第20話 イケメンの影で

熱気の籠もった体育館。

裂帛の気合が響き渡る。

今日は剣道の大会だ。

同級生で、仲の良い根唐井ねからい 伊人いひとが出場している県大会。


ここで勝てば全国大会に出場出来る。

不思議なキラキラを振りまく爽やかハンサム系イケメンな伊人は、副部長を務めるだけあって剣道でも優秀だ。


世の中は不平等に出来ている。


「いーくんまだ〜?」

僕の隣で萌乃もえのが暇そうにグネグネしている。

「もうすぐだから、ちゃんとしてなさい。恥ずかしいから!」

その姿を冷佳れいかが諌める。


僕を挟んで反対側から止めようとするから、止められてないし、身体のあちこちがモニモニとぶつかっている。

ほっそりしているのに、なぜ女子の身体はこんなに柔らかいのか?


「レイミ! 剣を投げ付ければいいと思うの!」

どぷん!と背後から僕の頭を置き場にして、リリア姉さんが僕の前に座るレイミに話し掛ける。


「姉さん、それはルール違反みたいよ」

後ろを振り返り、僕の太ももの上に手を置いて、リリア姉さんに顔を近付けながら、レイミが返事をする。

顔が近い。


「うぬぅ……大きぃのですぅ」

そんな僕の膝の間に座る小さな影……生物教師のよう子先生の顔の真ん前にレイミの胸が近付いたらしい。


「むぅ!? 桶無おけないくぅん!今、先生のおっぱいを上から覗き込みましたね!」

ひどい言いがかりだ。


「あ!今、おっぱいないじゃない、って思いましたね!失礼ですぅ!」

膝の上でパタパタと手を振り回すよう子先生。

頭の上にポンポンで結んだ髪がパサパサと顔に当たる。


「見てませんし、思ってないですよ?」

「な! バスト64センチに人権はないとまで言うのですかぁ!?」

「一言も言ってないですけど!?」


『64センチ?』と後ろでリリア姉さんが小さく呟いた。見えないが、珍獣を見つけたみたいな顔で見ているに違いない。

いや、そういう人も世の中にはいるんです、姉さん。

よう子先生はテンションが上がってバタバタ暴れる。髪が鼻をくすぐる。

「あ!なんで顔を背けたんですかぁ!? やましいことがあるからでしょう!」

「くすぐったいんですよ」

「くすぐったいどこが……は!教師のおしりの感触を楽しむなんてひどいセクハラですぅ!」

「いや、無理矢理人の膝の上に座「聞こえませーん。席が無かったから仕方なかったんですぅ」

耳を塞いで顔を横に振るよう子先生。

幼稚園児みたいな反応だ。


「あ、いーくんだ」

萌乃が階下を指差す。

道着の上から謎のキラキラを放ちながら確かに伊人が出てきた。


「根唐井君、道着、似合うよね」

冷佳がウンウンと頷く。


「サムライね」

「ああいうのもいいと思うの」

リリア姉さんとレイミも顎に手をやり真剣な顔をしている。


「根唐井くんは鎖骨がエロいんですよ」

よう子先生も嬉しそうだ。


「………チッ」

イケメンめ。


黄色い声援を浴びる親友に僕も声怨を送った。



☆☆☆



「はぁ~世の中って不平等だよねぇ」

大会も無事に終わり、僕はトイレでブツブツと感想を漏らしていた。

伊人は個人戦では全国大会出場を惜しくも逃す準々決勝敗退だったものの、団体戦では見事切符を勝ち取る2位に入った。


その団体戦では大将を任され、準々決勝では全国大会常連の強豪を相手に、正に最後の砦、崖っぷちからの怒涛の3人抜きをやってのけた。


勝って笑っても、負けて泣いても絵になるのだ。他校も含め女子という女子に取り囲まれて、大騒ぎになっていて、近付くことすら出来なかった。


片や僕は、何一つ気の利いた声援すら送れず、「あっ」とか「ふぁ」とか声にならない何かを漏らしてる間に大会は終わってしまった。


嬉しいやら、情けないやら、羨ましいやら、素直に喜ぶことすら出来ない自分の器の小ささも嫌なのだ。


「はぁ~あ」

盛大なため息を漏らしつつ、最後に伊人にお祝いでも言っとくかぁと廊下を歩いていると――


「止めて下さい!」


――凛とした声が聞こえた。


見ると、小柄な女子がムサイ男子に囲まれている。

「ん?」

更によくよく見れば、女子は伊人と同じ僕の学校の剣道部のジャージを着ている。

身長はよう子先生と変わらないか、少し高いぐらい。


だが、しかし……。

……まあ、それはいいか。


学校の後輩とあれば、黙って見過ごすわけにもいかない。

僕だって少しは男らしいコトも出来るのだ!


「おい!止めないか!」

僕はビシィ!と絡む男子を制した。



☆☆☆



「……ありがとうございました」

「ああ!なんてことないさ!」

ピンチを助けられて、ドキドキが最高潮のはずの後輩にきらっと返事をする。


「ま、僕にかかれ……あれ?」

「……」

しかし、後輩さんは、何かこう、何とも言えない顔をしている。


「助けて頂いて、こう言うのも間違ってると思うんですが……」

「え?」

あれ?僕、何か間違えたかな?

カッコよく決めたと思ったんだけど?


「『俺に手を出すと、あの本間ほんま やいばが黙ってないぞ!』はいかがなものかと」

「え?そう? なんで? ヤーちゃんから、いつでも名前使っていいって言われてるし、効果絶大だし」

ヤーちゃんこと、本間刃は、この辺りでは有名なストリートファイター(本人談)で、誰が呼んでも『本間刃さん』。

怖すぎて変なあだ名が付けられないのだ。

最近人気のケンカ自慢が出る格闘技大会からオファーが来たものの、実力を図るためのプロとのスパーでエンタメに出来ないレベルの問題が起こったらしく、話が流れてしまった。

ホントに危険な人は出ちゃいけないらしい。

お詫びにもらったという高そうなメロンを分けてもらったけど、物凄く美味しかった。


すぐるの繋がりで色々あって仲良くなった。初めて会った時はヤバ過ぎて引いたが、気心知れた今だと、気の良いヤツだ。

物理的にそこまで近付かなければ大丈夫。

年上だけど。


「助けてもらったんだけど、何だかなぁ……」

後輩さんは最後にもう一度丁寧にお礼を言った後、やはりすごく微妙そうな顔で去っていった。


何を間違えたのか?


「あ、スミいた〜」

聞き慣れた明るい声とともに、背中に背負い慣れた感触がのしかかる。


「人混みで離れないで」

落ち着いた声とともに前からも慣れたシトラス系の匂いに抱きつかれる。


「さ、帰るわよー。早く帰らないと、もう我慢の限界!」

もにゅんと右腕。


「サムライコスプレで突きまくる!次はこれよ、兄さん!」

ピタリと左腕。


僕は歩行器かなにかなのだろうか?



☆☆☆



翌日、大会の活躍でクラスメイトに囲まれる伊人を横目に、僕はよう子先生に呼び出され、置いてけぼりにしたバツとか言われて昼休みが潰れた。


世の中は不平等だ。





§§§§


あとがき

何かいいサブタイが浮かばんかった。

良さげなのあったら考えて 笑


あ、後20話なった。

我ながらよく続いている 笑

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