[少年・3]
夏休みになると、少年はひとり、祖父母の家へと預けられた。
「おじいちゃんのところは近くに山も川もあるから、夏の間たっぷり遊んで来なさい」
と両親は言った。
田舎で、息子に有意義な毎日を過ごさせてあげる。
冷房の効いた部屋で連日ゲームばかりしているより、外に出て自然と触れあうほうが、息子にとって実りある休みになるはずだ。
ああ、我ながら、なんといい計らいだろう。
両親はそう信じて疑わない様子だった。
実の息子を厄介払いしているという意識はないようだ。
両親は満ち足りた顔で、少年を送り出した。
祖父母の家の雰囲気は、少年が想像していた以上に殺伐としていた。
かわいがってもらえるなんて、はなから期待はしていなかったが、まさかここまで徹底的に無視されるとは。
食事や洗濯、風呂の準備など、最低限の世話はされるものの、祖父母が少年に話しかけることは皆無に等しかった。
年老いた二人にとって、孫の世話は負担でしかないのだろう。普段連絡をとることもない孫の存在など、他人に等しい。
少年と目が合うと、祖父母は露骨に視線を背け、舌打ちをした。
自分が歓迎されていないと、少年は早々に自覚した。
自ら祖父母に話しかけることを諦め、気に入られようと媚びへつらうことも放棄して、少年はただひたすら気配を消して過ごした。
起床すると、出された飯を無言で平らげ、外に出る。昼まで、その辺をぶらついて時間を潰す。昼飯は、食卓の上に用意されたおにぎりをひとりで食べる。午後は自宅から持ってきたボールを蹴って遊ぶか、木陰でぼんやりして過ごす。夜になるとさっさと飯を食い、風呂に入って寝る。
そんなふうにして毎日を過ごした。
すでにもう半月、少年はまともに人と会話していない。
その日、少年は山の麓にある草原を、ただなんとなく歩いていた。
ふと、誰かに名前を呼ばれた気がした。
声がしたほうを振り返ると、線の細い、若い男が立っていた。
知らない顔だった。
視線が合うと、男は微笑んだ。
そうして再び、少年の名を口にした。
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