【特別番外編 エピローグ】大好きなご主人様へ……。※オリザ視点

 私の名前はオリザ。


 記憶の中の私はどこか曖昧でふわふわした場所にいた。それについて考えるのをやめたのはいつ頃からだろう。


 とても苦しくて悲しい気持ちのもうひとりの自分。どうして彼女は閉じこもったままなの?


 もうひとりのオリザとは夢の中でしか会うことが出来ないな。でも私は子犬だからむずかしいことはすぐに忘れてしまう。目先の楽しさに夢中になるのは仕方がない。


「オリザ、また歩きません状態モードなのか? もうちょっとでいつもの運動公園だから頑張ってごらん」


 ほら、お散歩中のご主人様が私を呼んでいる。顔を上げてしっかり前をみるんだ。


 天音の作ってくれたカラフルなリードにテンションが掛かり、軽く身体を引っ張られる。お散歩中のご主人様のことををハンドラーと言うんだって。


 オリザがお散歩中に興奮して勝手に走ったりしないようにする飼い主の大切な役目だって。これはしつけの一環だよ。と私に教えてくれた。


「ハンドラーって言うんだ。まるで操り人形みたいでとても可愛い呼び方だね!!」 


 私の言葉にご主人様は優しく微笑みかえしてくれた。


「オリザ、このリードは決して君の自由を奪うために存在しているんじゃない。これは飼い主の僕の責任なんだ」


「せきにん? ご主人様それはいったいどういう意味なの……」


「オリザ、家に犬を迎え入れる行為は安易にしちゃ駄目なんだ。可愛いからっていってもおもちゃとは違う。大事な家族の一員として迎え入れる覚悟が必要なんだ。だからこのお散歩リードは君の安全を守る責任さ」


 私がご主人様の家族!? その言葉に飛び上がるほどの嬉しさを覚えた。おそるおそる聞き返してみる。


「オリザをご主人様の家族ってみとめてくれるの?」


「そんなの当たり前だろ。初めて君と会った夜に部屋で約束したじゃないか。一緒に暮らそうって」


「……ご主人様」


「君の幸せは僕の幸せだから。オリザの無邪気な笑顔をずっと見ていたい。……なんて朝から恥ずかしいせりふを言わせんな。めちゃくちゃ照れくさいから」


 わん、いつもの鳴き声が出ない、大好きなご主人様の言葉に嬉しくて胸の奥がきゅんとなる。この切ない気持ちに名前をつけるとしたら何になるのだろうか。


 この幸せには終わりがあるのかもしれない。だけどいまはそのぬくもりに包まれていたい。


「……ご主人様と出会えて本当に良かった。オリザはもっとおりこうになるから。これからも末永くよろしくね!!」


【特別番外編 おわり】

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