第14話 オフ会のススメ

『オフ会やろうぜ』

ハゲ頭に筋骨隆々な体躯。

ストラップでしかない服を着て、自慢の筋肉を剥き出しにした厳ついオッサンが喋る。

「オフ会にゃ?」


『リオ姫も来いよ!』

続いたのは、いかにもショタ!って感じの線の細い、柔らかな金髪の少年。

ハーフパンツに白タイツだ。


「いや、妾はそういうのは、やってないにゃ」

やんわり断る。

『えー?リオ姫が来ないなら集まる意味ねーじゃん?』

口調は軽いが、見た目は白髪に白髭、ローブに杖という爺さん魔法使いだ。


「………どうしよう」

義家族が留守にした週末、僕は朗らかな気持ちでオンラインゲームをしていた。


いわゆるMMORPGだ。

ハゲ頭の巨漢がパーティリーダーの【鰻時々山芋】。

ショタが【なめたい】。

ヒゲジジイが【G0CHoK】。

そして、僕は猫耳にピンクのフリフリドレスを着た【リリオン】。


そう。

ここでの僕は立派なネカマだ。

ついでに姫だ。リオ姫だ。


パーティの名前は【リオ姫を愛でる会リオデレ】。

元は【エレクション】という名前だったんだけど、僕が加入してからこんな感じになった。


『あ?なんでだ?』

「えっと、ちょっと困るにゃ」

『あ?あ!もしかしてあれか!ネカマなんざ気にすんなよ』

ウナさんが吠える。

「にゃ?」

『リオ姫が男なんてみんな気付いてるって!』

ナメちゃんがキラッとエフェクトを飛ばす。

「にゃにゃ?」

『こんな男の欲望体現しました、みてぇなヤツが実際いるわけねぇじゃん』

チョクも笑う。

僕のアバターはいわゆるロリ巨乳で、ドレスは布はたくさん使ってあるくせに、露出は激しい。語尾はにゃ。


メンバーから爆笑のエモが飛び交う。


『リオ姫の中身が40過ぎの汚ニートでも、俺達は気にしねぇぜ。似たようなもんだし!男同士、わいわいやろうぜ!』

「あ、そう?」

『その格好のときは語尾はちゃんとしてくれ!』

「あ、ごめんにゃ」


こうしてオフ会の開催が決まったのが2ヶ月ほど前。

スケジュールの調整に難航した結果、いよいよ今日がオフ会だ。



☆☆☆



「えー?今日も出掛けるの?」

リリア姉さんのブーイングをやり過ごし家を出る。

ストレッチの相手やボディクリームの塗り込み、ランジェリーショーの着せ替え係兼審査員はレイミに頼んで欲しい。


集合場所は電車で40分ほど離れた駅。

意外とみんな近くに住んでいたようだ。


待ち合わせ場所に行きかけて、時計を見る。

待ち合わせ時間は午前11時。

今の時間は午前9時。

……とにかく早く動かないと、身動きが取れなくなるからね!


場所だけ確認して、適当に時間を潰しておくことにする。


「さーて、どんなリアクションされるかなぁ」

ナゲットを摘んで、コーラを飲む。


ぴろぴろと連絡が来ているが、中身は見ない。

既読を付けると感想を求められるから。

後、次の要望とか。


リリア姉さんだけでも頭が痛かったのに……。

それ以上に躊躇ないヤツまで現れちまった。

可哀想かもとか思っていた自分が恨めしい。変態同士でお似合いじゃねえか!

なぜ僕は巻き込まれた!?


しかも、ポロッとこぼしたせいで、うみ先輩と千條ちすじ先輩からも散々からかわれた。千條先輩など、私も送ろうか?とか言い出して、必死に止めたのだ。

とかく、今、僕のスマホは危険なのだ。


「さ、そろそろ行くか」

時間は10時40分。

15分前なら悪くないだろう。



☆☆☆



「なんだこれ?」

待ち合わせ場所に行くと、人だかりが出来ていた。

100人とは言わないが、優に5〜60人はいる。

その人たちがスマホを掲げてパシャパシャと写真を撮っている。


「なんだコレ?」

有名な芸能人か動画配信者でもいるのだろうか?

興味本位で野次馬に混ざる。

女性もいるけど基本、声援は野太い。


「な……うわっ!」

集団の隙間から覗くと、そこにはリラ、タミ、ロンがいた。

【魔機甲冑戦鬼リラタミロン】のヒロインだ。

「すげぇ白虎逆鱗羅刹モードじゃん」


女の子が戦鬼に変身して、敵を躊躇なく残虐の限りを尽くして鏖殺する……R18アニメだ。

R18アニメなので、主人公は18歳以上だ!

そして、僕は17歳だ!

フシギダネ!


集団の中心には、戦鬼の中でも最強の白虎逆鱗羅刹モードのコスプレをした女子三人組がいた。

ぱっと見た感じ20歳前後ぐらいだろうか?


向けられるカメラにビシビシポーズを決めて応えている。

凄く慣れてる。

プロだろうか?


真ん中の緋鬼・リラ、右側の紅鬼・タミ、左側の茜鬼・ロン。

3人ともモデルみたいに背が高くスラッとしている。

その辺は原作と違うなぁ。あっちは18歳以上だったから。


てか、リオデレのみんなも撮影会に入ってそうだ。

あの、ヒョロガリの暗そうな人とか、ウナさんじゃないかな?


などと思っていた時――

「リオ姫びっくりするかな?」

「下ネタも分かる姫アイドルとか言って結構どぎつい話もしてたしねぇ」

「私達がネナベなんて1ミクロンも思ってなかったっしょ?」

カラカラと笑い声がする。


「ヴェ!?」

その聞き覚えのある話はなんと、三人組から聞こえて来た。


「「「ん?」」」

奇声が耳に届いたのか、フシギソウに3人の視線が集まる。

その視線に誘われて、集団の視線も僕に集まる。


男だらけのオフ会に来たはずなのに、フシギバナシだ。

帰りたくなった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る