第23話 クリスマスプレゼント
「走れソリよ〜森の中を〜」
そんな歌がついつい口からこぼれ出てしまう今日、そう!クリスマスだ!
まあ、クリスマスプレゼントへの期待に胸を膨らませていたのは遠い昔、今では世間を呪うだけの寂しい日だ。
そんな僕を憐れんでか、いや自分たちが楽しいだけだからのような気もするが、義家族と、幼馴染がサンタのコスプレ……そんな格好で外を歩いたら凍死するぞ?みたいなコスプレだ、てか、ジェレスカ母さんに至っては、どこにあったんだその紐サンタ!?みたいな有り様である。
えーっと、何だっけ?
あ、そうそう。
まあ、寂しいなりに賑やかなクリスマスということだ。
ちなみに僕はトナカイの着ぐるみを着ている。
最初、赤い鼻と角だけ渡されて、『今日はこれだけしかつけちゃだめだからね?』という盛大なドッキリを仕掛けられて焦ったのだが――朝に言われてドッキリだと認めてもらえたのは夕方だった、皆演技が迫真だった、さすがだ――まあ、パーティは楽しかった。
リリア姉さんの考えたサンタとトナカイゲームという謎ゲームはなかなかにリリア姉さんだった。
サンタはトナカイのひくソリに乗っているのであって、トナカイに乗っているわけではないのだ。
サンタが次々とトナカイに跨っていって、最初に乗る場所がなくなったサンタが負けってどういうゲームだ?
全員乗れたらトナカイの負けって?
しかも負けた人は脱ぐってなんだそれ?
脱ぐほどすでに着てねえじゃねえか!
ジェレスカ母さんなんて一本だぞ?一本!
後、僕も着ぐるみしか着てないんだから、脱がそうとするなよ!
しかも、脱がした後に続けようとするなよ!
あと、袋の中身は誰だろな?はその格好でやると危険すぎると思うのだ。
――まあ、でもパーティは楽しかった。
そして、僕は寂しく寝るわけだ。
義姉と義妹に囲まれて。
☆☆☆
「起きるんじゃ」
真夜中?知らない声とともにゆさゆさ揺すられた。
「ふぇ?」
目を開けると、白いヒゲに赤い帽子の外国人のおじいさんがいた。
「メリークリスマス!」
ハッハッハ!!と渋い声で笑う。
「ふむ!言いたいことはわかるぞい!ワシはサンタクロースじゃ! 身分証もあるぞい」
首から掛けた社員証みたいなのを見せられる。
真サンタクロース第3697号
A-2
2012年認証済
2027年12月31日まで有効
異世界サンタクロース連合
とある。
「はあ?」
サンタクロース?
「ふむ。とりあえずプレゼントを持ってきたぞい」
「はあ?」
プレゼント……?
「お前さんの希望は、『劣情炸裂清廉学園 限定版』じゃったな!」
「は?」
「あれ?欲しがっておったじゃろう?」
サンタクロースが首を傾げる。
いや、サンタクロースのプレゼントがR18のパソゲーってどうなんだよ!?
確かに欲しかったけども!
劣情炸裂清廉学園は、タイトルから分かる通りのバカゲーだ。
首から上は清楚な女子学生(18歳以上)がひしめく去年まで女子校だった学園に、一人だけの男子として入学した主人公が、ありとあらゆるおバカシチュエーションで……色々あるというものだ。
「ふむ。しかしだの、お主はまだ17歳。まだ買い与えることは出来んのじゃ」
「は?」
何言ってんだ、このジジイ?
「最近はサンタ業界もコンプラが厳しくてのぉ」
遠い目をするサンタジジイ。
「まあ、そんなわけで、ゲームはプレゼントできないわけじゃが、そこはサンタの力じゃ!お主にはこれをやろう!」
「は?」
そう言って差し出されたのは、1枚の紙。
「そう!これは劣情炸裂清廉学園の舞台」
サンタの格好したジイさんが、ハリウッド俳優みたいな渋い声で劣情炸裂清廉学園って言ってるのってシュールだな。
「聖イレティーヨ学園の入学許可証じゃ!」
「……はあ?」
「分からんかの?つまり、これがあれば、パソコンゲームは出来ないけれども、お主の意識そのものでゲームの世界が体験出来るというものじゃな。最近、隣のサンタ協会から独占権が解放された技術での。
「……なんだと!?」
「ハッハッハ!さあ!若人よ!夢の世界へ飛び立つが良い!明日の朝までしか見れぬ夢の世界じゃ!」
「なんと!なんだと!マジか!まじかよ!サンタさん!」
ってことは、あれか!
あれだな!あれなんだな!
あんなシーンとか、こんなシーンとかが、僕の体で体験できちゃうってことだな!
「行ってくる!行ってくるよ!サンタさん!ありがとう!!」
「ふむ。楽しんで来るがよい」
入学許可証を空に掲げると、ピカあっと光って、青空が広がった。
僕は夢の世界へと飛び立ったのだ!
☆☆☆
「ふむ。無事に旅立ったの。さて、ワシは残りの入学許可証を配らねばならぬ。ホッホッホ、クリスマスイブは忙しいわい」
☆☆☆
翌朝。
何故か僕はぐったり疲れていた。
何かとても楽しい夢を見ていたはずが、途中からえらいことになったような……?
悪夢ではなく、いい夢だったとは思うんだけど。
体が絞り切られた雑巾になったように重い。
寝たはずなんだけどな?
「ふふ、それは綿あめじゃなくて私の太ももよ……ああ……そっちはたこ焼きじゃなくて、私のおヘソ……」
「!?」
隣の妹がうにゃうにゃと発した寝言にビクッとなる。
それは僕が少しだけ欲しいなぁと思っているゲームの学園祭で起こるイベントのセリフと一緒だったから。
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