第13話 憂鬱だけが良かった掃除当番

前回までのあらすじ。

日誌を担任の先生に提出して、雑談した後、教室に帰ってきたら、もう帰ってると思っていた同級生が、誰もいない教室でいけない遊びに耽っている姿を目撃した。

いや、いけない遊びかどうかは分からない。

僕の心が汚れているだけのはずだ。

きっとそうだ。



☆☆☆



澪呂みおろさんは、机に片足を載せた状態で……まあ、姿勢のディテールは省くとして、固まっている。

「………」

「………」

「…………」

「…………」

何とも言いにくい沈黙が降りる。


『何をしてたんだ?』と聞きたいけれど、これはそのどう見ても、こう……。


「あ、まだいたんだね」

ハハハと明るい声で笑いながら、何もなかったことにして、鞄を……。

……あれぇ?なぜ、澪呂さんの足元に僕の鞄が?って、それ、僕の机じゃねえか!


「アハ、アハハハ、ちょっとごめんね。へへ、かばんとらせてね」

完璧な自然体を装いつつ、なぜかブラウスの前ボタンまではだけている澪呂さんを視界に入れないように鞄を取りに行く。


「ちが、違うの!!」

初めて聞いた力強い声。

こんなに嬉しくないタイミングがあるのだろうか。


「ぼくはなにもみてません。きいてません。ほんとです」

聞こえないまま、鞄を拾う。

鞄越しに見える足が、妙に艶めかしい気がする。

いや、木の精だ。ドライアドだ。

あ、そう言えば、ドライアドの霊片集めないと。後、12個だったかなぁ。


「こ、これは、その辰哉さんに言われて……」

「え?」

理解が及ばず。澪呂さんは赤い顔をしている。

「は?はあ!?」

意味が分かると素っ頓狂な声が上がった。


「……誰にも言わないで」

澪呂さんが必死とすがりつく。

言えるわけなかろうが!


何してんだよ。

言う方も従う方も頭飛んでんのか!?


「だいじょうぶです。ぼくはさべつしませんしそもそもなにもみてません。あんしんしてください」

「お願い!何でもするから!」

そう言って、もう抱き着く勢いの澪呂さん。


はだけたブラウスの向こうに、地味な顔に似合わない、派手な谷間が見える。

あれ?デカくね?着痩せするタイプ?

いや、何も見ていない。


「こんなことしてるの言われたら、もう学校に来れない!」

そうだよね。

よくやるよね。ほんとに何やってくれてんだよ!人の机でよぉ!?


「お願い!言わないで!」

いや、だから言わないから。

てか、言えないから。

  

「わかった。毎日、エッチな動画送るから!」

は?

「何?」

よく聞こえなかった気がする。

「だから、毎日、エッチな動画送るから!学生証隣に置いて送るから、気に入らなかったらいつでもばら撒いてくれていいから!人生全部捧げるから!」

何か追加された気がする。

後、すげえ重い。怖いし。


「いや、要らないです」

処理に困る画像はすでにたくさんあるのだ。

義姉のとか。

写真を送ってくるのを控えて頂きたい。


「そんな!?」

愕然とする澪呂さん。

「わかった!呼び出されたらすぐ行くし! 命令されればどこでもすぐイケるようになるから!」

いや、そんな権利いりませんが?

「こう、おたがいになにもなかったわけで、かえりましょう。いえ、ぼくはかえ――カシャッ――かしゃ?」

音の方を振り向くとインカメラのスマホがこちらを向いていた。


「……ふふふ。写真が撮れちゃいましたね?」

目が怖い。

スマホの画面には、シャツをはだけた澪呂さんが僕に抱きついている姿が映っている。


「連絡先頂けますか?」

「いや、ぼくすまほもってな「この写真、ばら撒いちゃおうかなぁ」

「ゆうじんどうしれんらくさきしってないとこまることってありますもんね」

僕が、スマホを取り出し、ロックを解除すると、シュパッと取り上げられた。


そして、凄い勢いで操作される。

「はい」

怖い笑顔のまま、スマホの画面を見せられる。


そこには、スマホに入っている数種類の連絡用アプリ全てに、【澪呂円巫女(✕✕✕)】と登録された哀れな僕のスマホがあった。アイコンの写真はかなり際どい格好で完全にアウトな姿勢の澪呂さんだ。何でこんな写真のストックがあるんだよ!?変態か!?いや、完全に変態だ。

ちなみに、✕マークは自主規制だ。


訳の分からないまま、差し出されたスマホを受け取る。


辰哉さんペットじゃ許されないことも全部ぜーんぶやってあげますからね。桶無さんご主人様?」

何が起こった??


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