第14話 殺し屋、ワーウルフを暗殺する昼
狼型の怪物が咆哮する。足元の肉塊が転がる。
ワーウルフ。
人間とは相いれない野生の破壊者である魔物が街中で暴れているとあっては、歴戦の兵士でさえ平常心ではいられない。
「こっちに近づいてくる!」
獣という事を思い出させる俊敏さで、一気にノヴムとエレンの下まで駆けてくる。
だが焦点は定まらない瞳をあちこちに向けている。眼に着いた物を壊して回る。
それは暴力というより、激痛の苦悶を連想させる。
「この魔物……苦しんでいる!?」
さりとて強力な魔物。
轟音の連続。壁を破壊すると、衝撃で建物が全壊したのだった。
(まずい、急いで仕留めないと、被害が……)
多少不自然さも覚悟で、ノヴムがワーウルフに隠れて攻撃しようと準備する。
だが直前、ノヴムとエレンの視線に異変があった。
「あ、ああ、あああ」
木箱の脇に隠れたまま、ワーウルフの巨体に子供が怖気づいている。
しかもワーウルフの胡乱な眼が、その子供へと向く。
既に爪は振り上げられた。勿論、直撃すれば子供はひき肉になる。
「危ない!」
避けた。
エレンが子供と共に、奥へと転がったからだ。
「危なかった、うっ……」
「エレン!」
掠っただけで、削れていた。
エレンの細い肩から、赤い液体が染み渡っている。軽傷だが、あれでは満足に動けないだろう。
(エレンから引き剥がさなきゃ)
“空気銃”を隠しながら撃つ。
ガァン、とワーウルフの頭部が揺れる。
不可視の為、
少なくとも、頭部をハンマーで叩かれた衝撃が走った、ワーウルフ以外には。
「ノヴム殿!」
エレンの静止も聞かず、ノヴムは路地へと入っていった。狙い通り、ワーウルフも着いてきてくれている。
これで一対一。挑発が効いてノヴムに敵意が集中し、無駄な破壊をしなくなったのもいい。
十分に奥へと入り込んだところで、ノヴムが振り返る。
「ヴァ、アヴァ」
(かなり強力な魔物だ。外から空気銃で倒すのは、無理だな)
ノヴムの風魔術は、基本脆い人を前提として鍛えられている。
強固な皮膚や筋肉を持つ魔物相手には、それこそ魔術学院で習得するような強力な魔術が必要だ。
生憎、ノヴムの魔力では習得できない。
さりとて百戦錬磨の人殺し、“リヴァイアサン”。
仮に相手がドラゴンだろうと、最適解で殺すだけだ。
ワーウルフの頭を、空中一回転しながら跳び越す。
大地を足で踏んでいるワーウルフ。
天空に足を向けているノヴム。
頭部同士、零距離で交錯。
無防備な狼の後頭部に、右手が触れる。
風魔術が、発動される。
「“風花火”」
いかに外部からの脅威を防ぎ得る強靭な体皮や筋肉であろうとも。
内部からの圧力は防げない。
「ボヴァァァ」
途端、ワーウルフの頭部が破裂する。
眼窩からは眼が飛び出し、鼻孔と耳孔と口腔からは赤黒い血が噴き出た。
直接頭蓋内部で生成された空気に、ワーウルフの脳は圧壊した。
主要部分を失った巨塊は、見合った重い振動を起こしながら倒れた。
ワーウルフの上に降り立ち、返り血を手で払う。
「それにしても、このワーウルフは一体……」
「こっちだ、死んでるぞ!」
人の気配を察知し、すぐさまノヴムは屋上まで跳んだ。
血塗れのワーウルフに群がり、唖然とする兵士達を一望する。
「こんな、バケモノなのに……一体誰が……!?」
「これがさっき水路から抜け出した魔物か!?」
「はい、間違いありません!」
その話を聞いて、ノヴムは一人思案する。
「妙だな、水路からこんな巨大な魔物は出てこない筈だけど」
王都の地下には、水道機能を司る魔術水路が広がっている。
下水処理区画では、不浄が溜まると魔物が生成されるという課題は確かにある。
だがワーウルフは水路ではなく森や荒野に出没する魔物だ。故に王国に出現するなら外から来るはずだ。こんな王都内部で出る事も、ましてや水路から出てくることも無い筈だ。
疑問符が浮かんだのはそれだけではない。
「それにワーウルフのあの感じ、人工的に細工を施されてる……」
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