか早朝のだよ》
「何それ」
《つかどっかで見世物小屋と遭遇するだろうから、そこの人達に聞け》
「何それマジで詳しく教えてよ」
《実際の夜伽が見られる》
「おぉ、何回行った?」
《そう言う事を聞くのは無しだ》
「はーい」
母さん、実はマジでギリギリまで手元に置くつもりだったのかよ。
《居たな、見世物小屋》
「おー、ジプシーとキャラバンって違うんだよね?」
《キャラバンは商業隊、運び屋。向こうは薬師とか呪いや祈祷、歌とか踊りを見せる女の集団、コッチは男の集団》
「じゃあ相手ってどうするの?」
《さぁ》
「さぁって、顔とか見えないの?」
《そこまではね、薄いベール付けてるし薄暗いし、何処の誰か分かんないわ》
「もしかしたら地元の人かも知れないんだ、成程」
《あー、確かにな》
「つかさ、何で黒海渡らないの?ココまで2週近く掛かってるよ?」
《お前が酔うかも、とか、そもそも俺が見守れないからじゃね?》
「過保護」
《つか目くらましにはコッチだな、合流と離散を繰り返してるし》
「上?下?」
《上》
「えー、じゃあやっぱり黒海の方が早いじゃんよ」
《あのな、お前そろそろだろ、月経》
「あ」
《あ、じゃない、だからココで俺らは留まる指示を受けてんの。つか大丈夫か?どっか痛い所は?》
「無いんだよねぇ、サッと来てサッと終わるから直ぐに忘れる」
で、偶に失敗しそうになる。
本当、アスマン様が居なかったら何回恥をかいてたか。
《あのなぁ》
「はいはい、すみませんでした。ジプシーさん所に行ってくるわ」
《夜にな、俺も付き添う》
「えー、恥ずかしいじゃん?」
《万が一だ、取り敢えずは風呂に入れ、それから洗濯もだ》
「はーい」
コレコレ、コレだから役割分担って大切なんだな、とか思ったワケよ。
男には月経が無いからキャラバンはグングン進めるんだけど、女はね、使用済みは燃やしても良いんだけど臭いんだよねぇ。
つか下手するとかぶれるからやっぱり洗いたいし、となると水が必要、しかも綺麗な水。
となるとね、行ける場所は限られるし、そもそもコスパ落ちるし。
《ほらもーコレだ、物ぐさせずに髪を乾かせ、って言うか髪を解いて男の前に出るな》
「お兄ちゃんでも?」
《俺に抱かれたい?》
「あ、遠慮しときまーす」
良い男なんだけど、弟っぽいんだよねぇ。
この体的には同い年なんだけど、もう少し腹黒くて落ち着いてるのが良いな、で良い顔だと尚良い。
純真ぽいんだよね、末っ子だし。
でも六男はなぁ、ちょっと暗い、で五男は真面目過ぎ。
四男は男色家で、三男二男長男は既婚者。
最初はどれか、とか思ってたけど、自分のモテ度を理解しちゃうとね。
実際にマジで可愛いし、もう少し高みを望みたくなるワケよ。
だって可愛い黒ギャルみたいな顔よ?
平たい顔族だった前世にしてもよ、コレかなりの子ですよ、身体もぶりんぶりんでまさに上玉。
けどココって中身も大事だから、そこまで高望みも出来ないんだよねぇ。
前世と今世の学の無さよ、マジでヤバいもん、知識の遅れと体重を取り戻すのに必死で。
友達皆無。
腫れ物扱いだったのも有るけど、何か、周りの余裕さが嫌だったんだよね。
それこそ可哀想、とか思われるのマジで嫌だったし、アスマン様の傍が居心地良くて。
本当ベッタリだったから、大丈夫かな、アスマン様。
《洗濯が終わったら、母さんに手紙を出すけど》
「送る、てか送って、伝言して」
《好きだな母さん》
そらね、だって本当のお母さんだと勝手に思ってるし。
良い大人、良い女、良い母親の見本なんだもん。
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