第11話 友人の妹の手料理はちょっと危険

前回までのあらすじ。

週末家に居辛いので、友人の家に遊びに来ているのだけど、友人の妹に嫌われていてちょっと悲しい。



☆☆☆



「兄貴はお昼どうすんの?」


「あ?」

時計を見ると11時半過ぎ。

もうすぐお昼だ。

「どうするって、俺等は【カネマツ】に食いに行くけど?」

カネマツは、すぐるのご両親がやっている小料理屋だ。

お父さんの鉄末かねまつさんは、無口で硬派で、いかにも料理人という感じでカッコいい。


「えー?あそこだと私の好きなモノがないんだけど?」

渋い顔をする珠貞みてちゃん。

メニューは魚介と和食中心で確かに渋い。子どもが好きな料理ではないだろう。

 「いや、知らねえよ。勝手にしろよ。お前もどっか行くんだろ?」

「は?行かねぇし?なんで?」

「いや、いつもと違って着替えてんじゃん?いつも休みの日は、頭ボッサボサで、ペラペラになったフリース着てんじゃん?」

「?」

今日も今日とて、珠貞ちゃんはオシャレだ。


「は?はぁ!?ば、バカじゃねえの!?いつもこうだし!」

プライベートを暴露されるのは恥ずかしいのだろう。真っ赤な顔で否定している。


「今日は伊人さんが来るかと思って……」

仲の良い兄妹である2人は遠慮なく楽しそうに喧嘩をしている。

ただ、ヘッドロックをする時は、こっちに足を向けないで欲しい。

スカートがスカートを止めてしまうのだ。


……いや、見てないけど。


「とにかく、お昼どうにかしてよ!」

「知らねえよ!?」

「良ければ僕が何か作ろうか?」

提案してみる。

これでも父が再婚するまでの2年ほど、料理はしていたのだ。

まあそんな大したものは作れないが。


「はぁ!?」

珠貞ちゃんが顔をしかめる。

「お前にロクなモン作れるわけねえだろ!?」

まあ確かにそうだけど。


「しょうがねえなあ、わたしがつくってやるよ」

珠貞ちゃんが本当にしょうがない感じの、感情が少しも乗っていない、考えて絞り出したような口調で提案してくれた。


「は?」

それに優が反応する。

「いや、無理だろ? お前、料理なんて出来ねぇじゃん?」

「は? で、できるし。さ、さ、最近は、おか、お母さんに教えてもらってるし」

忙しくて不在にするご両親が安心できるように、家事を覚えようという珠貞ちゃんの優しさが眩しい。


……僕なんて逃げ出して来たのに。


「いや、なんでオフクロなんだよ? 料理人の嫁は料理しなくていいから助かるわあとか言ってる母親だぞ? 冷凍食品レンチンするだけで料理と言い張る実力だぞ!?年末、お節の仕込みで徹夜明けで帰って来た親父に、ご飯まだ?って箱根駅伝見ながら聞くオフクロだぞ!?習うなら親父にしろよ!」

「ムリよ!お父さん、難しいし、厳しいし、怖いし!出汁の取り方覚えたければ、先ずは鰹節の声を聞けるようになれ!ってオタマで頭叩かれたんだよ!?」

それは、なかなかスパルタなおじさんだ。


「とに、とにかく、お昼は私が作るから!焼きそば!焼きそばとか余裕だし!こないだ調理実習でも作ったし!材料、昨日買って来てるし!」

そう言うと、パタパタと部屋から出て行った。

出掛けに、僕らが食べ散らかしていた、アイスクリームの容器とスプーンを持って行ってくれた。

優しい。



☆☆☆



お昼の焼きそばは、まあ、なかなか斬新なものだった。

途中台所近くを通った時は、『おかずおかず〜何杯でもいけちゃう〜やばーいおかずぅ〜』と鼻歌を歌っていたが、出てきたのは焼きそばを目指したものだけだった。


僕も経験はあるが、慣れるまでは料理の段取りって難しいのだ。


午後からもちょこちょこ顔を出した珠貞ちゃんは赤い顔でどこかぽやーっとしていた。

風邪だろうか?

お腹出てるしなあ。

気をつけてね、って言ったら物凄く怒られた。


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