第5話 もう一人の部活の先輩は雰囲気だけでR18。

「残念だけど、熱意が足りなかったのよねぇ」

海先輩の目線にそう答えたのは、知床しれとこ 千條ちすじ

一部男子生徒と、志を同じくする一部男性教諭から、罵られたい女性No.1という名誉なんだか不名誉なんだか……不名誉だな、不名誉な称号を与えられている3年生だ。


「熱意ですか?」

「そう。熱意」

ベースを提げるため肩から掛けられ、がっちり挟み込まれていたストラップを外す。

ぬるんと弾いた。

「熱意のない、冷やかしが増えても嫌でしょう?」

言いながら、深い赤に塗られた指先が僕の胸をいじいじと走る。


「……こう、でも、やりたそうにしてましたけど」

ツヤツヤで赤くぽってり厚い唇から目を逸らしながら話す。


「ただやりたいだけじゃ、ダメ。」

ふっと抜けた息が顎をくすぐる。

れたくてれたくて、気が狂うぐらい熱く熱く、ぐじゅぐじゅに熟れてないと、ダメ」

部活の熱意の話なのに、千條先輩が言うととてもいかがわしく聞こえる。


はいりたくて、ですよね?」

ふふふ、と妖しく笑う。

「熱意なんてどうやって調べたんです?」

「そんなの少し聞けば分かるじゃない。返事が芳しくなかったのよねぇ」

顎に指を当てる。


思い出す。

『入りたいんです』とこの怪しげな同好会に飛び込んで来た1年生だ。

結構な勇気を使ったはずで。


「部費がね?」

「ぶひ?」

「そう、部費」

部費?と疑問が浮かぶ。


「部費なんてあるんですか?」

払ったことがない。

「あるじゃない。桶無くんは、現物徴収だけど」

「げんぶつちょうしゅう?」

ふふふ、と妖しく笑う。

胸板をいじっていた手はいつの間にやら顎や唇をなぞっている。

指先は冷たくぞわぞわする。


「部費の支払いは渋るし、入会同意書の署名も躊躇ったしねぇ」

「にゅうかいどういしょ?」

ふふふ、と妖しく笑う。


「ほら、ここって同好会だから、予算がないでしょう?」

「ええ、まあ。って、いやだから2人が入ったら部活に格あ「そう同好会だから活動費は全部自費なのよ」

「……でも、ここに集まって練習してるだけだから、活動費って掛かりませんよね?楽器も貰い物ですし」

要るものは軽音楽部から貰って来ている。

千條先輩が頼んだらニコニコしながら提供してくれた、とのことだ。


「練習では要らないにしても、部活後のミーティングとか、懇親会とかやるにも必要じゃない」

「……なんです、それ?」

参加はおろか、呼ばれたことすらない。

「あら?来たい?歓迎するわよ?」

「……いや、いいです」

ぺろーりと上唇を舐めた赤い舌に何か、底しれぬ何かを感じて怯んだ。


「そう? 丸裸にして、出すものが無くなるまで絞り出して上げるけど?愉しいわよ?」

棒状のものを包みこんでゆっくりと絞り出すような艶かしい手の動きとか、チロチロと何かを、……その手に掴んだ棒状の何かの先端を舐めるような舌の動き……いやいや、先輩の雰囲気に釣られて僕がいかがわしい連想をしているだけだ。


千條先輩は周囲からのそういう男慣れしてるというイメージに悩んでいるのだ。


海先輩に紹介された時に、そんなことを言っていた。

『付き合って下さい!無理なら一回だけでも!』と土下座をかましてくる人がいるらしい。

とんでもない告白だ。

先輩が悩むのも無理はない。


『一回で終わるような男には用は無いのよ』とのことだった。

『それじゃ満足なんか出来ないわ』と。


先輩が幾ら大人びているといっても高校生。17歳だ。

体目当てで寄ってこられるのは、苦痛であろう。


『金曜日の夕方から、月曜の朝まで撫で回してくれるぐらいじゃないとねぇ』と。

意外と情熱的で、実は追いかけられたい願望のあるらしい先輩だった。


先輩の距離感はめちゃくちゃ近いので勘違いする男子がいるのも仕方がないと思う。

今だって、先輩の短いスカートからむき出しになった太ももが、僕の内腿とか、なんかその辺りをすりすりと擦っている。


近視のせいで、近付かないと表情が見えないらしいが、コンタクトつけないと困るんじゃないだろうか?


そんな風にどうでもいいことを考えてないと、頭も身体もおかしくなってしまいそうなのだ。


理性を総動員してる間に短い練習時間は終わった。

部費とか、同意書のこととかちゃんと聞けなかったことを思い出した時にはもう帰り道だった。


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