第12話 憂鬱な掃除当番

放課後。

今日は掃除当番だ。

日直の2人が、放課後教室を掃除するのだ。


桶無おけないくん?」

オドオドと声を掛けて来たのは、今日のもう一人の日直、澪呂みおろ 円巫女えみこ

黒髪おかっぱに眼鏡。

小柄で見るからに気弱そうな彼女なのだが……正直、僕は余り得意ではない。


「あ、うん、何かな?」

「あの、ごめんなさい……」

ごめんなさいが多くてオドオドし過ぎているのもあるのだが、澪呂さんの彼氏が問題なのだ。

彼氏の名前は打出うつで 辰哉たつや


僕がアイツに何をしたというわけでもないと思うのだが、僕はとにかく嫌われている。

打出君はまあイヤなヤツなので、そんなに好かれてはいないが、それにしても僕が嫌われる理由は特にない。


イヤなヤツが幸い?して、仲間がいないので、イジメられたりはしていないが、チクチクと嫌がらせをされたり、嫌味を言われたりする。


嘘か誠か、気の弱い澪呂さんは、打出君にがなり強引に迫られて断りきれず付き合うことになり、気が弱くて断れないのをいいことに打出君はかなり好き放題やっているという噂を聞いた事がある。


それが本当なら澪呂さんに非はないのだけど、話したこととか知られて、ネチネチと嫌味を言われるのも嫌だ。


「ごめんなさい…これ、頼んでもいいでしょうか?」

そう言って澪呂さんが差し出したのは、日誌だ。

「あ、ああ、こっちこそ、ごめん。書いてなかったね」

帰りのSHRの後に、先生に渡すのがルールなのだけど、日誌にある【今日の一言】を僕が、まだ書いてなかったせいで、提出出来なかったのだ。


日誌を開き、そこに『特に何もありませんでした』という定型文を書く。


澪呂さんの場所には、今日の古典の授業で取り上げた作品とその時感じたことが簡潔にまとめられている。3行しかないのに、何が起こり、何を感じたかとてもよく分かる。

澪呂さんの真面目な性格がよく表れている。

後、とても綺麗な字だった。


「僕、持って行って来るから、先、帰ってて!」

掃除は中途半端だが、大体こんなもんだ。

そう声を掛けて職員室へと向かった。



☆☆☆



「ここが突破できん!」

職員室でスマホ片手に叫んでいるのは、担任の太棹ふとさお 呑気のんけ先生。

あだ名はのんき先生。

ロボットみたいなゴリゴリのマッチョだが、これでも数学教師だ。

「どの編成がいいんだ?」

スマホに表示されているのは、今、人気のソーシャルゲーム。


「まだ勤務時間ですよね?」

「休憩中だ」

躊躇なく言い切った。


「こうですかね」

パーティとスキルを組み直す。

「でも、青属性が弱いんですよ。せめてマルテラがいれば」

「マルテラ? ただのレアだろ?」

「ランクは低いですけど、育てれば使えるんですよ」

「ぐぬ……還元してしまった……」

「どんまいですねぇ」

「ぬぅ……いや、アポライブが出れば……」

「SSRは引くだけじゃ使えないですよ。最低でも3枚は引かないと。それならアンデルの方が手っ取り早いです」

「ぐぬぅ……課金の時間か」

スマホを握る手に力が入っている。

割れそうだ。


「ああ、まあ、身持ち崩さないように節度を心掛けてくださいね?」

「ふぬぅ……」

僕の太ももぐらいありそうな上腕二頭筋に血管を浮かべて唸るのんき先生を放置して教室に戻る。


こんなに掛かるなら鞄も持って降りとけばよかった。


「ああ…海先輩に怒られるわぁ」

時間はもう5時を回っている。

教室の使用は6時までなので……いや、僕が来るとほとんどおしゃべりになるだけだから、僕がいない方が活動内容は充実するか。


それでも怒られるわけだけど。


「怒ら……うぇっ!?」

教室に駆け込んだ僕は変な声が出た。

「ふぁふ……ふぇっ!?」

教室にいた彼女からも変な声が出た。


そこには机に片足を乗せた澪呂さんがいた。









§§§§


あとがき

何かリアクションをくれ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る