第4話 部活の先輩は、大和撫子風熱血妄走族。

ミルクパンで膨らんだお腹がもたらす眠気に耐え抜いてなんとか迎えた放課後。


相変わらずキラキラした謎の軌跡を残して剣道部に向かう根唐井を見送る。

僕もこれから部活だ。


いや、僕の場合は部活ではなく同好会なのだが。

家族から送られて来ていたリアクションに困る自撮り写真になんとか平静に見える返事を返すと、僕は鞄を抱えて歩き出す。


「スミ〜! 一緒にか〜え……あれ?今日は部活〜?」

「ああ。部活じゃなくて同好会だけど」

「そう。じゃあ夜にね」

途中で出会った萌乃と冷佳に別れを告げて、向かう先は視聴覚室。


その扉からは――じゃがじゃーん――と聞いたことあるような、それにしては何かバランスが悪いような音が漏れてくる。


「こんちゃー」

扉を開けると音が大きくなって、ピタっと止まった。

「やあ、遅かったね、プロデューサー」

そう声を掛けて来たのは、真ん中でギターを構えている腰まで届く黒髪ロングの女子生徒。

いかにも大和撫子然とした雰囲気でエレキキダーを構えるギャップにはちょっとクラクラしてしまう。


この軽音同好会の会長である3年生の日荷録ひにろく うみだ。


「プロデューサーではなくマネージャーですが?」

「アイドルガールズバンドにはプロデューサー、これがルールだ」

理知的で真面目な顔で、よくわからないことを言う。


「ていうか、先輩は受験勉強はしなくていいんですか? 受験勉強するからって、吹奏楽部引退したんですよね?」

「うん。そのつもりだったんだがね。軽音がやりたいと思ってしまったんだ!」

拳を握りしめる。

海先輩は、文系風な見た目だが、中身は体育会系の熱血タイプだ。


「百歩譲ってそうだとしたら、軽音楽部に入ればいいじゃないですか?こんな軽音楽第二同好会とかいう変なのを作らなくても」

この学校にはれっきとした軽音楽部もある。


「なんでそんなひどいことを言うんだ!?」

「いや、少しもひどくないですよ?」

「充実した設備! 揃った人員! 定期的に演奏出来る場所!そんなものに何の価値がある!!」

「価値しかないと思いますが?」

しかも、この学校の軽音楽部はかなり評判がいいのだ。


「分かってないぞ! ミニくん!」

「その呼び方は止めて下さい」

「ボロボロの楽器! 集まらない部員! 足りないお小遣い! それでも諦められない情熱!これが青春だ!!」

熱血と書いて『うみ』と読むような人である。

見た目と中身が随分違う。


「そして、その弱みに目を付けた悪徳マネージャー! プロになれるなどと甘い言葉で唆し、あんな事やこんな事を要求する」

「脱がなくていいですよ?」

「屈辱だったはずなのに、気が付けば、その快楽に溺れてしまった若い身体!」

「だから脱がなくていいですよって?」

「憎いはずの悪徳後輩の命令に脳髄が痺れるような快感を覚えてしまった軽音楽部員達は、悪徳プロデューサーのネジ曲がり煮えたぎった性欲のはけ口となることを受け入れてしまう!」

「マネージャーなのか、後輩なのか、プロデューサーなのか、設定がブレまくってます」

「細かいことはなんでもいいじゃないか!君の目的が変わるわけではないんだ!」

胸元をはだけ、肩を露わにした制服姿で力説する先輩。黒に近い紫色のブラが見えている。

目のやり場に困る。


真面目で優秀な先輩なのだが、いかんせん、知識が偏っている。

吹奏楽部で他の女子といまいち話が合わなかったというのも頷ける。


男子相手にさすがに話さない方がいいという分別はあったようだが。

と、なると僕は異性として見られてないということだ……いや、別に期待はしてなかったんだけど。


「僕の目的なんてないですよ?しかも、そんな鬼畜で邪な思惑はないですし。そもそも、先輩に頼まれただけですから」

帰宅部だった僕を取り込みやすいと考えたのであろう先輩に頼み込まれて入ったのだ。


「しかもメンバーが足りないって、こないだの1年生の二人組はどうしたんです?僕と併せて5人ですよね?」

5人以上メンバーが揃えば、同好会ではなく部活になる。そうなると教室が遅くまで使えたりとか色々活動しやすくなるし、予算なんかも付く。

同好会というのはつまり、空いてる教室を貸してもらいやすくなりますよ、ぐらいのただの集まりである。

「ああ、彼女たちな」

そう言ってチラッと後ろに目を流す。


「残念だけど、熱意が足りなかったのよねぇ」


そこにはニコニコと大人っぽく笑う――口元についたほくろとか、ホントに高校生か!?と思ってしまう――もう一人のメンバーがいた。




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