第16話 受験とは理不尽なものなり

時は放課後。

場所は視聴覚室。

「ミニく……あ、間違えた、プロデューサー!」

今日も今日とてうみ先輩は元気だ。

「その設定まだ生きてたんですね……」

「生きてたとはなんだ!冷たいじゃないか!私の身体は熱く疼いて困っているというのに!」

「はぁ」

そう言われても、僕は困る。

僕は楽器は弾けないし、さして興味もないし。

わざわざ軽音楽同好会を立ち上げるぐらい燃えている先輩には申し訳ないが。


「そのための軽音楽部ですよね?」

その情熱をぶつける場所がここなんだから。


「ああ、そうだ!分かっているじゃないか!」

「ええ、まあ、それぐらいは」

海先輩の後ろで、千條ちすじ先輩が艶やかに笑っている。


「分かっているなら、ちゃんとプロデュースしてもらわないと困るぞ? ちゃんとプロデューサーとして理不尽で背徳的な練習を強制したりしなければ」

「なぜ僕がそんなアイドル育成ゲームの薄い本みたいな役回りを?」

安全パイだと決めつけられても、僕だって困ることはあるのだ。

あと、千條先輩は、その妖しい手の動きを止めた方がいいです。

そういうことしてるから、誘ってるとかって勘違いされるんですから。


「ところで大切な話って何ですか?」

今日は大事なミーティングをするので必ず来るようにという前触れがあったのだ。


「うむ。それだ」

大きく頷く海先輩。

だから千條先輩は無意識に胸を寄せたりしてるから、不名誉な噂が流れるんですよ?


「我々は3年だ!」

「そうですね」

「そうつまり、受験生だ!」

「受験のために吹奏楽部止めたんですからね」

千條先輩、椅子に座るのはいいんですが、前後反対にして、背もたれを抱えて座ると、スカートの中が見えそうです。


「うむ。受験のために塾に通えと言われてしまった!」

「……受験生ですもんね」

「と、言うわけで、火曜と木曜は部活が出来ない!」

じゃあ月水金になるのか。

「はい。分かりまし「おい!?」

「何ですか?」

「ものすごくあっさりしてるじゃないか!?もっと悲しまないか!」

「ええ……」

「私なんか、火曜と木曜はどうこの滾りを鎮めればいいのかと、今から戦々恐々しているというのに!」


もう一度言うが、僕には音楽に対する情熱は特にない。

だから楽器が弾けなくても特に困らない。

しかし、海先輩がここまで軽音にハマっていたとは思わなかった。

大体、僕が来るとギター弾くの止めて遊んでいるのに。


そして、千條先輩は椅子の背もたれの上におっぱいを乗せるのを止めなさい!


それにまた第3ボタンと第4ボタンが外れてますよ!

しっかりしてそうで抜けてるんですから!


「とにかくだ!我々は塾に行く!」

「はい。頑張って下さい」

「何を他人事のように言っている!」

「ん?」

我々・・は塾に行くのだ!」

ことさら我々を強調する海先輩。

なんか嫌な予感が。


「もちろんミニ君もだ!これは会長命令だ!!」

理不尽が宣告された。


後、千條先輩はぽってりした唇を赤い舌で舐め取りながら流し目でウインクしないでください。


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