第17話 殺し屋、王女を狙う敵を許さない夕方
「ドタバタしちゃってごめんね。傷は大丈夫かい?」
「うん。お陰様で問題はない。本当に感謝する」
エレンが出立する為、門の外まで送り出すノヴム。
「ノヴム殿。ボクは君に会えてよかった。貴族にも正しい人がいると知れて良かった」
「俺は、正しくなんかないよ。後ろめたいことだらけさ」
「本当かい」
「プルムには浪費を指摘されるし。オルガヌム家は存続の危機がいつも危ぶまれる程、没落してるし」
正しくなんかない。でも一番の理由はそれではない。
法に依らず、私的に何百人もの命を奪ってきた悪だからだ。
しかしそんな事を知らないエレンは、納得していない顔で首を横に振る。
「本当は、ノヴム殿のような人が“貴族院”も引っ張って、この国も背負っていくべきだ」
「買いかぶり過ぎだよ」
「そんな事はない。王宮に来る貴族も、大臣も、事業者も、皆私欲でこの国を浪費しようとしている……」
「王宮? エレンは王宮の人間なの?」
「ああっ、大したものじゃない……ボク、またここに来ていいかな。ノヴム殿とは、また話がしたい」
「勿論さ。俺は見ての通り、名だけの貴族だからね。基本暇なんだ」
「今度はちゃんと話がしたい……この王国の国民を、幸せにするにはどうすればいいかを」
「中々壮大なテーマだね」
「……じゃあ、また会う日まで」
姿が見えなくなるまで見送ったが、その背中はやはり不思議だった。
これまで会ってきたどのタイプとも属さない、掴みどころのない少年だった。
だが、決して悪い人間ではない。理想とするべき、いい人間だったことには違いない。
新しい友が出来た事に笑みを浮かべたノヴムだったが、後ろから声を掛けられた。
「オルガヌム家の方ですか?」
王国の兵士が典型的に来ている軍服姿の男。恐らくは兵士だろう。
「うん。そうだけど」
「実は女王エレーナリア様が脱走したという話が出ているのです。この辺りで目撃情報があったのですが、ご存じありませんか」
「えっ」
現在のこのハルド王国の頂点に立つのは、エレーナリア・フォン=ハルドという淑女である。
それも、王女と呼ぶにはまだ若い、少女だった筈だ。一度見たことがあるが、姫でも王女でも十二分に通用するような、青髪の美貌を兼ね備えていた。
一瞬、エレンの事が脳裏に浮かんだ。彼もまた青い髪をしていた。
(でも、今の国王は少女だ)
エレンは男だ。ならば、国王な訳が無い。
「見掛けてはいないけど、もしそれが本当なら一大事だね。俺も探さないと」
「はい。見つけ次第是非とも私に情報を……」
「それから君、正規の兵士じゃないよね。女王陛下を殺すか捕まえるかしてどうするつもり?」
兵士は――看破されるや否や、懐から剣を抜かんとする。
だがその支点を掌底で抑え、続けて腹部に一撃を打ち込む。
「な、ぜ……わかっ……」
「気配隠すの下手すぎ」
「お前……なにも……がっ……」
「質問は俺がする。君に許されるのは『はい』か『いいえ』だけ」
人目につかぬよう、庭内にまで引きずり込んだ。
拷問は“アリス”と違って、専門外だから得意ではないのだが。
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「んぐ!?」
エレンの帰り道。
全く警戒していなかった闇から、複数の男達に羽交い絞めにされる。
抵抗する間もなく、睡眠魔術を使われて徐々に意識を失っていく。
「はは、ビンゴだ」
最後に聞こえたのは、妖しい男の声だった。
最後に感じたのは、露わになった太腿を撫でる冷たい空気。
「なんだ、ちゃんと女じゃないの」
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