第21話 吸血姫系VTuber、ファンレターを読む
はじめまして。突然のご連絡すみません。わたくしも不死の吸血鬼をやっておりまして、ラキュア・トワイライトさんの動画を初めて見たときは、とても驚きました。
自分と同じような体質を持った方が、退屈故の余興で、という理由でVtuberを始められたというのには、とても興味を引かれました。
ですが、一番心を引かれたのは、貴女がとても毎日楽しそうに配信をされていることです。
貴女は、今を楽しんでいる。
誰かを楽しませる以上に、自分自身が誰よりも楽しんでいる。
そう、配信を見ていて感じます。
それが、とても勝手とは思いますが、同じ不死のわたしからしたら、とても眩しく、誇らしく感じるのです。
わたしも常に、そうあろうと心がけていますが、上手くできているかは分かりません。
そもそもラキュアさんがお生まれになってどれほどの時間が経ったか分かりませんが、不死というのはとても長く、時に孤独を感じさせます。
別れも多く、自分の矮小さに打ち崩れた経験も少なくありません。
けれど、貴女のように前向きに、今を楽しんでいる同胞を見ていると、わたしもひとりぼっちじゃないと胸が熱くなります。
こういう出会いがあればこそ、不死であることも案外悪くないですね。
ラキュアさんと比べれば、ちっぽけなものかもしれませんが、わたしも最近、といってもここ二、三年の話ですが、とても興味深いものに出会いました。
そもそも、その存在とは何百年も前に出会っていたんですが、最近楽しみ方を知ったというか……おかげで、楽しく過ごさせていただいています。
そして、貴女の存在もまた、わたしの今を彩る大切なものです。
きっとわたしには分からない気苦労も多いと思います。ですが、わたしはいつでも貴女を応援しています。
どうか、心身共にお気をつけて……いや、不死だから体は大丈夫って思っているかもしれませんが、本当に、これ死ねないだけのやつだ……って時があるので!
なんて、ラキュアさんはもう乗り越えられているかもしれないので恐縮ですが、その時は若輩者のわたしを笑い飛ばしてやってください。
ただ、これも釈迦に説法というやつかもしれませんが、吸血はほどほどに。現代だと問題になりかねません。
飲まなくても死なないので、案外控えた方が調子も良くなったりしますよ!
すみません、長々と。
ただ、応援していますとお伝えしたかったのです。
そして、最後にはなりますが……もしもラキュアさんに、他に不死の知り合いがいなくて、何か抱えているものがあれば、僭越ながら、いつでも力にならせてください。
貴女がわたしにできないことをやっているように、貴女にできないことをわたしはできるかもしれませんから。
どうか、ご自愛ください。
それでは失礼いたします。
シンク・エルヴァナ
※ご返信不要です。
◇
「…………」
時間を忘れ、何度も、何度もメールを読み返した。
元々弱っていたからかもしれない。
それでも、メールに打ち込まれた文字が、紡ぐ言葉が、彼女の胸の中に何か暖かなものを染み渡らせてくれたのは確かだった。
「しんく」
指先で、その名をなぞる。
本名とは思わないけれど、それが送り主の名前。
「シンク……」
彼女は噛みしめるようにその名を呼ぶ。
男性だろうか、女性だろうか。
文体からは分からないけれど、どんな人か、想像は膨らむ。
不死、なんて話は冗談だろう。
しかし、冗談で流すには少し真に迫るものがあるというか……不思議なリアリティというか、ユーモアを感じた。
とにかく、もっとこの人を知りたいと思った。
だから普段はあまり返さないメールを、この時ばかりは何時間も、寝る間も惜しんで、推敲を繰り返しながらしたためたのだ。
その甲斐もあり、というか、そもそもシンクという送り主は自分のファンだというのだから特に驚く話でもないのだが、とにかく。
二人はそれからちびちびと交友を深めることになり……念願と言うべきか、明日、初めて通話を繋げて、一緒にゲームをする約束をするに至っていた。
◇
(シンクさんも見てくれてただろうになぁ)
風呂から上がっても、彼女の気持ちは晴れなかった。
ラキュア・トワイライトとして、眩しく誇らしいと感じてくれたシンクの言葉が、原動力の一つとなっているのを彼女は自覚している。
これまでもファンの応援に背中を押されてきたし、元気を貰ってきた。
そのひとつだと思えば、大したことはないのかもしれない。
けれど、今の自分は、この縁を大切にしたい。
だから今日も良いところを見せて、明日の約束も楽しい気分で迎えたかった……のだけど。
「はぁ……」
エムオカート。
配信界隈だけでなく世界的に人気なこのゲームが上手くないのは別にいい。今に始まったことではないし。
ただ、悪意を以てか否か、狙い撃ちされるのは精神的にくるものがあった。
しかも、シンクと同じ視聴者から、シンクも見ているであろう場で……というのが、余計につらい。
(もしもシンクさんもそういう人だったらどうしよう)
そんなネガティブなことを考えてしまう自分に嫌悪感を抱きつつ、リビングを通って配信部屋(兼、寝室)に戻ろうとした、その時。
「……え?」
彼女は、背筋を撫でるような悪寒に身を竦めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます