第19話 おむすびころりん ②

前回までのあらすじ。

澄仁は義姉妹から嫁にクラスチェンジした姉妹から逃げるように畑仕事に飛びだした。



☆☆☆



「うわっ!?」

澄仁が畑へ向かうと、畑には害獣がいました。

黒い膝上までのブーツと、腰骨が見えるまで切れ上がったボディスーツは、胸元も露わです。

妙に扇情的な肘までを覆い隠す手袋は、抜けるような白。

ふわふわの尻尾に、長い耳もあります。


「アルブのコスチュームだ!」

澄仁は思わずテンションが上がりました。

近未来を舞台にした映画並みに気合の入ったガンアクションシーンが人気のアニメ『カルズブルー』。

その中に登場したお店の名前が『アルブ』。


そこで働くウェイトレスがかなり際どいバニーガールの格好をしていて、お茶の間を凍りつかせたのでした。

実績十分のコスチュームです。


そのコスチュームに恥ずかしげもなく身を包んで見事なプロポーションを披露しているモデルみたいな三人組が澄仁の畑の側で近くの畑の世話に来たおじさん達をいじめてました。


「あ!来た来た」

隣の畑のおじさんから野菜を巻き上げていたバニーガールAこと、リタが澄仁を見つけました。


「これっくらいないと食べごたえがないのよね」

アヒル口でニコニコ笑いながら、黒光りする立派なナスを撫でているのはバニーガールBこと、ルル。


「ふふ。畑にいたずらされるか、アナタ自身がいたずらされるか、どっちがいい?」

次は兎捕まえてこいよと、手に狸を掴んでピンヒールで妙に嬉しそうなおじさんをぐりぐりと踏んでいたバニーガールCこと、エルが足を離しながらおっとりと笑います。


「畑には何してもいいので、僕のことは見逃して下さい!」

澄仁は迷わず頭を下げました。

三人は顔を見合わせます。そして、同時に頷きます。

「そう。なら仕方ないわ」

リタが腕を組みます。持ち上がりました。

「スーちゃんがそこまで言うなら畑は見逃してやるわ」

「ほら、アナタ達、スーちゃんに変わって畑の世話しとくのよ。枯らしたりしたら一生いじめてあげないわよ?」

「さ、行こう」

大きな耳は飾りなので、三人組にはよく聞き取れなかったのでしょう。ガシッと澄仁を掴み、ヒョイっと担ぎ上げると連れ去って行きました。


後には澄仁の悲鳴と、それを羨ましそうに見送る男衆だけが残りました。



☆☆☆



「僕みたいな貧相なヤツがヒューゴのコスプレって無理だろ?」

ブツブツと疲れた声で吐き捨てるのは三人組の肉食系草食害獣からなんとか逃げ切った澄仁でした。


ヒューゴはガルズブルーに出てくる敵役で、ヒロインの妹にトラウマを与えたヘイトの塊です。更に、傷だらけの筋肉ダルマで身に着けているのが真っ青なブーメランパンツにガンベルトのみという筋金入りのド変態でもあります。


澄仁は、……何とか致命傷だけで済みました。

「はぁ……お弁当にしよう」


気分を変えるため、妻から持たされた風呂敷包みを開きます。

「………」

中からは、決して形がキレイとは言えない、ご飯の塊が出てきました。


「……まあ、基本的にパン食だしね、多少はね?」

何かを納得するように呟いて、おにぎりを掴んだその時――


――どん!もにゅん!――

強い衝撃とそれを掻き消すような柔らかな衝撃が背中に当たり、手に持っていたおにぎりが転がり落ちました。


「え?何?」

「ああ!私、またやってしまったピガぁ!」

背後を振り返ると誰かが転んでいました。


「だ、大丈夫?」

思わず助け起こします。

「だ、大丈夫です。ほら、私、おっぱいが大きいから転びやすくてピガぁ」

テヘっと頬に付いた泥を拭ったつもりが、鼻の頭に付いてしまった彼女は、黄色いネズミの被り物をして、照れ笑いを浮かべます。


さり気なく自慢された胸元は、ブラウスのような服が、明らかにもうムリです!とパッツンパッツンになって主張しています。

明らかにサイズを間違えています。


「え、あ、大丈夫なら大丈夫です」

何か嫌な気配を察した澄仁は、そそくさと立ち去ろうとしました。


「あ、ダメですピガぁ! まだお詫びが済んでないピガぁ!」

語尾が変な女の子が澄仁にしがみつこうとしたその時――


――バツン!ブチン!――

「痛ぁ!?」

ついに力尽き弾け飛んだボタンが、澄仁の顔面に直撃しました。


「ああ!私ったらピガぁ!」

ボタンが弾け飛んだせいで露わになった、やっぱりそこも明らかにサイズを間違えてるせいで今にも弾け飛びそうになっている白い双球をもにゅっと寄せながら、女の子が澄仁に飛びつきます。


「逃がし……じゃなかった、お詫びしますピガぁ!」

「ソーデス!ちちはる!」

更にその背後から片言な日本語が響きました。


「Riceballモツブシテシマイマシタシ、オワビガヒツヨウデース!Don't leave! Never leave、チチハル!」

そこには、黒い大きな丸い耳を頭に乗っけて、見事なムチムチボディを小さな小さな黒いビキニで隠しただけのプラチナブロンドの痴女がいました。


「ひぃっ!?」

思わず悲鳴が上がる澄仁。


「ホンライナラ、オモチヲpresentスルノデスガ、アイニク、オモチハ、シナギレデース!」

「ないピガぁ!」

「あ、じゃあ大丈「But!」

ピシィ!と指を突き立てます。

それだけで、たゆんと揺れました。

こぼれ落ちそうで危険です。


「ヤワヤワナモチハダガプルプルデexcellentなserviceタクサンアリマース!」

「あるピガぁ!」

「Let's back home!!」

「はいピガぁ!」

「やめ、やめろー!!」


澄仁はバタバタともがきましたが、二人がかりで体を抑え込まれ、ヒョイと担ぎ上げられました。

こうして、残念ながら小判に変わるお餅は持って帰れませんでしたが、本日2度目となるお持ち帰りをされたのでした。


めでたし、めでたし。






§§§§


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