第16話 殺し屋、男のフリする少女の胸を揉んでしまう昼
応急処置的に、リビングのソファでプルムは寝かされていた。
顔面以上に膨らんだ氷袋のおかげで熱は下がり、意識がはっきりとし始めた。
シャワールームから出てきたエレンへ、ノヴムが事情を説明する。
「ごめんね。この子、風邪引いてるのに無理やり働こうとしちゃって……」
「そうだったのか。多忙の中、ここまでしてもらって申し訳ない」
「ゲホ……お見苦しい姿を見せて、申し訳ありません……」
……この時、三者三様の擦れ違いがあった事は、誰も気づいていない。
ノヴム。先程から微妙に落ち着かないエレンを見る。
(エレン、困惑してる。そりゃそうだ、
エレン。じっと見てくるプルムの様子を見ていた。
(入ってきたのはプルム殿。ボクは女だと、気付かれてしまったか? 今気付かれると面倒なのだが……)
プルム。エレンを確認した後で、ノヴムへ視線をやって堵していた。
ただし高熱のせいで、モザイクが掛かった記憶を諦めながら。
(シャワールームで美少女を見掛けたような気がしたけど……エレン様は男。やっぱり夢か。良かった、二度と立ち直れない所だった)
「プルム殿!」
まずはエレンから、ソファでダウン中のプルムへの牽制。
「信じられないかもしれないが、ボクは男なんだ」
「……? はい?」
としかプルムは返さなかった。これではエレンを男女どちらとして見ているか、判断することが出来ない。
一方、悩む横顔を見て、ノヴムは今の質問を深刻に受け取った。
(やっぱり、風呂場にあった下着の事で何か言いたいんだ……今、この家に女の子はプルム一人。つまり、あのセクシーなパンツはプルムの物だと推理できちゃうよね……)
三秒程、どう取り持つのがいいか思案した上で、プルムへ遠回しに意図を伝えんと必死に言葉を絞る。
「プルム……そういえば君は、結構挑戦的なんだな」
「は、はい? 何が、でしょうか」
「その、大人なんだな。セクシーというか……俺は、ああいうの、いいと思うよ」
くそっ、と心の中で実力不足に落胆しながら、思わずプルムのスカートへと目が行ってしまう。
あの青い三角布が、いつもは彼女の桃源郷を囲っている。それを想像すると、申し訳なさと若干の情けなさが脳内で渦を巻く。
(私、さっき夢の中で、女の人が裸でシャワー浴びてる所見て……もしそれが、譫言でノヴム様に知られていたとしたら?)
一方、ノヴムの態度をプルムは深刻に受け取った。
(もしかして私、ノヴム様に所謂“百合”が好きな女だと思われてるううううっ!? 大人、セクシーって、私がセクシーな女が好きって事!?)
額に接している氷が全て溶けそうになった。。
風邪にやられた脳で、必死に誤解を解こうと言葉を手繰り寄せる。
「ノヴム様……違います、私は、私は……好きなのは、好きなのは」
ノヴム、だなんて言える訳が無い。だが他に誤解(とプルムが勝手に思っている事)を解く道が見当たらない。
当然、ノヴムが言葉を差し込んでくる。
「いやその、脱衣所でね。下着が、その……」
「下着……? 脱衣所で下着を脱ぎ合う……? そんな(百合の)内容を、譫言で言ってたんですか……?」
「譫言? いや、現実というか……」
「それは、(私が)変態じゃないですか……」
「いや、(エレンが)変態なんて、言っちゃ失礼だよ。君も、風邪で参ってたのは分かるけど」
「そんな……これじゃ……お嫁に……なれない……」
「あれ? プルム?」
再度風邪がぶり返して、袋内の氷が全て一瞬で蒸発した。眼を回したプルム、三度目のダウン。
メイドの高熱を看病するノヴムを手伝いながら、エレンは度々発言される下着について思案する。
(下着……そういえば棚に置いてあったボクの服が崩れてたけど、何も下には落ちてなかった筈……下着を見られたら、一発でボクが女だとバレるからね、危なかった。それにしても、少なくともノヴムにはボクが女だとは伝わってなさそうだけど)
と、考え事をしながら歩いていたせいか、ノヴムとぶつかってしまった。
思わず前のめりに倒れそうになるエレンだったが、ノヴムが支えて助ける。
「大丈夫?」
「あ、ごめん。ボク、考え事をしてて……っ!?」
「顔が赤くなった。風邪移った?」
何故顔が赤くなったのか。それはノヴムがエレンをキャッチした部分が、胸だった事による。
(胸を……初めて触られた……一応胸が目立たないように矯正の下着付けてるけど……)
一方、ノヴムも男の割には鷲掴みにした胸の感触に違和感があった。
(固い……けど、なんか奥の方が波打ってるような。脂肪じゃない……なんだろう、このよく分かんない飲み込まれるようなイケナイ感覚……)
背徳感。罪悪感。だけど超快感。
産まれた直後の母のぬくもりのような何かを感じた。
エレンは男だし、そんな母の塊など持ち安房褪せてない筈なのに。
「や、あ、そこ、あっ……あっ、んっ」
「ご、ごめん!」
撫で回す形でほんの僅かに静止していた事に気付き、ノヴムも
それにしても物凄いイヤらしい喘ぎ声がエレンからしたような気がした。
「はー、はー、はー、はー」
短く切れる息。
赤い頬のエレンを見ると、心臓の爆音を感じるように胸を押さえていた。
擽ったかったのだろうか。いずれにせよ、男相手でもいい思いはしないだろう。次から気を付けようと反省するノヴムだった。
一方、エレンの心中。
(は、恥ずかしかったけど……あれ、なんか気持ちよかった……もう一回やってくれないかな……まあ、ムリだよね)
要は、ものすごくドキドキしていた。
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