第21話 狂気の同級生の影で

昼休み。

学校では購買に買いに行く派、学食で食べる派、弁当を持って来る派の3派閥がある。


僕は購買で買う派だ。

学食は混むし、後、常連3年生グループによる不文律がちょこちょこあって、若干窮屈だから、めったに使わない。


僕は弁当を朝から作れるほど料理は得意じゃないし、ジェレスカ母さんは料理は得意だけど弁当は苦手らしい。

苦手というか、知らない。

弁当を作ったことがないと言っていた。

コンビニは高いし。


というわけで購買だ。

安くてデカいのだ!

購買で買って、晴れてれば中庭。

雨の日は、休憩スペースで食べるのが日課だ。


後、昼休みの教室はいまいち居心地が悪いというのもある。


なぜなら、ヤツがいるからだ。



☆☆☆



「なあ、スミ、これ見た?」

「何を?」

昼休みに入ると同時、クラスメイトがスマホを見せてくる。

そこでは肌面積の多いグラビアアイドルが、恥ずかしそうな顔をしていた。


「なんだコレ?春野ゆい?」

「ちげーよ! 湊 奏みなとかなでだよ!」

「ああ……大食いの人だっけ?」

「そう!【奏の食べれるだけ食べちゃうネル!】新作アップしたの」

「良かったな」

「えー、ドライ!? めちゃくちゃドライ!? 」

「ネジマキフィーバー劇場版の公開日が決まったんだぜ?」

「へえ? 良かったな」

「そうなるだろ?」

「確かにな!」


「は!銀髪爆乳を見慣れてるヤツは余裕が違うねえ」

クラスメイトとの楽しい会話に不快な声が混ざる。

見るまでもない。

打出うつで君だ。打出うつで 辰哉たつや


ガッチリで野性的で毒舌タイプを自称する、小太りで不潔で空気が読めない迷惑なヤツである。

「人の義姉をそういう風に言うなよ」

ほら見ろ、変な空気になっただろ?

言わないようにしてることってあるんだよ!


「ま、俺もデカいのは揉み慣れてるけどな」

本人的にはクールでニヒルなつもりの、気持ち悪い顔を自慢気に笑うとも歪めるとも言えない面白くない変顔を披露してくる。

「だから、そういうこと言うなよ」


と、まあ、打出君はこんな感じでイヤなヤツなのだが、こんなのはどうでもいいのだ。

どうせ何も出来ないから。


僕が教室に居づらい理由は、打出君の後ろで恥ずかしそうに顔を赤くしている、黒髪おかっぱで大人しくて清楚で怖がりな小動物系女子だ。


そう。


澪呂みおろさんだ。


言うまでもなく、コイツが原因だ。


目が合う。


――にちゃあ――

「ふぃ!?」


大人しく清楚そうな顔が一瞬で、そして一瞬だけ狂気に染まる。

思わず声が裏返った。


「ふぃ? はは、てめえはこういうの苦手だもんな」

「おい、打出、お前さすがに言い過ぎだぞ?桶無が大人しいからってよぉ」

「大人しいんじゃねえよ、バカだから言い返せねえんだよ」

打手君が何か言ってたらしいが、全然聞いて無かった。それよりも澪呂さんへの感情が大き過ぎる。


ちなみに澪呂さんの呼び方は『澪呂さん』だ。

他の呼び方はない。

してはいけない。


一度、スマホにではなく、家に危険なデータを入れたメモリーカードが送り付けられたことがあった。

送り付けられたっていうか、明らかに自分でポストに入れたんだけど。


危うく家族に見つかりそうになり、さすがに腹が立って文句を言ったのだ。

かなり、ひどい言葉も使って、怒る、というかもう罵った。


翌日、澪呂さんは学校を休んでしまい、やりすぎたか!?と焦ったのも束の間。


その3日後ぐらいだろうか。

僕が浴びせた怒声の中でも特にひどい言葉を選んで書き――どこにとは言えない――、いつの間に録音していたのか、永遠ループされる僕の怒鳴り声を女子高校生にあるまじき表情で聞きながら………まあ、その、えーっと、動画が送られてきた。


何でも言うこと聞くとか言ってたくせに……。

全然何でもじゃないじゃないか!!


動画はすぐに封印した。


――え?消さないのか?

いや、違うぞ。

消してないのは、ほら、消したってバレると何されるか分からないしね?

そういうことだ。

だから、厳重に封印している。

封印が破られていないのは、確認出来ているから安全だ。


「すみ。待たせたな。悪かったな、行こうぜ?」

先輩(女子)に呼び出されていた伊人が帰ってきて、購買に誘われる。

うだうだ騒いでいる打手は無視、その彼女からは全力で目を逸らして、購買へと逃げた。



☆☆☆



そんな購買への通り道。

「あ!根唐井センパイ!」

いつものように根唐井は大人気だ。

「あれ?火具かぐ?」

「お疲れ様です!」

凛としたよく通る声。

「探してたんですよ」

「あ!」

そう言ったのは先日の大会で助けた結果、微妙な感じになってしまった後輩さんだった。


「探して?俺を?」

「あ、違います」

スパーン!と斬れ味が鋭い。

伊人を斬り捨てるとは。


「桶無センパイをです。いつも一緒に購買に行くって聞いたので」

「僕を?」

「はい。先日助けて頂いたのに、失礼な態度取っちゃったので、お詫びとお礼を、と思いまして」

そう言って、ピョコンと頭を下げる。


「いや、そんな気にしなくてよかったのに」

火具さんというのは律儀な後輩さんだった。


「気にしてっていうか、妹に怒られちゃいまして」

テヘヘと頭を掻く。

笑うと愛嬌もある。


「妹さん?」

「ああ、中学生なのにしっかりモノの?」

「そうなんですよ」

敵わなくってと笑う。

仲が良いのだろう。


「それで、これ。良かったらどうぞ」

そう言って渡されたのはしっかりしたサイズ感のあるランチバッグだった。


「良かったら、って作ったのも妹のなんですけどね。持って行けって。姉の私が言うのもなんですけど、妹、料理上手なんですよ?」

そう言って、お弁当箱を渡される。


「え、あ、そう?」

女子にお弁当を貰うのは悪い気はしないし、断るのも悪い気がして、お弁当箱を受け取る。


「空はそのまま放課後にでも返してもらったら大丈夫です」

「いやいや、ちゃんと洗って返すよ。明日になるけど。ありがとう」

「こちらこそ、ですから」

爽やかに笑って火具さんは去って行った。


「すごいね」

「ああ、火具の妹さんは、完璧超人だって噂だな」

「へえ」

その後、伊人の分のお昼を買って、中庭で開いたお弁当は、びっくりするぐらい美味しかった。


ジェレスカ母さんがあまり得意でない和食を中心にしたおかずは、味も彩りも、プロの仕事かな?っていうぐらいクオリティが高かった。


やっぱり人助けってするもんだね!

翌日、洗ったお弁当箱は、大絶賛とともに返却した。






§§§§


読んでくれてありがとう。

作品にタイトルが合わないなら、タイトルに作品を合わせればいいじゃない!に方向転換。

この思い付きだけの連載 笑

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