第2話 商会4U

夜明けの近い、薄明かりが照らす街。

セントレの中央付近にあるコタコットゥと違い、セントレ西側、外壁に近い辺りにある商会ギルド 【 4U 】

ギルド内は飲み明かしたのだろうか、飲みかけの酒と飲んだくれた人達が転がっているギルド内に、扉から光が照らしていった。

朝日が昇るとほぼ同じく、織部とリコリスは1人の盗賊を引き連れて4Uへとやってきた。


「薙いるかー!入会希望者連れてきたぞー!」

織部の声に、織部の目の前に突っ伏して眠っていた大男が起き上がる。眠そうな目を擦る姿は大男とは思えない、まるで子供のような仕草だ。

「……三日月兄さん、おはようございます……。今会長起こしますね……。」

のそのそと散乱した人や物を避けながら店の奥へと向かう大男。

受付カウンターの上で一升瓶を抱えて仰向けで眠っている男を、大男らしからぬ優しい揺らし方で起こしている。

「比良坂会長、三日月兄さん来てますって、起きて下さいよ。」

「……うん?もう朝かぁ。」

いつもの事なのだろうか、馴れた動きでカウンターから転げ落ちずに身体を転がし立ち上がった男。

ボサボサの茶髪に無精髭、ヨレヨレの服の男はぼやけた視界で入口を見つめ、じっと視界が戻るのを待っている。


「おはよう薙。早速で悪いが新メンバーだ。」

「おお!おはよう三日月!それにリコリスの姉さん、いつも麗しいなぁ。」

そんないつもの発言を気にもとめないリコリス。

「お前……、能力は何だ?」

そう問いかけられた盗賊は状況が理解出来ないまま比良坂に連れられ奥で話し込んでいる。


三日月達に大男が、近付いて頭を下げた。

「三日月兄さん、リコリス姐さん、お久しぶりです!」

「おはようダグ。どうだ最近、商会の経理の仕事板に付いてきたか?」

「もうバッチリですよ!お2人のお陰で今までで最高の毎日っす!これ、御礼にと思って買ってきたんで皆さんでどうぞっす。」

そう言って織部達に渡されたのは隣街の人気の菓子屋の焼き菓子の詰め合わせだった。

大男が買うには似合わないクマやうさぎの形のクッキーが詰め合わせになっている。

「……これ、かなり並ぶことで有名な店じゃない。わざわざ買ってきてくれたの?」

「いやいや、お2人から貰った恩に比べたらこれくらい!それに自分用にも買いましたし……。」

大男は見かけによらず甘い物が好きらしい。クスリと微笑むリコリスを見て顔を赤らめながら恥ずかしそうにダグが笑った。


「おーい三日月。こいつうちに入るってさ!」

話が終わったのか、奥から比良坂と盗賊の男が戻ってきた。

盗賊の男は2人の前に来るやいなや、涙を流しながら深々と頭を下げた。

「こんな俺にも仕事や住処を用意して貰って……。お2人には本当に感謝しかありません!もちろん比良坂さんにも!」

先程盗賊として戦闘した際は野蛮な素振りを見せていた彼だったが、どうやら素の性格はかなり真面目な方らしい。

「感謝は仕事で表してくれよ!頼むぞ!」

そんな彼の心境を察したのか、優しく肩を叩く比良坂、微笑みかける織部とリコリス。

盗賊だった男はダグに連れられ、さっきまでそこら辺で寝ていた男達と仕事に向かって行った。


「ありがとな三日月!丁度西の輸送ルートを開拓しようと思っていたんだよ。人手が足りなくてさぁ!」

そう言ってギルドの受付カウンターに2人を案内し、向かいに座る比良坂。

周りでは出勤して来た女性職員達が寝てる奴らを起こし、片付けをしろと命令している。

大男たちが若い女性職員に正座で叱られているのを後ろに感じながら、またか……とリコリスと目を合わせて苦笑いする織部。


「まあ、薙には恩があるからな。それに…………これだけじゃまだ、返せないよ。」

その織部の発言に少し心配した様な目をした後、比良坂はニカッと三日月に笑いかけた。


「あの事はもう気にしなくていいからな!過去より今を生きようぜ!」

彼のどんな時でもニカッと笑う笑顔が、三日月は何よりも好きなのであった。





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