第24話 幼馴染がやって来た
三連休初日の夜。
義家族母娘は旅行へと旅立って行った。
旅行ではなくサロンの成績優秀者との懇親会だとか何とか言っていたが、要するに旅行だろう。
そう言えば成績優秀者ってなんだよ?
まあいいか。
当たり前のように僕も行くことになっていたのだが、集まるメンバーを考えて欲しい!
明らかに男は僕だけじゃねえか!
というわけで、言い訳に言い訳を重ねてなんとかかんとか免れた。
危なかった。
正論が通じない相手というのは厄介だ。
しかし!僕は勝ち取った!
今日の僕はフリーだ!
一人で風呂に入れるし、シングルベッドだって僕一人で使える。
見れてないアニメも、やってないゲームも、やりたい放題だこのヤロー!!
というわけで、夜は作り置きしてくれてたご飯をちょっと横に避けといて、冷食のチャーハンにカップ麺、たこ焼きも付けたぜ!で、寝落ち上等でポテトチップとキノコの森をセッティング完了だ。
楽しい夜が始まるぜー!!
☆☆☆
ゆさゆさ。
「ふぇあ?」
ゆさゆさ。
「ふぉあ?」
「起きて下さい!ご主人様〜!」
「ふぁ?」
聞き慣れた声の聞き慣れない言葉に起こされる。
「朝ですよ!御主人様〜」
見慣れた顔の見慣れない姿。
「おはようございます!御主人様〜」
「……何してんの?
ミニスカートなメイド服を着た萌乃がそこにいた。
「ぷぅにゃ!」
と声に出して頬っぺたを膨らませる。手首を丸めた猫の手まで沿えて。
あざとさの権化のような仕草だが、そこは萌乃である。
アイドルがガン飛ばすレベルと言われるルックスでやると、めちゃくちゃ可愛かった。
「ノリが悪いよ!スミ〜!」
ただ萌乃はご機嫌斜めだった。
「何が起こってるの?てか、めちゃくちゃ眠いんだけど、今何時?」
頭がクラクラする。
朝の5時頃まで『ヴィクトリアンラバーズ〜メイ辱の館〜(マニアックアンリミテッド版)』で…を観ていた記憶があるのだが。
「朝の6時だよ〜!」
「はえーよ!!」
1時間も経ってないじゃないか!
「今日はね〜、メイドさんごっこをします!」
きゃるん!とやはりあざとく宣言する萌乃。
「というわけで、起きてくださ〜い」
「め、メイドさんごっこ?」
またとんでもない言葉が出て来た。
「好きでしょ?メイドさん」
ニコニコと朝6時とは思えないキラキラした笑顔で聞かれる。
「い、いや別に、好きというほどのことは?」
内心バクバクしながら慌てて答える。
「好きじゃん!ほら!」
そう言って、アイドルが新作BDの発表のときのように手元に四角い箱を持つ。
そこには、『ヴィクトリアンラバーズ〜メイ辱の館〜(マニアックアンリミテッド版)』のタイトルと、メイドさんがあんなことやこんなことになっているイラストが。
「………」
僕は言葉を失った。
「はーい、じゃあ下に降りますよ〜」
言いながらパシャッと食べ散らかったゴミと、BDのパッケージ、……とかをまとめて写真に撮られる。
「な、何を!?」
「え〜別にぃ?ジェレスカさんに告げ口したりしないよぉ〜?」
天使のようないつもの雰囲気はなりを潜め、子悪魔……いや、悪魔のように笑う。
「今日はね、メイドさんごっこの日、いいよね?」
「……はい」
僕は力なく頷いた。
☆☆☆
一階に降りると、そこにはもう一人の悪魔……ではなく、同じく幼馴染の双子の妹、冷佳がいた。
当たり前のようにミニスカートなメイド服を着ている。
冷佳はいつもの冷静な顔で僕が食べ散らかした、カップ麺や冷凍食品の空容器を写真に収めていた。
「おはようございます。御主人様」
いつも通りの冷静な声であいさつされる。
「な、何を?」
分かっているが聞いてみる。
「大丈夫。ジェレスカさんに報告したりはしない。私は優秀なメイドだから。せっかく作っておいたご飯を食べずにカップ麺食べてたなんて知れたらジェレスカさんがとても悲しむから、私はそんなことしない。優秀なメイドである限りは」
「……」
「私は優秀なメイドだから捏造もしない」
「ん?」
そう言う冷佳がちょいちょいと手招きする。
「んん?」
不穏な空気を感じてその声に従う。
「……なんだコレ!?」
写っていたのは僕の部屋だ。
しかし、そこに本来あるはずのないものが、
明らかにリリア姉さんのだと分かるサイズ感のブラと、見る人が見れば分かるレイミのブラとショーツ。更に、ジェレスカ母さんの肌着としては何の役割も果たしていない紐とか糸とかである。
それをズボンずりおろして、パンツになっている僕が握り締めたまま寝ている写真だ。
「なんだこれは!?」
こんな危険物を取り出した記憶はない!
断じてない!
「大丈夫。パンツは脱がしてない。尊厳は守った」
「違ーよ!!??」
「起きる前に撮っといた」
しれっと言われる。
「なんでだよ!?」
「「おもしろそうだから?」」
わあ、息ぴったり!じゃないんだよ!?
「「そんなわけで、今日はメイドさんごっこの日です」」
三連休の二日目の朝6時、こうして僕の自由は敗北した。
ーーーーーー
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